清水幹太さんのブログから、これからの世の中で必要とされる力を考える

みなさまこんにちは。清水葉子です。

12月も半ばとなり、新年を迎える準備に加え、

学校の先生方は入試の準備にお忙しい時期と存じます。

私も気持ちだけは焦る日々を過ごしているのですが、

先日クリエイターの方々が多くシェアされていたあるブログを見て、

とても感銘を受け、その方の過去のブログもついつい読み込んでしまいました。

 

それが、こちら。PARTY NY所属のテクニカルディレクター、清水幹太(Quanta Shimizu)さんが、新しい会社BASSDRUM(ベースドラム)を設立されることを告知されたブログです。

 

www.cbc-net.com

 

 

PARTYという会社は以前から存じ上げていまして、面白いことを次々と行われるかっこいい会社だなあと思っていたのですが、その立ち上げメンバーである清水幹太さんについては、デジタルやプロジェクションマッピングに詳しい方が立ち上げメンバーにいらっしゃるなあ、という知識しかありませんでした。

 

今回の清水さんのブログの中で、テクニカルディレクターというお仕事の具体的内容、また、ディレクターに必要な能力について、詳しく解説をしていただき、また、Webで作品を見せていただき、お仕事について、また、お人柄についても詳しく知ることができました。

 

そこでの内容が、未来の働き方や求められる力につながると感じましたので、言語化を試みたいと思います。

 

ブログでは、テクニカルディレクターの仕事内容の紹介の中で、企画段階から技術のことが分かっているメンバーとしてテクニカルディレクターが入る効果、求められる技術にみあった技術者を連れてくる能力について触れた後、テクニカルディレクターのもうひとつの役割を「翻訳」と定義されています。「企画屋さんの言葉」を「プログラマーの言葉」にするんだそうです。

 

以下、ブログより引用

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たとえば、広告代理店みたいなところで広告企画を考えている人間と、制作会社でプログラムを書いている人間だと、仕事における「萌えポイント」というものがそもそも全然違ったりします。「自分の空想が実現して、多くの人に見て触ってもらえること」にやり甲斐を感じる人と、「チャレンジングな実装要件があって、それを動くようにする過程」に萌える人が一緒に働かなくてはならないときに、そんな二人が直接話しても、全然噛み合わなかったりします。
このへんの「企画者がやりたいこと」を「開発者が萌える仕様」に変換して目的とモチベーションを維持してものづくりを進めるのも、この「翻訳」の仕事です。
ディレクターが「ここはもっと『シュッ!』と動くようにして」みたいな指示を出してきたときに、「ここは0.4秒で30ピクセルくらいの距離をイーズアウトさせよう」みたいな感じに数値に変換して開発に伝える、みたいな文字通りの「翻訳」をするような場合もあります。」

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特に感銘を受けたのは、上記の部分でした。

広告業界にデジタルやモノづくりの要素が入ってきたのは、比較的近年のことです。これまであまり関わることのなかった、いうなれば別言語、別のモチベーションで動いてきた方達が協働するからこそ必要な翻訳作業。それを、清水幹太さんは丁寧にしてこられたのだと思います。

ブログの後半でも、清水幹太さんが言葉にされていますが、この根底にあるのは、相手の仕事に対するリスペクトです。クリエイティブ全体を取り仕切るクリエイティブディレクターが、技術者をリスペクトすることが、仕事の質を高めると、清水幹太さんが書かれていて、これは、これからの時代、全ての業界に通じることだなあと感じました。

 

広告業界だけでなく、時代の変化により、これまで関わりが無かった業界の人たちどうしが協働するケース、これからどんどん増えてくると思います。これまで大企業からのオーダーどおりの生産をしていた町工場が、発注企業の衰退により、自らデザインを発注しものづくりを行う事例などが顕著にみられる例ですが、それ以外でも、海外の企業と直接取引したり、協働する例が増えてくると思います。協働し、新しいものをつくる際に、それぞれの力を最大限に発揮するためには、お互い、相手をよく知ろうとすることと、相手をリスペクトすることであり、これからは、ディレクターだけでなく、技術者も、そういった能力や姿勢を身につけておくことが大切だと思いました。

 

