同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその3

こんにちは!清水葉子です。先日、同志社女子大学にうかがい、現代社会学部 現代子ども学科の上田信行先生のゼミを見学させていただきました。前回は、ゼミ長の日高さんのインタビューをご紹介しまた。今回は、上田信行先生に、学びの環境について、また、アートについて、お話をうかがいました。

 

上田信行先生インタビュー

How can we do it?”と”Artistic mindset”が、成長していく人を育てる。

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■上田ゼミの学生さん達のように、主体的に、楽しく、学びに向かっていく人はどうやって育つのでしょうか?

上田先生:大人も子どもも、それぞれが持つ能力観により、大きく2つのグループに分けることができます。1つは、「成長的知能観」つまり知能は成長すると考えていて、努力次第で伸ばしていけると考えるグループ、もう一つは「固定的知能観」つまり知能は伸ばすことができないと考えているグループです。端的に言うと、チャレンジが楽しいと思うか、怖いと思うかですね。固定的知能観の人は、今自分がどれだけ知的かということに価値を置きますから、能力が高かったら示したいし、そうでなければ隠したい。成長的知能観の人は、今の自分の能力より、これからどれだけ勉強して成長できるかどうかに関心があるので、失敗をおそれず、チャレンジする。なのでみんなが成長的マインドセットになって、チャレンジが楽しいと思いだしたら、学びの場は必然的にとても楽しい場になるんです。

 

■固定的マインドセットから成長的マインドセットになるには、どんな環境が必要ですか?

上田先生:まず、自分がどちらのマインドセットを持っているかを認識することがスタートでしょうね。その判定には、自分のアテンションがどこにあるかを確認することが一つのポイントになります。例えばテストで60点をもらった時、気持ちが自分に向かい、60点しか取れなかったとがっかりする子と、どうすればあと40点取れるだろうと気持ちを課題に向ける子がいます。前者が固定的マインドセットの持ち主、後者が成長的マインドセットの持ち主ですね。気持ちの矢印が自分に向いているのか、課題に向いているのか、と言い換えることもできると思います。点が取れなかった時、”fail(あかん)“でなく”not yet(まだ到達してない)“と思うのが、成長的マインドセットです。学生にはもし自分が固定的マインドセットの持ち主だったら、それをメタに見て(俯瞰して)、意識を課題に持っていくようにしなさいと言っています。TKFモデル(つくって、かたって、ふりかえる)は、やってみて、それを俯瞰することで自分の意識の方向を確認し、自分で方向修正するということにも、役立ちます。

固定的マインドセットと成長的マインドセットの違いは、”Can I do it”How can I do it ?”の違いですね。Howで考えると課題に向くんです。そして、”How can we do it?” にすると仲間と一緒に可能性が広がるんです。

 

■成長的マインドセットになるために、一つひとつのプロジェクトにどのくらいの時間をかけると良いですか?

上田先生:tinkering(ティンカリング:いじくりまわす)というキーワードが、今アメリカですごく重視されています。思いついたらすぐにやってみて、ダメだったら修正する。つまり、TKFモデルを毎日のように繰り返すのが良いと思います。日本人は思いや考えに時間をかけて、やってみるまでに時間がかかりすぎだと思います。

やってみるという形で表に出すと、周りから改善のためのコメントをもらえます。今、清水さんと話している間に新しいモデルを思いついたのですが、「さらして、とくして、前に進む(STM)」というモデルはどうでしょうか。こういうポジティブなマインドが必要だと思います。

僕は学生がレポートを提出したら、展覧会をします。せっかく書いたのに、僕しか読まないというのは、もったいないんですよね。学生も含めて全員で見ることで、お互いに学び合えますから。学生にはいつも、人にさらすことを目的にレポートを書くようにと言っています。

 

■以前うかがった上田先生ご講演の中で、デザインは問題解決で、アートは問い、という表現がありました。アートが学びにどう結びつくかについて、もう少しお聞かせいただけますか?

上田先生:アートとは、今ここにある難問を解くというよりも、今まで人があまり考えたことがないことを提案することだと思います。そういう意味で僕は自分がアーティストとしてふるまいたいと思っています。新しいことを投げかけて人をびっくりさせたい、気づいてほしい、と思っているんです。そして僕はアートがこれからの世の中を変えていくエンジンになると思っています。だからこそ学校にアートを持ち込まないといけないと思っていて、それが何かを新しくしていくための原動力のような気がするんです。アートは、刺激的でラディカルな視点をぽーんと投げ込み、みんながざわざわして、これまでのOSをゆさぶるような、新しい刺激を与えるようなものであるべきだと思います。

 

■つまり、考え方やあり方も、アートだということでしょうか。

上田先生:さきほどお話しした「failからnot yetへ」のような価値観の転換、その人が持っている世界観を大きく変えるようなものがアートだと思います。アートというのは自分の限界を超えていくことです。だからこそ、チャレンジするのです。成長的マインドセットを持ち、新しいことにチャレンジし、さらに境界線を越えていく、それを繰り返していくことが、アーティスティックなアプローチかなと思います。それはプレイフルネスと本当によく似ています。プレイフルも、やり方ではなくて、あり方なんですよね「おもしろくしてやろうぜ」みたいな。さきほど、デザインは問題解決で、アートは問いと言いましたが、言い変えると、アートはマインドフルなんです。マインドフルの対義語は、マインドレスなのですが、私たちはふだんつい、「〇〇はこういうもんだ」というように、あまり深く考えないでマインドレスに色々なことを捉えてしまっていると思うんです。でも自分の言葉でもう一度考えてみると、面白い発見ができたりします。マインドフルというのは、心を覚醒させて自分で何かをつくりだすということです。

 

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今回上田先生にお話を伺い、今まで先生のご著書やご講演で伺っていたキーワードを、ひとつながりのものとして理解することができた気がします。

 

自己ではなく、課題に目を向けて、仲間と取り組む。その際、ただ一直線に進むのではなく、TKFを繰り返しながら色々な視点から考え、同時に、既存の考えやものの見方にとらわれず、一つ一つの事柄を自分の言葉でもう一度考える。これが、個人の成長を促し、周りの人たちにも新しい価値観を投げ込むのではないか。そしてそのプロセスそのものがアートと呼べるのではないか、とお話を伺っていて感じました。

 

STEAMの提唱者、ジョン・マエダ氏とも親交が深い上田先生。RISDSTEAMミーティングの第1回にご参加された時、会議の主催者の方が”You have to move.” という言葉を言われたのが印象に残っているそうです。今回上田先生を取材させていただき、行動についても、思考についても、まさに上田先生にぴったりのフレーズだと感じました。

 

上田先生、お忙しいところお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

 

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