課題解決型学習から得られるものは何か 品川女子学院「子宮頸がんかるた」プロジェクトで見えたもの

前々回のブログでご紹介した「未来の学校」で提唱されている、グループで課題解決に取り組む学びの手法は、今は色々な学校で取り入れられています。中でも、いち早くPBLに取り組まれているのが、東京都品川区にある品川女子学院です。28歳の自分を思い描き、それを実現するためには何が必要か、どう行動すべきかを模索し、理想とする未来に向かっていく「28project」でも、グループで課題に取り組む場面が多くありますし、高校1年生、2年生は文化祭の模擬店を「株式会社」として起業するプロジェクトもあります。そして、高校2年生は約半年を使ってCBL(Challenge Based Learning)に取り組みます。

先日、そのCBL担当の先生と、学年代表グループに選ばれた生徒さんたちにインタビューさせていただく機会を得ました。プロジェクトがどのようなプロセスで進められたのか、生徒さんたちがどのようにテーマに向き合ったのかについて、ご紹介いたします。
***
CBL(Challenge Based Learning)について:5年生(高校2年生)の家庭科で行われる、課題解決型の授業。家庭科と総合の授業時間を使って行われ、数名のグループで活動する。内容は、身近な課題を見つけて調査をし、解決策を見つけて実行に移すというもの。4月から(2020年は5月から)テーマ決めをして活動を進める。「自分ごとであり、社会課題でもある」というテーマのもと、グループごとに自分たちで課題を設定する。グループに1名、メンターの先生がついて内容や進め方について相談できるようになっている。
***

インタビューさせていただいたのは、家庭科の丸山先生、子宮頸がんをテーマとしたプロジェクトに関わられた、高校3年生の遠藤さん、工藤さん、齊藤さん、森田さんです(プロジェクトスタート時は2年生)。


こちらのグループでは子宮頸がんとその予防、早期発見をテーマに課題設定と解決方法の検討が進められました。子宮頸がんの原因とされるヒトパピローマウイルス(16型や18型など)には、一定の効果があるとされるワクチン(HPVワクチン)があるのですが、日本ではいくつかの理由で接種は進んでおらず、世代によってはワクチンの認知度自体もとても低くなっているそうです。

 

子宮頸がんをテーマとして選んだのは、自分ごととして考えられ、かつ、社会課題でもある、というテーマ案をグループ内でいくつか挙げていく中で、出てきたものだそうです。案を出したのはメンバーの工藤さんで、お母さまからHPVワクチンのことを聞いたのがきっかけだそうです。調べてみると、現在日本でのHPVワクチンの接種率はとても低く、ワクチンの存在自体を知らない若者もたくさんいる、ということがわかり、グループの全員がこの状況を変えたいと思うようになったそうです。

 

まずは2次情報の収集でテーマを掘り下げる

CBLは、高校2年生の約半年間を通して行われます。各グループにある程度進め方は任されているそうですが、テーマを決めた後、まず2次情報を集め(2次情報の収集は夏休みが終わる頃まで)、その情報を分析し、解決策を考え、実行に移していく、という形で進めていきます。遠藤さん達のグループでも、インターネット、新聞記事、書籍、論文からたくさんの情報を集めました。かなりたくさんの資料が集まったので、手分けして読み込み、その要約をミーティングで報告しあったそうです。また、学校内でアンケートを実施し、(中学2年~高校2年生に実施)、子宮頸がん、子宮頸がんワクチン、子宮頸がん検診についての認知度をそれぞれ調査したところ、全般的にあまりよく知られておらず、特に子宮頸がんワクチンについては認知度が低いことがわかりました。

 

f:id:yShimizu:20210517173336j:plain

校内アンケートの結果(回答者母数は 子宮頸がん:117名、 ワクチン:129名 、検診:153名)

 

インタビューでさらに深く知る

次にグループは子宮頸がんの予防について活動をされている方たちにインタビューを行っています。メンバーで手分けしてアポイントを取り、インタビューの設定、進行も分担して行いました。NPO法人の方、医療従事者の方、助産師さん、患者の会など様々な立場やスタンスで活動をされている方たちに話を聞くうち、資料では見えてこなかった点に気が付いたそうです。

 

「最初は、自分自身も子宮頸がんのことをよく知らず、どちらかというと授業のためにプロジェクトを進めるという姿勢でしたが、インタビューで、実際に子宮がんをわずらった方にその経験をうかがい、心が動かされ、この問題への認識を新たにすることができました(齊藤さん)」

