横浜みなとみらいにリニューアルオープンした「ファブラボみなとみらい」での新しい学び

2021年4月に2021年4月、みなとみらいに神奈川大学の「みなとみらいキャンパス」がオープンしました。とても明るく開放的なキャンパスで、特に1階は、レストラン、カフェ、図書館などがあり、学生だけでなく、一般の方も利用できるそうです。

 

その開放的なエリアにある「ファブラボみなとみらい」に伺いました。以前湘南平塚キャンパスにあった「ファブラボ平塚」が名前を変えてこちらに移転、スペースも設備もさらに充実してのリニューアルオープンです。

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神奈川大学みなとみらいキャンパス

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3Dプリンターはなんと20台以上!!

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レーザーカッターのコーナー

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専用の防音室内に設置されたCNCマシン(国内のファブラボでは最大級)

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大型プリンター、工具なども充実

ファブラボみなとみらい主催者で、神奈川大学経営学部 国際経営学科 准教授の道用大介先生に、お話を伺いました。

 

みなとみらいキャンパスだから実現した2つの新しい授業

-みなとみらいキャンパスだからできるようになったことはありますか

道用先生:2016年に「ファブラボ平塚」を開設してから、湘南藤沢キャンパスで、商品企画設計論、デジタルファブリケーションの演習の授業をしてきました。国際経営学科という、文系の学生たちがモノづくりに関わることで、アイディアを形にできるようになることを目的とした授業です。商品企画設計論は約200名の学生が受講し、CADを使って3Dモデリングを行っていましたが、ファブラボの機械数が今よりも少なかったので、デジタルファブリケーションの演習は10名前後の少人数での実施にとどまっていました。しかし、2021年度よりみなとみらいキャンパスでスタートした「デジタルファブリケーション」の授業では、50人全員がファブラボの機械を使うことが可能です。

 

また、文化人類学、経営工学、マーケティングの教員が指導する分野横断型のプログラム「X-BUSINESS プログラム」でもファブラボが試行錯誤の場として重要な機能を果たします。

 

デジタルファブリケーション(1年後期)

3Dプリンターなどのデジタル工作機器を利用した造形技術を学び、2年生以降でのプロトタイピングの基礎的な素養を身につけます。

 

X-BUSINESSプログラム(1年~3年)

文化人類学、経営工学、マーケティングの先生方が指導する分野横断型のプログラムです。社会課題、テクノロジー、デザイン、ビジネスについて総合的に学び、探究することで、社会に存在する問題に目を向け、解決のためのアイディアの具現化を目指します。詳しくはこちら 

 

ビジコンのプラン、それでいいの?からスタートした分野横断型プログラム

-X-BUSINESSプログラムについて教えてください

道用先生:経営学部の学生はきれいなビジネスモデルをつくりたがる傾向にあります。ビジコン(大学生対象のビジネスプランコンテスト)に出される作品を見ていても、既視感のあるプランや、いざ実行しようとすると、予算に全く見合わなかったり、最初からたくさんの人や専門家が必要で、全然現実的ではないものが多いと感じていました。学生たちが大学を卒業して社会に出てすぐ、予算も人も必要な大きなプロジェクトに関われることも稀でしょうから、目指すところは大きかったとしても、まず自分たちで動ける範囲で実現できるモデルをつくれることが、とても大事だと感じてきました。

 

X-BUSINESSプログラム(以下XBP)では、経営を「どうやってお金を稼ぐか」ではなく、「アイディアをどうやったら続けていけるか、その仕組みを考えること」と位置付けています。そのためには、自分が情熱をかたむけてやりたいと思うことを見つけ、それを実現するための感性と態度を持っていることが必要なので、それをこのプログラムで育てていきます。

 

学生たちには、きれいなビジネスプランをつくるより前に、まず自分は何がしたいのか、何ができるのかを考え、自分のやりたいことを継続できる社会を作っていけるようになってほしいです。

 

そのためにはまず、身近な人の話をしっかり聞き、解決の道筋をつけて、それを自分の持っている技術で形にできるようになることが大切です。それができれば、予算も人も潤沢ではないプロジェクトで、真っ先に自分が動かなくてはならないような状況でも、思考停止に陥らず、自分で考えて動き、置かれた状況に関わらずアイディアを形にしていけるはずです。

 

