建物細部へのこだわりと、それが与える空間の質-佐川美術館
みなさま 本年もよろしくお願い申し上げます。
1998年、佐川急便株式会社が創業40周年記念事業の一環として建設した美術館です。
その美しさから多くの賞を受賞しています。2007年には樂吉左衛門館が増設され、空間に深みを与えています。
コンクリートの躯体と金属の屋根なのに、なんとも言えず落ち着く雰囲気と和のたたずまい。それは、細部へのこだわりにありました。冬の夕方なので写真が暗めですみません。。。
例えば、この空間、床はもちろん木なのですが、壁は?
こんな感じ。木のように見えるのですが、実はコンクリートなんです。通常は合板といって、板目が映らないような型枠を使ってコンクリートを打設するのですが、あえてそこに杉板を使い、木目を見せるようにしています。本館もそうなのですが、樂吉左衛門館ではさらにきれいに出ているので、ぜひご覧ください。
また、その詳細については、以下に論文がありますので、興味がある方はぜひ。
「杉木目を有するブラックコンクリート化粧打放し仕上げの施工 佐川美術館樂吉左衛門館建設工事」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/coj1975/45/11/45_36/_article/-char/ja/
空間から受ける「何か落ち着く」「何かホッとする」「なぜか懐かしい」という感覚は、実はこういった細部へのこだわりから生み出されています。素材、仕上げだけでなく、色合い、光、空調など。丁寧に仕げれば良いというだけでなく、時に素材むき出しの荒い仕上げが人の心を打つこともありますよね。
子どもたちが1日の大半を過ごす学校の建物も、色々な面で子どもに影響を与えます。健康で、快適に過ごせることが第一ですが、加えて、どんな気持ちになるのか、どんな刺激を与えられるかも大切なのではないでしょうか。ICT化が進む今だからこそ、今年はリアルな空間の質についてもよく考えていきたい、と思っています。
社会と美術の融合授業-学校をARTで満たそう(同志社中学校)
同志社中学校の社会科の授業には、話し合いや、表現の時間が多く設けられています。その中でも手を動かす要素が多く入っているのが、中学3年生の3学期に行う、社会と美術が融合した授業です。
「学校をARTで満たそう~We are ARTISTS」と名付けられたこちらの授業では、
文字でもなく、言葉でもなく、社会にアピールできるアート作品をつくります。
それまでの授業で、文字や言葉を使ってディスカッション、プレゼンテーションを重ねてきた生徒達が、今度はアートという表現方法に挑むのです。
「私たちは、絵の世界のように、無意識に働きかけられたり、色や形や音や街中にあふれるいろいろなものに影響されて自分の感覚が作られていきます。感性に訴える方が社会に働きかけるのに適した表現方法であると考え、美術の先生に持ちかけたら、快く協力してくれて、社会科+美術科の教科横断型授業として始まりました」と担当の社会科、井口和之先生。
社会科の時間では、コンセプトなどについて話し合います。そして作品づくりを美術科の時間で行います。できたアート作品は校内に展示するとともに、写真を撮ってネット上で公開します。短い英文で作品紹介を行い、その部分は英語科の先生にもサポートしてもらうそうです。
まずこちらの作品は、「ME(私)」という言葉は、視点を変えれば「WE(私たち)」になる、という表現です。
まず、こちらの作品は「Mother FAther」と上部に書かれていて、父親、母親に見守られている私、でも、角度を変えてみると、そこから前に飛び出そうとしている私、を表現しています。
そして、こちらの作品は、「HELP」人々の写真コラージュが、別の角度から見ると「SHUT」と読めるようになっています。
「私の目標は、直接社会と交流をして、社会にプラスの影響を与えていける発信力を持った中学生が増えることです。中学生も社会に貢献できる力は持っていて、直接社会とつながることができるツール、IT機器を使って発信もできるはずなのですが、現在の日本社会全体の中では、あまり期待されていません。中高を卒業してからではなく、私の授業をきっかけにして、自分も社会に働きかけられるんだという感覚を持ち、やってみてほしいですね。」と井口先生。
こちらの取り組みは、2015年KONICA MINOLTAのソーシャルデザインアワード特別賞を受賞しました。