「私はテーマを出した立場としてある程度この病気について問題意識はあったのですが、インタビューをしていてより深く知ることができましたし、同時に問題の深刻さにも気が付くことができました。特にワクチンに関しては意見が大きく2つに分かれ、そのどちらの立場も理解することができました(工藤さん)」

「私も子宮頸がんについてよく知りませんでしたが現場の方の声を聞くことで、問題を認識することができましたし、調査を進める中で、接種率などのデータを見て、日本だけでなく、世界の状況にも意識を向けられるようになりました。これをきっかけに、他の話題についても、情報の見方が変わりました(森田さん)」

「校内アンケートの結果からも認知度の低さは感じてはいたのですが、インタビューを通して、これらの情報については大人から伝える活動は広がっているものの、私たち中高生にはその活動すら伝わっていないということ、中高生が主体となって行っている活動もほとんどないことに気が付きました(遠藤さん)」

インタビューでは知識はもちろん、生徒さんたちが当事者一人ひとりの納得、不安、それぞれの立場の方への理解や共感など、気持ちを理解し、同時に生徒さんたちの感情が動いたということがよくわかります。そして何よりメンバー一人ひとりの、この問題の自分ごと化が進んだようです。

 

方針を固め、実行へ

資料集め、アンケート実施、インタビューを通し、子宮頸がんとその予防については、様々な考え方、そして特にワクチンについてはメリットとデメリットがあることに気づいた生徒さんたちは、だからこそ、個々人がしっかりと情報を得て、自分で決めることが大切だとあらためて感じます。そして、

1.HPVワクチンのメリットとデメリットを中高生にしっかりと伝える
2.子宮頸がんの定期健診を勧める(20歳以降)
3.私たち高校生が中高生に伝えるために、学校という場を使って伝える

という方針を決め、具体的に検討を開始し、保健体育の授業で使用する「子宮頸がんかるた」を授業で実施するための資料やスライドをつけた授業キットを制作し、自校の保健の授業で実施、さらに全国の中高に広げるための動きを現在も続けられています。
※かるたの詳細については、私学妙案研究所newsをご覧ください

s-goodidea.hatenablog.com

 

f:id:yShimizu:20210517173929j:plain

 

これからの展開もとても楽しみなプロジェクトですが、ここまでのお話でも、プロジェクトを通して生徒さんたちが大きく成長された様子がよくわかりました。

 

プロジェクト型学習で得られたもの

CBLは家庭科の授業として行われているため、評価がつけられます。また、約半年で解決策までをつくりあげるという1つのゴールがあります。生徒さんたちにインタビューさせていただく中で、テーマ設定からかるた制作まで、ゴールとそのために使える時間(期間)をきちんと意識して動いていることと感じました。その一方、特に子宮頸がんの予防について活動をされている方たちにインタビューを実施した後、生徒さんたちの意識が変わり「私たちが伝えなくては」というモードになっていったのが、印象的でした。授業だから、課題だから、ではなく、スタートは授業だったかもしれないけれど、調べていくうちに自分ごとになっていく、その過程が素晴らしいと感じました。

 

また、検討の過程でも、作業の過程でも、生徒さんたちがグループで動くことを強く意識されていると感じました。遠藤さん、工藤さんは、これまでも校内の様々なプロジェクトに参加し、まとめ役を担う中で、グループでプロジェクトを進める難しさも経験してきたそうです。それを踏まえ、遠藤さんはリーダーが抱え込みすぎず、メンバーに役割をふってうまく進めていくことを意識したそうです。また工藤さんは、自分のこれまでのリーダーの経験から、自分がリーダーだったらしてほしかった役割を進んでやるようにするなど、それぞれが能力を生かす体制ができていると感じました。

 

1年間という長い時間、グループで1つのテーマに向き合っていくというのは、大変なことだと思います。でも様々な経験をしながら、それぞれが知識、協働する力、スキルを伸ばしていく様子がインタビューから感じられ、素晴らしいと感じました。
また、校内発表にとどまらず、外部のコンテストでプレゼンをしたり、かるたのリニューアルに取り組んだりと、こちらのプロジェクトは今も続いています。今後の展開も、とても楽しみです。

 

f:id:yShimizu:20210517174319j:plain

CBLの授業を担当されている丸山先生と、「子宮頸がんかるた」プロジェクトのみなさん。外部のコンテストの全国大会出場を記念した盾とともに。