-X-BUSINESSプログラムでデジタルファブリケーションが果たす役割は何ですか

道用先生:XBPではプログラミング、デジタルファブリケーションについて学びます。これは、試行錯誤の力を育てるとともに、アイディア実行における技術的な部分をブラックボックス化しないためでもあります。これからはどんなビジネスもデジタルとは無縁ではいられません。アイディア実現の段階で、デジタル部分は全て専門家にお任せ、となってしまうと、専門家のスキルに大きく影響を受け、なかなか良い協働ができないですよね。自分たちがある程度知識や技術を持っていて、その上で、より複雑な、専門性の高い部分は専門家にまかせる、という形を取れるようになることが理想です。

 

試行錯誤の力については以前もお話しした通りですが、アイディアを自分の手で形にしてみることで、より実現可能な、オリジナリティの高いものになっていきます。プログラミングもモデリングも、自分がやりたいことがあれば、必要な技術は身につくものです。例えばプログラミングの基本を1時間学べば、誰でも簡単なオリジナルゲームをつくれるようになりますよ。そういう学びの体験は、スモールステップを積み重ねてアイディアを実現していく訓練にもなっています。

 

予約なしでさくさく使える環境で、アイディア、思考を止めない

-新しいファブラボの利用状況はいかがですか

道用先生:ラボには、3Dプリンタ、レーザーカッター、CNC(木などを削り出せる機械)、工具などがそろっていて、学生は予約なしで自由に使えます。デジタルファブリケーションの授業を受けている学生が課題の制作のために頻繁に訪れていますし、他の学部の生徒も、利用しています。平日は時間帯によってはかなり混み合いますね。

ラボに置いてあるレーザーカッターはかなりスピードが速いですし、3Dプリンターも20台以上ありますので、学生たちもストレスなく使えていると思います。アイディアを形にする段階で、機械のスピードはとても大切です。

 

ファブラボ平塚を立ち上げた頃は、学生たちは機械を使うことが目的になっているような雰囲気もありましたが、最近は、自分たちがやりたいことを実現するために、ラボの機械が手段の1つになっている。という印象を受けます。それこそ本来の姿だと思いますね。また、ラボの機械は試作のためだけでなく、それ自身が製品になるくらいのクオリティも持っています。最近ゼミでつくった仕組みは、クリップやアクセサリーなど、他の誰かがデザインしたものの中から、気に入ったものを選ぶと、それが自分の3Dプリンタでプリントできるというもの。近い将来、こういった形でアクセサリーや小物が購入できるようになるかもしれません。学生さん達がつくった動画はこちらです。

 

新型肺炎等の蔓延状況次第ですが、今後、土曜日を中心に、一般の方にも開放していこうと思っています(利用料がかかります)。スタートアップや協働プロジェクトの拠点になってくれたら嬉しいですね。本学の社会連携センター(自治体、企業等団体、小中高校・他大学、地域住民などあらゆるステークホルダーとの連携の総合窓口)と連携し、様々な取り組みをしていく予定です。

 

道用先生の過去のインタビューはこちら

arts.hatenablog.jp

arts.hatenablog.jp

 

道用先生、お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございました。

2年前にファブラボ平塚にお伺いしたときからさらに授業も設備も進化していてびっくりしました。

 

そしてXBPの、アイディアを形にする力をつける話、深く共感しました。机上の空論に終わらせず、実現したい姿と手元のギャップを埋めて一歩ずつつめていける力、本当に大事ですね。これからの展開が楽しみです。(清水)

 

 

探究の探究4.子どもに必要で、でも今足りていないのは、余白かもしれない

2020年から小学校、中学校、高等学校で導入されはじめた、新学習指導要領(中学は2021年、高校は2022年に全面実施)に示されていることもあり、今広く注目を集めている「探究」。この言葉自体は急に昨年から出てきたものではなく、国内でもこれまでに多くの実践があり、こちらのブログでもご紹介してきたように、海外でも同じ動きがあります。

とはいえ、現在の保護者世代が過ごした子ども時代にはあまりなじみの無かった言葉だけに、とまどう方も多いのではないでしょうか。子どもの探究力を伸ばすために何をさせたらいいのかわからず、探究専門の塾や教室に通ったほうが良いのではないか、など、不安が募る方もいらっしゃるかもしれません。ご自身のキャリアに照らし、探究の大切さを理解されている方も、では子どもには具体的にどうする、という部分で考え込んでしまうこともあるのではないでしょうか。

 