伝えたいメッセージを表現する手法を多く持っていること、大人になってからではなく、今の自分でも社会に対してできることがあると考えること、どちらも、とても大切なことです。アートを使ってそれを伝える授業、素晴らしいと感じました。
学校の壁を、自分たちで塗る-株式会社NENGOのワークショップ その1
カラー、色あいが人に与える影響って、大きいのではないでしょうか。明るい色の服を着ると気持ちが明るくなりますし、赤い下着を身に着けると血行が良くなる、なんて話もありますね。服だけでなく空間の色合いもそうです。自分たちが過ごす環境の色を決められたら、毎日がもっと楽しくなるのではないでしょうか。
今日は、そういった環境を増やす取り組みをされている、株式会社NENGOさん(http://www.nengo.jp/)の活動について紹介をしたいと思います。
株式会社NENGOさんは、不動産の扱いやリノベーションを行う会社で、「PORTER’S PAINTS(ポーターズペイント)」というオーストラリア生まれの水性ペイントも
扱われています。PORTER’S PAINTSは、誰でも簡単に自分で塗れる、シンナーの匂いがしないペンキです。また、そのカラーはなんと300色あるので、自分のイメージに近い色を選ぶことができます。コツさえつかめば子どもにも扱えます。
↑NENGOさんのポーターズペイントのエリア。色合いに加え、質感も選択できます。
NENGOさんはこのペンキの講習会やワークショップを多く行われていますが、2015年に川崎市の宮崎小学校で行われたワークショップが、小学生を対象とし、色彩教育と組み合わせたものだったので、ご紹介します。
このワークショップでは、5、6年生が小学校の配膳ホール(給食を運ぶための場所)を塗ります。4グループに分かれて4階分のホールを、それぞれ違う色で塗っていきます。
まず、5年生、6年生を対象に、NENGOの方による授業が行われました。
「私と色」
授業は、「今日の服は自分で選んだ?なぜその色を選んだの?」という問いかけから始まります。色はそれぞれ与える印象が違うそうです。例えば、赤は「情熱的で活発、怒りっぽい」という印象、緑は「協力的、粘り強さ」など。
そして、色の心理テスト。紙に書かれた三重丸を、自分だと思いながら塗りつぶしていきます。それぞれの意味は、外側は自分以外に見せている自分、家族、仲良しのお友達に見せている自分、一番内側が、本当の自分、だそうです。色にはパワーがあるので、色を選ぶことで「なりたい自分」を楽しむことができるそうです。
「みんなと色」
次に、みんなと色、について考えていきます。ここでは、自分だけでなく、ある場所に住んでいる人々やその場所を訪れる人々と色との関係について考えていきます。例えばモロッコでは青が神聖な色とされているため、町が青色に塗られていることや、ディズニーランドは場所によって色が塗り分けられ、世界観が演出されていること、地域にはそれぞれ、なじみ深い色というものがある。その色と同化するか、目立つように別の色にするかは建物の用途次第でもある、ということを、写真などを見て学びます。
「学校と色」
最後に、学校が景色に与える影響を考えます。「もし学校が金ぴかだったらどうする?」という問いかけに、子ども達はざわざわ。観光名所になるかもしれないが、近所の人はびっくりするかもしれない。地域になじむ色のほうが学校にはぴったりしているのではないかという先生の意見に、賛同したようでした。
さていよいよ、配膳ホールの色を決めていきます。ここまでに学んだことを生かし、自分が好きな色だけではなく、そこを訪れた人がどう思うかや、地域との関係を考えて色のイメージキーワードを出していきます。そのあと、イメージキーワードが多かったものからNENGOさんがいくつか色を選び、提案。児童達の投票で4色を決定し、実際に塗っていきます。
どんな色が選ばれ、配膳ホールがどのようになったのか!続きは以下のブログをごらんください。
学校の壁を、自分たちで塗る-株式会社NENGOのワークショップ その2 - Arts in Schools
株式会社NENGOさん、ポーターズペイントのホームページは以下です。
リアルとバーチャルで未来の都市を考える-マインクラフトのスウェーデンでの活用
仮想世界にツールを使って建物や町をつくる「マインクラフト」というゲームが、日本の小学生の間で大ブームですね。解説動画をユーチューブで見たりしながら、子供たちはどんどん自分たちでやり方を学んで上達していくので、たのもしいなあ、と思いつつ、バーチャルな世界にのめりこみすぎないか、不安になることもないでしょうか。
