横浜みなとみらいにリニューアルオープンした「ファブラボみなとみらい」での新しい学び

2021年4月に2021年4月、みなとみらいに神奈川大学の「みなとみらいキャンパス」がオープンしました。とても明るく開放的なキャンパスで、特に1階は、レストラン、カフェ、図書館などがあり、学生だけでなく、一般の方も利用できるそうです。

 

その開放的なエリアにある「ファブラボみなとみらい」に伺いました。以前湘南平塚キャンパスにあった「ファブラボ平塚」が名前を変えてこちらに移転、スペースも設備もさらに充実してのリニューアルオープンです。

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神奈川大学みなとみらいキャンパス

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3Dプリンターはなんと20台以上!!

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レーザーカッターのコーナー

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専用の防音室内に設置されたCNCマシン(国内のファブラボでは最大級)

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大型プリンター、工具なども充実

ファブラボみなとみらい主催者で、神奈川大学経営学部 国際経営学科 准教授の道用大介先生に、お話を伺いました。

 

みなとみらいキャンパスだから実現した2つの新しい授業

-みなとみらいキャンパスだからできるようになったことはありますか

道用先生:2016年に「ファブラボ平塚」を開設してから、湘南藤沢キャンパスで、商品企画設計論、デジタルファブリケーションの演習の授業をしてきました。国際経営学科という、文系の学生たちがモノづくりに関わることで、アイディアを形にできるようになることを目的とした授業です。商品企画設計論は約200名の学生が受講し、CADを使って3Dモデリングを行っていましたが、ファブラボの機械数が今よりも少なかったので、デジタルファブリケーションの演習は10名前後の少人数での実施にとどまっていました。しかし、2021年度よりみなとみらいキャンパスでスタートした「デジタルファブリケーション」の授業では、50人全員がファブラボの機械を使うことが可能です。

 

また、文化人類学、経営工学、マーケティングの教員が指導する分野横断型のプログラム「X-BUSINESS プログラム」でもファブラボが試行錯誤の場として重要な機能を果たします。

 

デジタルファブリケーション(1年後期)

3Dプリンターなどのデジタル工作機器を利用した造形技術を学び、2年生以降でのプロトタイピングの基礎的な素養を身につけます。

 

X-BUSINESSプログラム(1年~3年)

文化人類学、経営工学、マーケティングの先生方が指導する分野横断型のプログラムです。社会課題、テクノロジー、デザイン、ビジネスについて総合的に学び、探究することで、社会に存在する問題に目を向け、解決のためのアイディアの具現化を目指します。詳しくはこちら 

 

ビジコンのプラン、それでいいの?からスタートした分野横断型プログラム

-X-BUSINESSプログラムについて教えてください

道用先生:経営学部の学生はきれいなビジネスモデルをつくりたがる傾向にあります。ビジコン(大学生対象のビジネスプランコンテスト)に出される作品を見ていても、既視感のあるプランや、いざ実行しようとすると、予算に全く見合わなかったり、最初からたくさんの人や専門家が必要で、全然現実的ではないものが多いと感じていました。学生たちが大学を卒業して社会に出てすぐ、予算も人も必要な大きなプロジェクトに関われることも稀でしょうから、目指すところは大きかったとしても、まず自分たちで動ける範囲で実現できるモデルをつくれることが、とても大事だと感じてきました。

 

X-BUSINESSプログラム(以下XBP)では、経営を「どうやってお金を稼ぐか」ではなく、「アイディアをどうやったら続けていけるか、その仕組みを考えること」と位置付けています。そのためには、自分が情熱をかたむけてやりたいと思うことを見つけ、それを実現するための感性と態度を持っていることが必要なので、それをこのプログラムで育てていきます。

 

学生たちには、きれいなビジネスプランをつくるより前に、まず自分は何がしたいのか、何ができるのかを考え、自分のやりたいことを継続できる社会を作っていけるようになってほしいです。