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教育ジャーナリストとして、多くの教育現場を取材され、発信をされてきた中曽根陽子さんが書かれた「成功する子はやりたいことを見つけている―子どもの「探究力」の育て方」は、そんな風に、これからの時代に求められる力を育てるために、保護者がどう関われば良いかについて、とてもわかりやすく書かれた本です。

 

まず、冒頭の「これからは、教育熱心な家庭の子どもほど伸び悩む。」という一文に、ドキっとさせられます。保護者が子どもの成長についての考え方を、根本的に変えることが大切、という、この本の全編にわたるメッセージを、端的に表現している言葉だと、読み終わってあらためて感じます。

 

詳しくは本書をお読みいただきたいのですが、時間やかかわりにおいて、子どもの成長に必要なこととして共通しているなと感じたのが「余白」です。

子どもに何かしてあげなくては、子どもに学ばせなくては、と思い、気が付いたら隙間なく色々と詰め込んでしまっていることって、ありますよね。そうではなく、ちゃんと余白を残してあげることって、あらためて考えると、本当に大事です。

 

ちょっと話はそれますが、デザインにおいても余白の残しかたが全体の印象に大きく影響を与えます。コミュニケーションにおいても、相手の話をきちんと聞くために、沈黙を怖がって埋めようとしないことが大事です。子どもが育つ環境においても余白が大事なのに、不安になった大人がそれを埋めてしまうのは、うん、絶対に良くないですね。

 

 本書は「探究力」という言葉に初めて触れる方にも、探究について、今の教育について、わかりやすく解説されています。そして、「探究力」を軸に習い事のこと、生活習慣のこと、コミュニケ―ションのことなど、今を生きる保護者なら必ず1度は考え、悩むことについて、根拠や実例を示しながら書かれています。今の教育について知りたい方、まさに今子育て中の方にお勧めの本です。

 

清水葉子

探究の探究3.親が手をかけすぎないほうがイノベーターは育つ?

探究について考えるための本のご紹介です。

 

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未来のイノベーターはどう育つのか(原題:CREATING INNOVATORS The Making of Young People Who Will Change The World) トニー・ワグナー著 藤原朝子訳 2014年

 

先日ご紹介した「未来の学校」の続編のような位置づけの本です。

生き残る(クリエイティブで、信頼しあえる社会を築く)ための7つのスキル(7 Survival Skills=批判的思考と問題解決能力、ネットワーク全体におけるコラボレーションと影響力によるリーダーシップ、敏捷性と適応力、イニシアチブと起業家精神、情報へのアクセス力と分析力、口頭と書面でのきちんとしたコミュニケーション力、好奇心と想像力)を前提とし、よりイノベーティブであるために必要な力について、イノベーティブな大人へのインタビューや、イノベーティブな若者(著者の世代とはモチベーションの源泉が違うという意味での世代定義)が育った環境の調査を通して、「若者がイノベーターや起業家になるのを助ける」子育て環境について探る、といった内容になっています。

 

・・・という紹介をすると、何やら堅苦しく、エリートを育てるかのように見えるかもしれませんが、読んでいただければ、決して経済的に恵まれた環境の子どもにだけあてはまる内容ではないことがお分かりいただけると思います。

 

調査の結果導き出された結論。イノベーターを育てるためには、子どもの好きなことや好奇心を大切にし、そのためについやす時間を与え、失敗するかもしれないと思ったとしても、子どもの選択に口を出しすぎない。本書内にはもっと具体的なシーンが描かれていて、親目線で読むと、そのバランス、簡単なようで難しい!とも感じましたが、親が子どもの先回りをして色々決めたり、手をかけすぎないことがポイントのようです。

モチベーションを子供の頃につぶされ続けていると、大人になってから、なかなか情熱を傾けられることに出会えなくなるのかもしれず、逆に、色々試して好きなことを見つけて、とことん探究する機会を持てると、それがうまくいってもいかなくても、自分の中に何か熱のようなものが残るのではないでしょうか。

 

先日のPBLの話とも重なりますが、自分が取り組むプロジェクトを自分ごととして、自分の真ん中にもってこれるかどうか、そしてそれを成し遂げるために時間を使い、集中し、試行錯誤するほどの情熱を傾けられるか(傾けてもよいと思えるプロジェクトであれば)、これが、イノベーティブであるために、スキルが高いか、知識を持っているかよりも重要なことではないかと感じました。スキルや知識が足りなかったら、外の力を借りれば良いという考え(借りたいと思うこと)、も大切だと感じました。