加えて、状況を的確に言語化することも、とても大切です。何より、こうやってご自身の経験や役割を、業界の外の人たちにわかりやすく伝えてくれる清水幹太さんの言葉が、より多くのつながりをつくっていくと思いますし、過去のブログも、誰をターゲットに書かれているかがとてもわかりやすかったです。

 

クリエイティブには、言語化、そして翻訳ともいえるコミュニケーションの力が大切で、それはこれからの時代に生きる全ての人たちに必要とされる力なのではないか、と思います。

 

清水幹太さんのニューヨークでの体験記も、とてもわかりやすく面白いので、ご興味ある方はぜひ。

www.advertimes.com

 

同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその4

こんにちは!清水葉子です。同志社女子大学現代社会学部 現代子ども学科の上田信行先生のゼミを取材させていただきました。

 

取材後の20171123日、ゼミ生のみなさまによるLast projectと題したワークショップがあり、参加をさせていただきました。

 

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会場の都合で写真は掲載できないのですが、とても楽しいカフェ空間と展示、トークタイム、6期生、7期生のみなさんのダンス、参加者でグループをつくってのワーク(私たちはミュージックムービーをつくりました!)、そして全員でのリフレクションなど盛りだくさんの、本当に楽しい5時間でした。準備、運営、本当に大変だったと思いますが、一人ひとりを大切にしてくださる、本当にきめこまやかなおもてなしの空間でした、複雑な進行で機器のトラブルもありましたが、ゼミ生のみなさんがそれぞれの機転で笑顔で乗り切られていました。一生懸命準備してきて、気合が入っているからこそ、現場で何かトラブルがあると、ぴりぴりしてしまうことって、大人の現場でもよくあると思うのですが、それが全くないというのは、参加していて、こんなに心地よいものなんだなあと、感動しました。

 

もうひとつ見習いたいと思ったのは、ゼミ生のみなさんの立ち位置です。個人的な反省ですが、ワークショップの運営って「〇〇をやってください、はいどうぞ!」「できましたかー?」というように、場をコントロールしがちです。でも、今回のワークショップで、ゼミ生のみなさんは「一緒にがんばりましょう!」という立ち位置でした。タイムラインやテーマなどで環境設定をし、その中で参加者と一緒にその場を作り上げる。ゼミ生のみなさんも、心から笑い、本気でジャンプする。場のルールの細かい設定や、伝えたいことのおせっかいな解説もないのですが、ポジティブな雰囲気の中ワークショップが進行し、最後のリフレクションでは、参加者それぞれ持ち帰れるものができている。これが、もう一つの魅力だと感じました。

 

このワークショップには、卒業生で、現在は小学校の先生をされている方達も来られていました。その中のお一人が、「このゼミで学んだ、人を変えることはできないけれども、周りの環境を変えることで、人は変わることがあるということを、現場に出てみて実感した。そして上田ゼミでの学びのスタイルの重要性にあらためて気づき、もっと現場で実践したい」とおっしゃっていて(小学校でもカリキュラムにそういったことを行う時間的余裕が無いという葛藤はあるようですが)、とても心に響きました。

 

私が言葉を尽くしてもなかなかこの空気感まで伝わらないと思います。興味を持たれた方は、ぜひ一度、ワークショップを体験されることを、お勧めいたします!

 

上田先生、日高さん、上田ゼミの学生さん達、お忙しい中お時間をいただき、本当にありがとうございました。

 

↓過去の記事はこちら

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arts.hatenablog.jp

 

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同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその3

こんにちは!清水葉子です。先日、同志社女子大学にうかがい、現代社会学部 現代子ども学科の上田信行先生のゼミを見学させていただきました。前回は、ゼミ長の日高さんのインタビューをご紹介しまた。今回は、上田信行先生に、学びの環境について、また、アートについて、お話をうかがいました。

 

上田信行先生インタビュー

How can we do it?”と”Artistic mindset”が、成長していく人を育てる。

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■上田ゼミの学生さん達のように、主体的に、楽しく、学びに向かっていく人はどうやって育つのでしょうか?

