子どもの主体性を伸ばす空間とは―学校建築計画セミナーより

先日、大阪で開催されたNew Education Expo2017に参加させていただきました。興味深い内容が多かったのですが、その中から学校建築計画のセミナーについて、紹介させていただきます。

 

「アクティブ・ラーニングに向けての学校計画
~日本とフィンランドにみるクラスルーム・オープンスペース・メディアスペースのつくり方と使われ方~」というタイトルで、
大阪市立大学大学院 教授 横山俊祐先生
千葉工業大学 創造工学部 デザイン科学科 准教授 倉斗綾子先生
東京理科大学 理工学部 建築学科 准教授 垣野義典先生

の3名が登壇されました。主催者様のルールで写真は掲載できませんが、文章でご紹介しますね。

 

まず倉斗先生のレクチャーです。

日本の小学校では、1980年代からオープンスクールと呼ばれる、廊下側に壁がなく、教室と廊下の境界をあいまいにし自由に使えるスタイルが増えていたのだが、2000年頃までに一度衰退、でも今は学習スタイルの変化で広いスペースを使いたいという先生が増えてきたそうです。

 

一方で、使い方がわからない、他のクラスに迷惑をかけたくないなどの理由でオープンスペースをうまく活用できていない事例も多いのだとか。

 

そこで千葉のある学校で、学年全体で授業を展開する取り組みを行ったそうです。児童達は学年の教室、オープンスペースのあるエリア全体を使い、随所に配置された解説コーナー、答合わせコーナーなどを使いながら、自分のペースで学習を進めて行くというものでした。低学年では算数で、高学年では国語、算数の2教科20時間分を、自分で時間配分も考えながら取り組むという大規模なものでしたが、それぞれ取り組みは成功し、児童たちは各々のペースや空間の使い方で学習を進めることができました。現場の先生方も実際にやってみたことで、これからの活用の可能性が見えてきたそうです。

 

また別の小学校では、校舎内に、オープンスペースだけでなく、大、中、小といった大きさの違う空間を準備しておくことで、先生たちも使いやすく、児童たちも自分の場を見つけやすくなる工夫がされていました。

 

倉斗先生は、これからの学びのための空間として、

 

・児童生徒が学びを楽しむ

・興味関心を高める

・自分の学び方を見つけられる機会をつくってあげる

 

の3つのポイントを挙げられていました。

 

どれも重要なことですが、特に3つ目のポイントが個人的には特に印象に残りました。先生が生徒の様子を観察し、環境を設定することももちろん大切なのですが、生徒、児童一人ひとりが主体的に学びを進めて行くためには、それぞれが自分にとって最適な環境、学び方を見つけていくのが一番良いですよね。

そのような「学び方を選べる」を空間でつくりこむことで、小学生のうちに学校で試行錯誤ができる、というのは、とても重要なことと感じます。

 

続いて垣野先生のレクチャーでした。

北欧を中心に、学校建築の調査をされている垣野先生。フィンランドの小学校の授業から、日本の授業のあり方を問い直してくださいました。

 

フィンランドでは2010年より「Finnish School on the move」というスローガンがあるそうです。座りっぱなしの授業ではなく、動きのある授業を目指し、教室ではスマートボード(電子黒板)と実写機(書画カメラのようなもの)が大活躍。生徒も1人1台タブレットを持っています。

 

また、フィンランドでは教室内に、勉強をする雰囲気が満ちていて、そこには先生が寄与するところが大きいようです。例えばスマートボードの登場で板書が必要なくなった先生達は、ほとんどの時間、体の正面を生徒のほうに向けていること、タブレットの活用で、先生が見ているものと生徒達が見ているものの目線を合わせること、日本のようにどの教室でも同じ掲示(ルールと生徒作品など)ではなく、学習に必要なものを掲示したり、家のような雰囲気をつくったりしていることなどです。さきほど書いた勉強をする雰囲気は決して固いものではなく、その中で生徒達が空間や学び方を自由に試行錯誤できるようになっているようでした。

 

また、フィンランドでは45分の授業時間内にペアワーク、グループワーク、レクチャーなど、たくさんのアクティビティが組み込まれているのも特徴だそうです。これをすることで、生徒の集中力が途切れないかつ、色々な学び方を体験し、自分にあったやり方を選択するきっかけになっているそうです。

 

最後に、垣野先生から日本でも再検討すべき3つのキーワード

 

・板書の意味

・教室の壁の役割

45分の使い方(授業のテンポ)

 

を挙げていただきました。

この中では特に、壁(掲示)についてはっとさせられました。どの学校でも、そして自分が小学生の時からほとんど変わらない、そして先生が決めたものを掲示する壁。これを生徒が選択できるようにすることは、自分達の場づくりの練習になるのではないでしょうか。

 

最後に、横山先生のコーディネートでディスカッションが行われました。

 

今回このお話をうかがい、これまで私が(勝手に)いだいていた、建築計画の認識が変わりました。活動に適した空間の大きさの定義や、集団のアクティビティから傾向を探るのが建築計画だと思っていました。

 

もちろんそのような側面もあるのでしょうが、集団や傾向だけでなく、生徒、児童一人ひとりの個性にフォーカスし、一人ひとり違うということを前提に、観察、分析を行われているところや、先生ではなく生徒、児童の手に空間をゆだねることを理想とし、それをすることは本当に生徒を主体的、アクティブにすることだ、と定義されていること。どちらも研究者の立ち位置は、子どもが学校の主役で、空間と現場の先生方が子ども達の成長をどう助けるか、というところになっていて、これは本当に大切なことだな、と思いました。また、学びはもちろん、生活の場としての空間についても、自分がしっくりくる空間を試行錯誤できたら、その後の人生にとても役立ちそうです。

 

ネット環境の充実で、どこでも学べるようになった今、学校という学び舎は必要?という議論もありますが、やはりリアルに集まる場を体験し、そこから学ぶことは多いなあ、とあらためて感じました。

 

先生方、貴重なお話をありがとうございました。