そんな思いの一つの答えとして、現実と仮想世界をうまく組み合わせている事例をご紹介します。
スウェーデンで行われている、「Future City」というコンペティションです。
ホームページはこちらです。
(スウェーデン語しかないので、私は解読に翻訳サイトのチカラを借りました。スウェーデン語→英語が文法的にキレイに行くのでお勧めです)
こちらは、小学6-9年生(日本で言うと小6~中3でしょうか)を対象としたコンペティションです。
コンペのテーマは「持続可能性に着目した未来の都市をつくること」どんな人たちが住み、どんな人たちが働き、どんな風に余暇を楽しみ、どんなサービスを求めるか、都市が環境にどのようなインパクトを与えるかをチームで協力して考え、提出するものです。応募できるのは、各小学校1チーム。チームは6-9年生の生徒+先生とメンター1名。
提出するのは、
・マインクラフトを使って構築した都市。
・都市を説明するエッセイ
・都市の模型
の3つ。つまり、マインクラフトという仮想世界の中だけでなく、それを言葉で表現する、模型という立体で表現する、ということが求められます。
(上の2枚はFuture Cityのホームページからお借りしました。)
下のページでエッセイも含め、作品が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
Tävlingsbidrag 2014/2015 | Future City
また、コンペに参加できるようになるための教育ツールも準備されています。
都市や環境について学べるようになっているところが、また良いなあ、と思います。
教育とアートについての本その5-地域を変えるミュージアム
ミュージアム、美術館には色々な役割があると思いますが、こちらの書籍「地域を変えるミュージアム」では「『地域を変える』チカラ」」に注目し、30のミュージアムが紹介されています。地域とのかかわり方や、それぞれのミュージアムの軸となる部分は事例ごとに違うのですが、共通しているのは、ミュージアムという「場」が、色々なものをつなぐ機能を果たしているということ。
1番目の事例「藁工ミュージアム」では、アートをテーマとして、地域の人どうしがつながっていく。
3番目の事例「十和田市現代美術館」では、世界的に評価された現代アートがきっかけとなり、そこを訪れた人と地域の人がつながる。
そして22番目の事例「京都国際マンガミュージアム」では、マンガとビジネスがつながったり、世界中の人がマンガを介しててつながったり。
コミュニティとかつながりって、どうしても似たようなイメージを持ちがちですが、それが発生する場の立ち位置をしっかり決めることで、色々な展開が考えられるんだなあ、と、あらためて思いました。
アートやミュージアムが媒介するものの可能性について、多くのヒントが得られますし、一度行ったことがあるミュージアムについても実はそんな意図が!という発見ができると思いますよ。
場の力が生徒の可能性を広げる。清教学園中・高等学校のラーニングコモンズ。
ディスカッションやグループワークで良い成果が出せるか、イノベーションが起こせるかどうかは、検討フレームや話し合いのプロセス管理、テーマ設定などとともに、「どこで話し合いを行うか」が大きく影響します。「リラックスできる」「ポジティブになれる」「新鮮な気持ちで取り組める」そんな場でワークやディスカッションができるといいですよね。
大阪府河内長野市にある清教学園中・高等学校の校舎内に10月、ラーニングコモンズが完成しました。図書館とも隣接した、使いやすい場所にあります。通常の授業でディスカッションをする際に使われるとともに、毎日放課後は生徒が自由に使うことができます。自習をすることもできますし、机や椅子の配置を自由に変えて、グループワークやディスカッションをすることもできます。オープンな学びの場なので、単なるおしゃべりではなく、話し合いをするための場です。
生徒さん達が「ここはちょっと他の場所と違うな」と感じられるようにするため、カラフルで、かつ移動しやすい実用的な机と椅子を置くとともに、内装もそれに合わせて変えられたそうです。天井と柱、梁のコントラストがいいですね。
ひも状のカーテンで、4つに部屋を区切ることもできます(上左)。
地元河内の木材を使った椅子のコーナーも(上右)。
そしてなんといっても窓の外の景色がとても開けているので、とても開放的な気持ちになれます!