 

そのためにはまず、身近な人の話をしっかり聞き、解決の道筋をつけて、それを自分の持っている技術で形にできるようになることが大切です。それができれば、予算も人も潤沢ではないプロジェクトで、真っ先に自分が動かなくてはならないような状況でも、思考停止に陥らず、自分で考えて動き、置かれた状況に関わらずアイディアを形にしていけるはずです。

 

-X-BUSINESSプログラムでデジタルファブリケーションが果たす役割は何ですか

道用先生:XBPではプログラミング、デジタルファブリケーションについて学びます。これは、試行錯誤の力を育てるとともに、アイディア実行における技術的な部分をブラックボックス化しないためでもあります。これからはどんなビジネスもデジタルとは無縁ではいられません。アイディア実現の段階で、デジタル部分は全て専門家にお任せ、となってしまうと、専門家のスキルに大きく影響を受け、なかなか良い協働ができないですよね。自分たちがある程度知識や技術を持っていて、その上で、より複雑な、専門性の高い部分は専門家にまかせる、という形を取れるようになることが理想です。

 

試行錯誤の力については以前もお話しした通りですが、アイディアを自分の手で形にしてみることで、より実現可能な、オリジナリティの高いものになっていきます。プログラミングもモデリングも、自分がやりたいことがあれば、必要な技術は身につくものです。例えばプログラミングの基本を1時間学べば、誰でも簡単なオリジナルゲームをつくれるようになりますよ。そういう学びの体験は、スモールステップを積み重ねてアイディアを実現していく訓練にもなっています。

 

予約なしでさくさく使える環境で、アイディア、思考を止めない

-新しいファブラボの利用状況はいかがですか

道用先生:ラボには、3Dプリンタ、レーザーカッター、CNC(木などを削り出せる機械)、工具などがそろっていて、学生は予約なしで自由に使えます。デジタルファブリケーションの授業を受けている学生が課題の制作のために頻繁に訪れていますし、他の学部の生徒も、利用しています。平日は時間帯によってはかなり混み合いますね。

ラボに置いてあるレーザーカッターはかなりスピードが速いですし、3Dプリンターも20台以上ありますので、学生たちもストレスなく使えていると思います。アイディアを形にする段階で、機械のスピードはとても大切です。

 

ファブラボ平塚を立ち上げた頃は、学生たちは機械を使うことが目的になっているような雰囲気もありましたが、最近は、自分たちがやりたいことを実現するために、ラボの機械が手段の1つになっている。という印象を受けます。それこそ本来の姿だと思いますね。また、ラボの機械は試作のためだけでなく、それ自身が製品になるくらいのクオリティも持っています。最近ゼミでつくった仕組みは、クリップやアクセサリーなど、他の誰かがデザインしたものの中から、気に入ったものを選ぶと、それが自分の3Dプリンタでプリントできるというもの。近い将来、こういった形でアクセサリーや小物が購入できるようになるかもしれません。学生さん達がつくった動画はこちらです。

 

新型肺炎等の蔓延状況次第ですが、今後、土曜日を中心に、一般の方にも開放していこうと思っています(利用料がかかります)。スタートアップや協働プロジェクトの拠点になってくれたら嬉しいですね。本学の社会連携センター(自治体、企業等団体、小中高校・他大学、地域住民などあらゆるステークホルダーとの連携の総合窓口)と連携し、様々な取り組みをしていく予定です。

 

道用先生の過去のインタビューはこちら

arts.hatenablog.jp

arts.hatenablog.jp

 

道用先生、お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございました。

2年前にファブラボ平塚にお伺いしたときからさらに授業も設備も進化していてびっくりしました。

 

そしてXBPの、アイディアを形にする力をつける話、深く共感しました。机上の空論に終わらせず、実現したい姿と手元のギャップを埋めて一歩ずつつめていける力、本当に大事ですね。これからの展開が楽しみです。(清水)