 

清水葉子

課題解決型学習から得られるものは何か 品川女子学院「子宮頸がんかるた」プロジェクトで見えたもの

前々回のブログでご紹介した「未来の学校」で提唱されている、グループで課題解決に取り組む学びの手法は、今は色々な学校で取り入れられています。中でも、いち早くPBLに取り組まれているのが、東京都品川区にある品川女子学院です。28歳の自分を思い描き、それを実現するためには何が必要か、どう行動すべきかを模索し、理想とする未来に向かっていく「28project」でも、グループで課題に取り組む場面が多くありますし、高校1年生、2年生は文化祭の模擬店を「株式会社」として起業するプロジェクトもあります。そして、高校2年生は約半年を使ってCBL(Challenge Based Learning)に取り組みます。

先日、そのCBL担当の先生と、学年代表グループに選ばれた生徒さんたちにインタビューさせていただく機会を得ました。プロジェクトがどのようなプロセスで進められたのか、生徒さんたちがどのようにテーマに向き合ったのかについて、ご紹介いたします。
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CBL(Challenge Based Learning)について:5年生(高校2年生)の家庭科で行われる、課題解決型の授業。家庭科と総合の授業時間を使って行われ、数名のグループで活動する。内容は、身近な課題を見つけて調査をし、解決策を見つけて実行に移すというもの。4月から(2020年は5月から)テーマ決めをして活動を進める。「自分ごとであり、社会課題でもある」というテーマのもと、グループごとに自分たちで課題を設定する。グループに1名、メンターの先生がついて内容や進め方について相談できるようになっている。
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インタビューさせていただいたのは、家庭科の丸山先生、子宮頸がんをテーマとしたプロジェクトに関わられた、高校3年生の遠藤さん、工藤さん、齊藤さん、森田さんです(プロジェクトスタート時は2年生)。


こちらのグループでは子宮頸がんとその予防、早期発見をテーマに課題設定と解決方法の検討が進められました。子宮頸がんの原因とされるヒトパピローマウイルス(16型や18型など)には、一定の効果があるとされるワクチン(HPVワクチン)があるのですが、日本ではいくつかの理由で接種は進んでおらず、世代によってはワクチンの認知度自体もとても低くなっているそうです。

 

子宮頸がんをテーマとして選んだのは、自分ごととして考えられ、かつ、社会課題でもある、というテーマ案をグループ内でいくつか挙げていく中で、出てきたものだそうです。案を出したのはメンバーの工藤さんで、お母さまからHPVワクチンのことを聞いたのがきっかけだそうです。調べてみると、現在日本でのHPVワクチンの接種率はとても低く、ワクチンの存在自体を知らない若者もたくさんいる、ということがわかり、グループの全員がこの状況を変えたいと思うようになったそうです。

 

まずは2次情報の収集でテーマを掘り下げる

CBLは、高校2年生の約半年間を通して行われます。各グループにある程度進め方は任されているそうですが、テーマを決めた後、まず2次情報を集め(2次情報の収集は夏休みが終わる頃まで)、その情報を分析し、解決策を考え、実行に移していく、という形で進めていきます。遠藤さん達のグループでも、インターネット、新聞記事、書籍、論文からたくさんの情報を集めました。かなりたくさんの資料が集まったので、手分けして読み込み、その要約をミーティングで報告しあったそうです。また、学校内でアンケートを実施し、(中学2年~高校2年生に実施)、子宮頸がん、子宮頸がんワクチン、子宮頸がん検診についての認知度をそれぞれ調査したところ、全般的にあまりよく知られておらず、特に子宮頸がんワクチンについては認知度が低いことがわかりました。

 

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校内アンケートの結果(回答者母数は 子宮頸がん:117名、 ワクチン:129名 、検診:153名)

 

インタビューでさらに深く知る

次にグループは子宮頸がんの予防について活動をされている方たちにインタビューを行っています。メンバーで手分けしてアポイントを取り、インタビューの設定、進行も分担して行いました。NPO法人の方、医療従事者の方、助産師さん、患者の会など様々な立場やスタンスで活動をされている方たちに話を聞くうち、資料では見えてこなかった点に気が付いたそうです。

 

「最初は、自分自身も子宮頸がんのことをよく知らず、どちらかというと授業のためにプロジェクトを進めるという姿勢でしたが、インタビューで、実際に子宮がんをわずらった方にその経験をうかがい、心が動かされ、この問題への認識を新たにすることができました(齊藤さん)」