貸出用としてノートPCのChromebookが200台あり、wifi環境も整っていますので、調べものや資料づくりもできます。また、同校では「e-ポートフォリオ」という、教材や生徒の成果物を保存し、活用できるWebシステムがあり、ここでもその活用が可能になります。そのほか、パーティションがホワイトボードになっていたり、ディスカッションに具体的に役立つしかけも多くあります。
色や形、視界などは数値化しにくいものではありますが、人の感覚に直接訴えるものでもあります。生徒がリラックスでき、アイディアがあふれるような上質な場づくりは、これからの学校にますます求められるのではないでしょうか。
これからここで行われる学びや活動がどんな展開を見せるのか、楽しみです。
アートについてのフューチャーセッションを行いました
突然ですが、みなさんは、アートって何だと思いますか?
また、アートは、生活に、人生に、必要なものだと思いますか?
私は日々色々なシーンで、それについて考えます。
おおむねそれは、アートが足りない、ということなのですが、
家具や空間など、モノ、についてそう思うこともありますし、
コミュニケーションにおいても、もうちょっとアートがあったら、
そして、教育現場においてもアートが足りないなあ、と感じたりします。
じゃあ具体的に他の言葉に置き換えると、アートって、何?
アートがあると、どんな良いことがあるのかな?ということを、もっと考えたくて、
他の人の意見も聞きたくて、先日、アートに関するフューチャーセッションを開きました。
フューチャーセッションとは、さまざまなバックグラウンドを持つ人達が集まり、一つのテーマについて話し合うことです。話し合うだけではなく、そこから新しいアイディアやつながりがうまれて来ることも期待されています。詳しくは、こちらをご覧いただければ。
https://www.ourfutures.net/about/future_session
一緒に企画をやろうと言ってくれた、方達と、合計6名で、3ヵ月くらい準備を重ね(この段階でもかなりアートについて語ることができました)、先日、11月6日に梅田にある、関西大学のKANDAI Me RISEを会場としてお借りし、3時間のフューチャーセッションを行いました。
まずは、参加者それぞれに、オリジナル名札をつくっていただきます。
結構みなさん集中して取り組んでくださり、個性的な名札がたくさんできました。
そして、名札も使って自己紹介をしながら、グループに分かれて、
「私にとってのアートって何か」「アートをテーマとして、これからやってみたいこと」などについて、話し合っていただきました。
短時間でしたが、たくさんのアートについてのアイディアが出てきました、
アイディアをそのまま掲載はできませんが、
たとえば、こんなテーマがありました。
・アートや表現には枠があるべきか?
・アートとデザインの境界は?
・アートは部分なのか全体なのか?
・アートは、答えを出すものなのか
アイディアがさらなる問いを生んでいきますね。
さて、次のステップは!というオープンな形で、今回のアートに関するフューチャーセッションは終了しました。
引き続き、開催していきたいと思いますので、参加したい!という方は、清水までお声がけくださいね。!