上田先生:大人も子どもも、それぞれが持つ能力観により、大きく2つのグループに分けることができます。1つは、「成長的知能観」つまり知能は成長すると考えていて、努力次第で伸ばしていけると考えるグループ、もう一つは「固定的知能観」つまり知能は伸ばすことができないと考えているグループです。端的に言うと、チャレンジが楽しいと思うか、怖いと思うかですね。固定的知能観の人は、今自分がどれだけ知的かということに価値を置きますから、能力が高かったら示したいし、そうでなければ隠したい。成長的知能観の人は、今の自分の能力より、これからどれだけ勉強して成長できるかどうかに関心があるので、失敗をおそれず、チャレンジする。なのでみんなが成長的マインドセットになって、チャレンジが楽しいと思いだしたら、学びの場は必然的にとても楽しい場になるんです。

 

■固定的マインドセットから成長的マインドセットになるには、どんな環境が必要ですか?

上田先生:まず、自分がどちらのマインドセットを持っているかを認識することがスタートでしょうね。その判定には、自分のアテンションがどこにあるかを確認することが一つのポイントになります。例えばテストで60点をもらった時、気持ちが自分に向かい、60点しか取れなかったとがっかりする子と、どうすればあと40点取れるだろうと気持ちを課題に向ける子がいます。前者が固定的マインドセットの持ち主、後者が成長的マインドセットの持ち主ですね。気持ちの矢印が自分に向いているのか、課題に向いているのか、と言い換えることもできると思います。点が取れなかった時、”fail(あかん)“でなく”not yet(まだ到達してない)“と思うのが、成長的マインドセットです。学生にはもし自分が固定的マインドセットの持ち主だったら、それをメタに見て(俯瞰して)、意識を課題に持っていくようにしなさいと言っています。TKFモデル(つくって、かたって、ふりかえる)は、やってみて、それを俯瞰することで自分の意識の方向を確認し、自分で方向修正するということにも、役立ちます。

固定的マインドセットと成長的マインドセットの違いは、”Can I do it”How can I do it ?”の違いですね。Howで考えると課題に向くんです。そして、”How can we do it?” にすると仲間と一緒に可能性が広がるんです。

 

■成長的マインドセットになるために、一つひとつのプロジェクトにどのくらいの時間をかけると良いですか?

上田先生:tinkering(ティンカリング:いじくりまわす)というキーワードが、今アメリカですごく重視されています。思いついたらすぐにやってみて、ダメだったら修正する。つまり、TKFモデルを毎日のように繰り返すのが良いと思います。日本人は思いや考えに時間をかけて、やってみるまでに時間がかかりすぎだと思います。

やってみるという形で表に出すと、周りから改善のためのコメントをもらえます。今、清水さんと話している間に新しいモデルを思いついたのですが、「さらして、とくして、前に進む(STM)」というモデルはどうでしょうか。こういうポジティブなマインドが必要だと思います。

僕は学生がレポートを提出したら、展覧会をします。せっかく書いたのに、僕しか読まないというのは、もったいないんですよね。学生も含めて全員で見ることで、お互いに学び合えますから。学生にはいつも、人にさらすことを目的にレポートを書くようにと言っています。

 

■以前うかがった上田先生ご講演の中で、デザインは問題解決で、アートは問い、という表現がありました。アートが学びにどう結びつくかについて、もう少しお聞かせいただけますか?

上田先生:アートとは、今ここにある難問を解くというよりも、今まで人があまり考えたことがないことを提案することだと思います。そういう意味で僕は自分がアーティストとしてふるまいたいと思っています。新しいことを投げかけて人をびっくりさせたい、気づいてほしい、と思っているんです。そして僕はアートがこれからの世の中を変えていくエンジンになると思っています。だからこそ学校にアートを持ち込まないといけないと思っていて、それが何かを新しくしていくための原動力のような気がするんです。アートは、刺激的でラディカルな視点をぽーんと投げ込み、みんながざわざわして、これまでのOSをゆさぶるような、新しい刺激を与えるようなものであるべきだと思います。

 