「私はテーマを出した立場としてある程度この病気について問題意識はあったのですが、インタビューをしていてより深く知ることができましたし、同時に問題の深刻さにも気が付くことができました。特にワクチンに関しては意見が大きく2つに分かれ、そのどちらの立場も理解することができました(工藤さん)」

「私も子宮頸がんについてよく知りませんでしたが現場の方の声を聞くことで、問題を認識することができましたし、調査を進める中で、接種率などのデータを見て、日本だけでなく、世界の状況にも意識を向けられるようになりました。これをきっかけに、他の話題についても、情報の見方が変わりました(森田さん)」

「校内アンケートの結果からも認知度の低さは感じてはいたのですが、インタビューを通して、これらの情報については大人から伝える活動は広がっているものの、私たち中高生にはその活動すら伝わっていないということ、中高生が主体となって行っている活動もほとんどないことに気が付きました(遠藤さん)」

インタビューでは知識はもちろん、生徒さんたちが当事者一人ひとりの納得、不安、それぞれの立場の方への理解や共感など、気持ちを理解し、同時に生徒さんたちの感情が動いたということがよくわかります。そして何よりメンバー一人ひとりの、この問題の自分ごと化が進んだようです。

 

方針を固め、実行へ

資料集め、アンケート実施、インタビューを通し、子宮頸がんとその予防については、様々な考え方、そして特にワクチンについてはメリットとデメリットがあることに気づいた生徒さんたちは、だからこそ、個々人がしっかりと情報を得て、自分で決めることが大切だとあらためて感じます。そして、

1.HPVワクチンのメリットとデメリットを中高生にしっかりと伝える
2.子宮頸がんの定期健診を勧める(20歳以降)
3.私たち高校生が中高生に伝えるために、学校という場を使って伝える

という方針を決め、具体的に検討を開始し、保健体育の授業で使用する「子宮頸がんかるた」を授業で実施するための資料やスライドをつけた授業キットを制作し、自校の保健の授業で実施、さらに全国の中高に広げるための動きを現在も続けられています。
※かるたの詳細については、私学妙案研究所newsをご覧ください

s-goodidea.hatenablog.com

 

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これからの展開もとても楽しみなプロジェクトですが、ここまでのお話でも、プロジェクトを通して生徒さんたちが大きく成長された様子がよくわかりました。

 

プロジェクト型学習で得られたもの

CBLは家庭科の授業として行われているため、評価がつけられます。また、約半年で解決策までをつくりあげるという1つのゴールがあります。生徒さんたちにインタビューさせていただく中で、テーマ設定からかるた制作まで、ゴールとそのために使える時間(期間)をきちんと意識して動いていることと感じました。その一方、特に子宮頸がんの予防について活動をされている方たちにインタビューを実施した後、生徒さんたちの意識が変わり「私たちが伝えなくては」というモードになっていったのが、印象的でした。授業だから、課題だから、ではなく、スタートは授業だったかもしれないけれど、調べていくうちに自分ごとになっていく、その過程が素晴らしいと感じました。

 

また、検討の過程でも、作業の過程でも、生徒さんたちがグループで動くことを強く意識されていると感じました。遠藤さん、工藤さんは、これまでも校内の様々なプロジェクトに参加し、まとめ役を担う中で、グループでプロジェクトを進める難しさも経験してきたそうです。それを踏まえ、遠藤さんはリーダーが抱え込みすぎず、メンバーに役割をふってうまく進めていくことを意識したそうです。また工藤さんは、自分のこれまでのリーダーの経験から、自分がリーダーだったらしてほしかった役割を進んでやるようにするなど、それぞれが能力を生かす体制ができていると感じました。

 

1年間という長い時間、グループで1つのテーマに向き合っていくというのは、大変なことだと思います。でも様々な経験をしながら、それぞれが知識、協働する力、スキルを伸ばしていく様子がインタビューから感じられ、素晴らしいと感じました。
また、校内発表にとどまらず、外部のコンテストでプレゼンをしたり、かるたのリニューアルに取り組んだりと、こちらのプロジェクトは今も続いています。今後の展開も、とても楽しみです。

 

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CBLの授業を担当されている丸山先生と、「子宮頸がんかるた」プロジェクトのみなさん。外部のコンテストの全国大会出場を記念した盾とともに。

 

探究の探究2 High Tech High のプロジェクト型学習とは

アメリカ、サンディエゴにある学校 High Tech Highでの教育を紹介した映画「Most Likely to Succeed」を観ました。

映画のディレクターが、探究の探究1でもご紹介したトニー・ワグナー氏、カーン・アカデミーの創立者サルマン・カーン氏、教育思想家のケン・ロビンソン氏などにインタビューを行い(彼らは映像内にも登場)、今、そしてこれから社会で求められる人材、つまり、イノベーティブで、創造性を備え、興味を持って学び続け、失敗しても再度チャレンジし、成し遂げられる人を育てるための教育が必要だという一つの結論に達し、一番その理想に近い教育現場としてHigh Tech Highでの教育が紹介されています。

映画では、いくつかのプロジェクト学習型の授業と、それを実施する先生(必ず2名で担当)、また、それに取り組む生徒の様子を、授業のスタートから、保護者を中心とした地域の人たちへの発表までを描いています。

 

面白いと感じたのは、どの授業も、学んだことを演劇や模型などの作品として発表すること(まとめレポートではなく、新たに創造したもの)、数名のグループで取り組むため、チームでどう動くか(リーダーとしての動き方、それぞれの得意分野の生かし方、締め切りに向けてどううまくコミュニケーションをとって動くかなど)、先生方の生徒一人ひとりへのかかわり方です。

 

先生方は、この方法が生徒の将来のためになると信じているものの、保護者からは不安の声も出てきていて、先生にそれをぶつけるシーンなども描かれています。子どもにとっての幸せは、良い大学に行かせることだけではないとわかっているけれども、子どもの選択肢を狭めたくない、というある保護者の声には、うんうん、とうなずいてしまいました。

 

映画では、テストと知識習得と、PBL(プロジェクト型学習)が二律背反のように描かれている部分もありますが、このHigh Tech Highでの教育について、取材をもとに、また、教育の歴史にも照らし、丁寧に解説されている本「社会とつながるプロジェクト学習『探究』する学びをつくる(著:藤原さと氏)」を読むと、そうではないことがわかります。

授業のほとんどがPBL型のHigh Tech Highでは、PBLの中で必要な知識が習得できるよう、先生方がプログラムの課題設定をものすごく綿密に行っていて、大学受験のサポートも行っているため、他の高校と比べても高い大学進学率、また、高い大学卒業率となっています。

 

映画と本、両方から感じたことは、よいPBLは、知識はもちろん、プロジェクトをチームで進める力、学びのスキル、学び続ける姿勢、何かを形にする力などが得られるということです。自分の(自分達の)プロジェクトのために身に着けた知識は、忘れにくいし、何かを達成するために必要な知識を学ぶ、というスタイルは大人になっても役立ち、そしてなにより、必要なことは自分で学べばよい、という自己認識ができることはとても大切だと感じました。(大学に入り、学びがもっと専門的になってくれば、自分の得意分野や好奇心も影響し、すべてそのようにはいかない時が来るのだとは思いますが、学びの入り口として、自分はできる、学びたいという気持ちはとても大切と感じます)

映画”Most Likely to Scceed”はウェブ上でレンタル、視聴できますので、興味のある方はぜひご覧ください。

 

また、藤原さとさんが書かれたこちら、ぜひ併せてお読みください。

www.heibonsha.co.jp

 

最後に・・・

来年度より高校に導入される科目「探究」は、High Tech HighのPBLの位置づけとは異なります。社会、理科などは教科の時間として別にあった上での探究の時間ですから。つまり、ここで教科横断型の授業を先生方が詳細に検討しなくても、いいのではないでしょうか。。。

探究の探究1.誰もがクリエイティブで信頼しあえる社会を築くための7つのスキル

 

探究について考えるための本のご紹介です。

 

未来の学校(原題:The Global Achievement Gap) トニー・ワグナー著 陳玉玲訳

2017年(原書は2008年)

 

「学校は何を学ぶ場所か。卒業して何を目指すのか。」

自分自身について、自分の子供について、誰もが考えることではないでしょうか。

本書の著者、トニー・ワグナー氏は、教員、校長、研究者など様々な立場から教育の目標とその意味について試行錯誤、研究を重ね、その中で、学校の教育内容と、社会が求めるスキルのズレに気づき、その理由と解決策が事例とともに紹介されているのが本書です。

 