■つまり、考え方やあり方も、アートだということでしょうか。

上田先生:さきほどお話しした「failからnot yetへ」のような価値観の転換、その人が持っている世界観を大きく変えるようなものがアートだと思います。アートというのは自分の限界を超えていくことです。だからこそ、チャレンジするのです。成長的マインドセットを持ち、新しいことにチャレンジし、さらに境界線を越えていく、それを繰り返していくことが、アーティスティックなアプローチかなと思います。それはプレイフルネスと本当によく似ています。プレイフルも、やり方ではなくて、あり方なんですよね「おもしろくしてやろうぜ」みたいな。さきほど、デザインは問題解決で、アートは問いと言いましたが、言い変えると、アートはマインドフルなんです。マインドフルの対義語は、マインドレスなのですが、私たちはふだんつい、「〇〇はこういうもんだ」というように、あまり深く考えないでマインドレスに色々なことを捉えてしまっていると思うんです。でも自分の言葉でもう一度考えてみると、面白い発見ができたりします。マインドフルというのは、心を覚醒させて自分で何かをつくりだすということです。

 

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今回上田先生にお話を伺い、今まで先生のご著書やご講演で伺っていたキーワードを、ひとつながりのものとして理解することができた気がします。

 

自己ではなく、課題に目を向けて、仲間と取り組む。その際、ただ一直線に進むのではなく、TKFを繰り返しながら色々な視点から考え、同時に、既存の考えやものの見方にとらわれず、一つ一つの事柄を自分の言葉でもう一度考える。これが、個人の成長を促し、周りの人たちにも新しい価値観を投げ込むのではないか。そしてそのプロセスそのものがアートと呼べるのではないか、とお話を伺っていて感じました。

 

STEAMの提唱者、ジョン・マエダ氏とも親交が深い上田先生。RISDSTEAMミーティングの第1回にご参加された時、会議の主催者の方が”You have to move.” という言葉を言われたのが印象に残っているそうです。今回上田先生を取材させていただき、行動についても、思考についても、まさに上田先生にぴったりのフレーズだと感じました。

 

上田先生、お忙しいところお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

 

↓続きはこちら

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↓これまでの記事はこちら

 

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同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその2

こんにちは!清水葉子です。先日、同志社女子大学にうかがい、現代社会学部 現代子ども学科の上田信行先生のゼミを見学させていただきました。今回は、ゼミ長の日高さんのインタビューをご紹介します。

 

上田ゼミには現在、3年生と4年生の学生さん達、あわせて27名が在籍され、その活動の中心は学びのワークショップです。全員が参加するものと有志参加のワークショップがあり、年間で合計約40も実施されるというから驚かされます。当然常にプロジェクトが同時進行することになり、取材をさせていただいた11月上旬には、10のプロジェクトが同時進行していました。当然メンバーが重複するのですが、どのように運営されているのでしょうか。ゼミ長の日高さんにそのあたりも含め、上田ゼミの活動について伺いました。

 

ゼミ長 日高愛理さんインタビュー

「たくさんのプロジェクトを丁寧に運営していくことで、自分も、チームも成長します」

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■年間でどのくらいのプロジェクトをされますか?また、対象はどなたが多いですか?

日高さん:希望者対象のものも含め、年間40くらいだと思います。対象は様々で、以前は近くの私立高校でのワークショップが多かったようですが、今は企業や社会人向け、大学の先生方、小学生対象など様々です。

 

■それだけ多いと、プロジェクトメンバーも重なると思うのですが、どのようにプロジェクトを進めているのですか?

日高さん:プロジェクトごとに統括を決めています。現在ゼミ全体でいうと10のプロジェクトが同時進行しているのですが、統括はそれぞれ別の人が担当するようにしています。ただ、プロジェクトメンバーは重なってしまうので、統括がそれぞれの作業、時間配分を見ながらメンバーの動きを管理しています。だいぶ動きが複雑になっていますので、エクセルで全員のプロジェクトをまとめ、日程ごとに誰がどのプロジェクトに関わっているのかを示すようにしました。これにより、だいぶ全体の動きが見えるようになってきました。

 

■プロジェクトは、どんな風に進められるのですか?

日高さん:まず、対象者と目的を明らかにします。その後日にちと場所を決めて、コンセプトを決めていきます。以前は事前準備をあまりせず、ミーティングの場でアイディアを出していたのですが、アイディアって、ミーティングの場で考えているよりも、テレビを見たり、本を読んでいるときに突然インスピレーションが沸いて思いついたりすることが多いので、前提を共有した後、個人で考えてきて、その後みんなでシェア、という順番にしてみたら、コンセプトがまとまりやすくなりましたね。通常ですとここで一度上田先生に方向性の確認をし、具体的な流れを決めていきます。上田ゼミのワークショップには、TKFT:つくって、K:かたって、F:ふりかえる)という、学びを深めるためのフレームがありますので、それにそって流れを決めていくことが多いです。

 

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<「カップス」ワークショップでの1幕>

 

■ワークショップ内の様々な役割は、どのように決められるのですか?

日高さん:2年間一緒に活動していると、それぞれのメンバーの得意分野がわかってきます。記録や編集が得意な人、カフェのような空間をデザインするのが得意な人、ファシリテーションが得意な人など、それぞれの得意分野が分かれているので、それぞれが得意な部分を担うことが多いです。

 

■それぞれの得意分野がわかってくるまでにどのくらいの時間がかかりましたか? 

日高さん:最初は全員で全部の役割を順番に体験していきました。いくつかのプロジェクトを回していく中で、誰が何に向いているかが、自分にも他のメンバーにもわかってきます。ただ好きで得意なことをしていても、別の役割をやってみたいという気持ちが出てくることもあるので、そういう時はその気持ちを尊重し、役割を変えて良いことになっています。

 

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<ディスプレイが得意なメンバーの作品>

 

■上田ゼミではリフレクションを大切にされていますね。リフレクションをやってみて、感じることはありますか?

日高さん:私はもともと、振り返りをあまりしない人間でした。だから、何度も同じような間違いを繰り返してしまうことがありました。そしてその活動内容も忘れやすくなってしまいました。リフレクションをすると、その活動の中にあった意味を考えることができ、それを考えることで記憶に残るということに気が付きました。上田先生はよく「体験を経験にするために振り返りをする」とおっしゃるのですが、ただ体験していることと、経験になることの間に、振り返りがあるんだと思います。

 

■どういう形で振り返りをすることが多いですか?

日高さん:プロジェクトが終わった後、いったん個々人で振り返りを行い、文章化した後、リフレクションミーティングを行います。リフレクションミーティングでは、ワークショップのタイムラインに沿って、順番に振り返ります。例えば一日のプロジェクトだと、最初にダンスを踊ったりするのですが、「あの時成功したのはなんでか」「あれで良かったか」その後カフェがあったら「あの時渋滞したのはなんでだったか」などについて意見を出していきます。また、ワークショップの最後に、参加者の方向けに意味付けをしたりするのですが、そこで「学んできたことが生かせているか」なども考えますね。グループでの振り返りは対話で行っていきます。

 

■ゼミ長として、取りまとめに苦労することはありますか?

日高さん:同じ学年内のメンバーをまとめるのは、会社のように上司、部下の関係性とは違うため、なかなか難しいところがあります。メンバーの温度差はあります。私もそこに悩んで、先日は全員と面談し、状況を確認しました。お互いに状況を確認し、統括としても無駄な時間などはできるだけ減らして、埋められるところは制度的にも対応するから、それ以外のところは自分で価値を見つけてやらないとだめだという話をしました。自分で価値を見つけられるかどうかは、これまでに参加したプロジェクトの数に比例するように感じています。上田ゼミには希望制のプロジェクトもあるのですが、それに積極的に参加する人は、どんどん成長実感を持って進んでいくように思います。

 

■成長実感は、どういう時に感じられるものだと思いますか?

日高さん:いくつもプロジェクトをこなしていると、前はできなかったことができるようになっていることを感じるので、それが成長実感なのかなあと思います。

 

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30名弱のメンバーで、年間40ものワークショップを企画、運営されるのは、本当に大変だと思います。それに一つずつ丁寧に取り組み、毎回リフレクションの時間をきっちりとることで、ゼミ生のみなさんは確実に成長し、またそれを自分でも実感できるんだなあ、と日高さんにインタビューをさせていただき、感じました。

 

上田先生によると、学びには3段階あるそうです。Learning1.0は学習指導(授業)により知識を獲得する学び、Learning2.0は表現活動やものづくりによる学び、Learning3.0は誰かに喜んでもらうために準備をし、パフォーマンスをすることによる学びだそうです。自分のために勉強するよりも、誰かに喜んでもらうためならば人は一生懸命になれるそうで、だから上田ゼミの活動にはLearning3.0が多く含まれている、ということでした。

 