2002年に「落ちこぼれ防止法」が施行され、そのためのテストが重要視される、また、高校においては、大学進学のため準備にも時間が費やされるという状況、一方で、それらをクリアしたとしても、高校までの教育で、大学または社会に出るための準備が十分とは言えない、という状況に氏は気が付きます。

 

その状況を打破する方法として

論理的思考力と問題解決能力、口頭および文書による効果的なコミュニケーション能力、好奇心と想像力など、生き残るための7つのスキル(7 Survival Skills)を提示します。

 

詳細は書籍を読んでいただきたいのですが、興味深いのは、これらのスキルが一部の人たちのものでなく、すべての人に必要だと、氏が述べていることと、知識を否定するものではなく、むしろ知識習得をゴールとすべきではない、というところです。

 

「21世紀にあって最も重要と思われる厳しさとは、労働、市民生活、生涯学習に必要な核となる能力を身につけていることである。学問を学ぶことは、能力を向上させる手段であって、それ自体が目標ではない。今日の世界では、もはやどのくらい知っているかではなく、知っていることで何ができるかが重要である。」本書p129より

 

社会的なステイタスなど関係なく、大学に進学しなくても、どんな生き方や仕事を選んでも、生活や人生の色々なシーンで7つのスキルを発揮し、クリエイティブで、信頼しあえる社会を築いていけることがとても大切だと、本書からあらためて感じました。

 

そして、この7つのスキルを身に着けるためにワグナー氏が提唱するのが、チームで課題解決に取り組むProject Based Learningという学びの方法です。知識をインプットしてアウトプットするだけでなく、知識を活用することで、より使える知識になるということです。

 

ワグナー氏のTEDでのレクチャーはこちら

 https://www.youtube.com/watch?v=hvDjh4l-VHo&t=331s

 

この本を読んだ後、なぜPBLを取り入れると知識も身につくのか、考えました。これは私個人の考えですが、生徒たちは、PBL型のほうがより扱っている内容やテーマが自分ごとになり、結果的に授業時間以外のところでも考えるようになるのではないでしょうか。(これについてはまた後日考えてみたいと思います。)

 

清水葉子

 

 

 

仕事で感情、動いてますか?-「ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門」を読んで-

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ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門」の著者、原野守弘さんのお話を初めてうかがったのは、今から10年ほど前です。

宣伝会議クロスメディアについての連続講座の中でお話を伺う機会があり、そこでリカちゃんの40周年キャンペーン「Licca World Tour」について知り、とても衝撃を受けました。このキャンペーンは原野さんがリカちゃんを古臭く感じ、その理由がリカちゃんのイメージが、現代のお母さんが思い描く娘の将来像とずれているところにあるのでは、と気が付くところからスタートします(リカちゃんを、将来は専業主婦というイメージから、意志を持った一人の女性というイメージに変える)。

 

インサイト」という言葉を知ったばかりだった私は、これぞインサイト!と感動し、ファンになり、その後の原野さんの作品を見続けてきたのですが、切れ味の良さとともに、どの作品にも共通して、受け手に対するあたたかい目線、それでいてベタベタしすぎず見守るような目線が含まれていて、この絶妙な立ち位置がとても好きだなと感じていました。

 

本書には、原野さんが作り手として、何を大切にし、どこを見て、どんな気持ちでいるかが書かれていて、その詳細はぜひ、読んでいただきたいのですが、私としては、これまで感じていた原野さんの立ち位置の理由がすごく納得できましたし、つくるという行為の中で、こんなに感情が動いているんだなあと、あらためて感動しました。

 

本書はクリエイティブになじみが薄い人、仕事でロジカルな部分のほうを大切にしている人にも、読みやすく書かれています。仕事においても個人的な「好き」という感覚は大切で、でもそれには市場的なランクがある(プロのクリエイターは市場的なランクが高い)、と原野さんは書いています。アートとサイエンス(ロジック)の文脈で、この部分に触れた本は、少ないのではないでしょうか。だからこそ、自分の「好き」を意識して、磨いていく必要があるし、それはどんな仕事にも、また、相手との関係性構築みたいなところにも生きてくるのではないかと感じました。仕事では感情を使わないことにしている人こそ、ぜひ読んでもらいたい1冊です。

 

私も、技術にフォーカスしすぎると感情を置いていきがちです。あらためて意識しようと思いました(清水)。

 

↓本を読んだ方はこちらのサイトもぜひ。

introtocreativity.com

 

#ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門 #原野守弘