その中で日高さんのように成長実感を感じられるかのポイントは「自分ごと」にできるかどうかにあるそうです。その活動に意味を見出せず、自分ごとになっていない場合はやる気が出ない。そういう時には上田先生は根性論ではなく「活動に自分なりの意味を持って関わって」と伝えるそうです。その意味は人によって違ってもよく、それがぴったりくると、自分のためにやっているという意識になり、だんだんと本気になるそうです。ゼミ内にたくさんのプロジェクトがあるということは、ゼミ生がそれぞれの意味を見出すためのたくさんのチャンスがあるということでもありますね。また、忙しい中でもそれぞれが自身の役割を楽しそうにこなしているのは、「自分にとっての意味」を見つけた学生さん達がたくさんいらっしゃるから、なのかもしれません。

 

日高さん、ワークショップの準備でお忙しい中、お話を聞かせていただき、ありがとうございました!

  

↓前回の記事はこちらです。

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↓つづきはこちらです。

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同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその1

こんにちは!清水葉子です。先日、秋の風景が美しい、同志社女子大学京田辺キャンパスにうかがい、現代社会学部 現代子ども学科の上田信行先生のゼミを見学させていただくとともに、上田先生、ゼミ長の日高さんにインタビューをさせていただきました。これから3回にわたり、掲載させていただきます。

 

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現代子ども学科は、所定科目の単位を修得することで、小学校教諭一種免許状、幼稚園教諭一種免許状、保育士などの資格が取得できるほか、社会環境、学習環境、心理など、子どもに関連する事柄を幅広く学べる学科です。中でも上田ゼミは、学習環境デザインをテーマとし、多くの実践を通して学習環境について考え、試行錯誤できるゼミとなっています。子ども達が主体的に学び、成長するには、どんな環境が必要なのかということを色々な角度から教えていただくとともに、アートと教育の関係についてもうかがいました。

 

お話を伺った上田信行先生

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4年生でゼミ長の日高愛理さん

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上田ゼミの学びの環境

こちらが、上田ゼミや上田先生の授業で主に使用されるスタジオです。

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ガラス貼りになっていて、廊下からも良く見えるのですが、うかがう際に、もう外から見て、他の教室と全然違う雰囲気を感じました。そして一歩踏み入れると、何か面白いことが起こりそうなわくわくした雰囲気が、部屋中にあふれています。化粧板が貼られていない黒く塗られた天井、ダウンライト、フローリング、中央に吊り下げられた旗や壁の装飾、キャスターがついた机と椅子などが、その理由なのでしょうか。まだ他にも何かありそうです。

 

この場所では、授業、ゼミ生の打ち合わせ、作業、ワークショップなど、様々な活動が行われています。また、空間設計は、上田先生が自ら行われています。

 

↓こちらが、3年生対象の動画編集の授業風景です。

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↓こちらが、市内の幼稚園、保育所の先生対象のワークショップの様子です。

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写真を撮り忘れてしまいましたが、この部屋の反対側の面には、中2階の高さのフロア「メタフロアー」があり、そこに上るとこの部屋「経験のフロアー」全体を少し上から見渡せるようになっています。例えば何か創作活動を行う際、経験のフロアーで個人もしくはグループで表現に没頭します。一度手をとめて、メタフロアーに上がり、今までしていた活動を別の視点から見つめることで、リフレクションが行えるという構成です。これらの活動を想定してつくられた空間はとても使いやすい環境でしょうが、いわゆる普通教室でも可能だと、上田先生はおっしゃいます。「例えばメタフロアーがなくても、全員が立ち上がれば目線が変わり、メタ認知がしやすくなりますよね。机や椅子を端に寄せればスタジオになりますし、個人作業の空間も、例えば簡単に段ボールでつくることもできると思うんです。うちのゼミでは卒業後先生になる学生も多くいますが、大学でこのような空間を経験しておくことで、先生になった時に、自分の手で工夫ができるようになるのです(上田先生)」

 

そしてこの楽しくわくわくする雰囲気を作り出しているのは、なんとってもそこにいる学生さん達です。うかがった日も、ワークショップの準備で本当にお忙しそうだったのですが、殺伐とした雰囲気は一切なく、取材させていただいた私たちにも、途中見学にこられた高校生の生徒さん達にもさわやかにあいさつし、終始にこやかに対応してくださいました。色々な学校を見学させていただいていますが、ここまでオープンであたたかな対応をしていただいたのは、初めてです。

 

↓つづきはこちら 

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空間を選び取る力が育つ、交流の場―甲南大学 iCommons その3

みなさまこんにちは!清水葉子です。

過去2回のブログでご紹介をしました、甲南大学KONAN INFINITY COMMONS(iCommons)について、引き続きご紹介をしてまいります。まずは、前回の学生ラウンジに加え、予約が必要ではありますが、全ての学生さん達が使える施設のご紹介です。館内にはスタジオ、キッチン、アトリエ(木工室 !)トレーニングルーム、音楽練習室などがあります。

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 これらは、予約をすれば特定の部活動に所属していなくても、個人やグループで使用できるそうです。アトリエには3Dプリンタもあり、うらやましい!

 

そして、3階、4階には、文化会の部室があります。

「以前この場所にあった部室のほうが1室ずつが広く、そのためにミーティングも部室の中で行われるなど、部屋の中で活動が完結してしまっていました。iCommonsの建設にあたり、部室を15平米ほどに狭くして、その代りに共用で作業や打ち合わせに使えるスペースをたくさん設け、スペースをシェアできるようにしました。そうすることで学生の動きも変わってき各部の活動が外部から見えやすくなりましたね。また、各部屋にディスプレイができる家具を設けることで、活動内容を見えやすくしました(小幡課長)」

 

↓部室フロアです。奥に見えるのが部室(部屋ごとに色が変えられています)各部の個性が出ていますね。

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↓鉄道研究部のディスプレイには、なにか思い入れがありそうです。

 

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↓部室の外側にもラウンジがあり、自由に使うことができます。左手に見えるのはミーティングルームです。 

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このようにカラフルで楽しそうな雰囲気であれば、部活に所属している人以外でも足を踏み入れやすく、活動の様子もわかりそうですね。

 

地下1階にはホールもあり、部の発表などにも使えるそうです。

 

全ての場所はご紹介できませんでしたが、アゴラを囲むようにつくられたシンプルな構造の中に、様々な空間が準備されていることを、ごらんいただけたと思います。思い思いに過ごす場に加え、展示スペースや、ホールなど、発表の場も多く設けられているのが印象的でした。学生さん達は、様々な目的でこの場所を訪れ、場所を使いこなしていくことで、活動目的や気持の状態に適した空間を選び取る力がついてくるのではないかな、と、見学をさせていただいて感じました。TSUTAYAさんやキャリアセンターの企画に加え、iスタッフという、教職員、学生の有志によるグループの企画もあるそうです。

11月の予定はこちら

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これからどのようにこちらの施設が使いこなされていくのか、楽しみです。

 

iCommonsが紹介されているページはこちらです。

ch.konan-u.ac.jp

 

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空間を選び取る力が育つ、交流の場―甲南大学 iCommons その2

みなさまこんにちは!清水葉子です。

ちょっと間が空いてしまいましたが、先日のブログでご紹介をしました、甲南大学KONAN INFINITY COMMONS(iCommons)について、引き続きご紹介をしてまいります。先日ご紹介しましたiCommonsの中心となる場所、アゴラのある1階からツアーを再開します。

アゴラの舞台部分からつながる両側の部分および裏側は、ちょうどコの字型に食堂となっています。

こちらが北側部分(Hirao Dining Hall North)、大空間ではなく、少しずつブースで区切られています。打ち合わせをしながら食事をするのにもよさそうですね。

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こちらは西側部分(Hirao Dining Hall West)。のれんをくぐると居酒屋風?の空間が広がっています。靴も脱いでリラックスできそうです。

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こちらは南側部分(Hirao Dining Hall South)。

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柱ごとに空間を借りることができ、パーティーなども可能ですし、上部からパネルをつるすことで展示することもできるそうです。食事をするだけでも、色々な空間が選べるって、いいですね。

 

iCommonsには、食堂だけでなく、もっとたくさんの「選べる空間」があります。

館内には、学生ラウンジがいくつもあり、家具や空間の大きさ、床の色も少しずつ変えられています。予約は必要ないので、その日の気分で過ごす場所を決めるのも楽しそうですね。

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TSUTAYAブックカフェ、カフェ&バーPRONTOの2つのカフェもあります。

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(つづきます)

 

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