教科を超えた協働がSTEAM教育を実現する―「AI時代を生きる子どものためのSTEAM教育」を読んで

みなさまこんにちは。清水葉子です。中高入試シーズンが終わると、あっという間に新入生が入ってくる新年度となりますね。このタイミングでICT環境を整えられたり、カリキュラムを変えられたりという学校が多いと思いますが、授業の運営方法や、さらに言うと、授業の企画、運営者が変わる、という学校って、どのくらいあるのでしょう?

 

本日ご紹介する「AI時代を生きる子どものためのSTEAM教育」には、STEM科目における教育効果の向上と、子ども達の創造力を高めるための具体的方法として、STEM科目そのものに、芸術の要素を取り入れるとともに、芸術の指導者自身もSTEM科目の授業企画、運営に入ることが提案されています。

 

STEAM教育とは?

まずは前提について補足します。

STEM(ステム)とは、ScienceTechnologyEngineeringMathematicsの、それぞれ頭文字を取ったもので、近年アメリカでこれらの、いわゆる理系分野の人材が不足するとともに、子ども達の学力も低下していることが懸念され、大学でSTEM分野の専攻をする学生を増やすこと、その前の幼稚園から高校までの12年間は科学と数学を強化することが国全体の方針として決められたというものです。

 

ところが、STEM重視の授業を行って数年経っても学力調査の成績があまり伸びず、時間数を増やすだけでなく中身を変えなければならないのではないかという問題提起があり、「創造性」がひとつのキーワードとなり、STEMArt(芸術)を加えたSTEAM(スティーム)教育を行うべきではないか、という動きが出てきました。

 

本書の概要

本書は2013年にアメリカで出版された本の訳書で、教育神経科学脳科学の研究をされているデビッド・A・スーザ氏と、芸術の教育への織り込みに貢献されてきたトム・ピレッキ氏の共著です。(原題は「From STEM to STEAM: Using Brain-Compatible Strategies to Integrate the Arts」)

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本書の冒頭では、脳科学の側面から、芸術を学ぶことで得られるものについて解説されています。それはSTEM科目と相反するものではなく、創造性とともに認知力や記憶力を高め、むしろSTEM教育の効果を高める、という結論が、脳科学的な裏付けとともに出されています。

 

その流れの中で、拡散思考と収束思考の話が出てきます。現在の高校までの教育には1つの正解に行きつくための収束思考が求められることが多いが、結論を急ぎすぎず、色々な可能性を考える拡散思考ももっと取り入れたほうが、生徒の自主性、創造性を高めるとともに、実際の科学の世界でも役立つ力がつく、そのためにも、芸術をSTEM科目に取り込むべき、と論が展開されていきます。

 

STEM教科の教員と、芸術教科の教員が一緒に授業展開を考える?

STEM科目に芸術を取り入れるのか、という具体的方法について、STEM教科の教員と、芸術教科の教員が一緒に授業展開を考えることが、本書では提案されています。例えば小学校の理科の授業で動物の生態について学ぶ際、それぞれが動物を調べて発表するだけでなく、生徒達がそれぞれの動物になりきり、グループで、それぞれの生態を劇や歌、絵画などで表現する、といったものです。小学生だけでなく、高校生までの事例、教員の連携の仕方が紹介されています。

 

芸術教科の先生が、理科や数学の授業に入るというのは、突飛な考えに思えるかもしれません。でも専門の先生が生徒が理解しづらい部分、生徒に考えてもらいたい部分を明確にできれば、その先生とは異なるバックグラウンドを持っていて、思考方法が異なる先生と一緒に考えることが、新しい授業のスタイルをつくりだすことにつながるのでないでしょうか。

 

本書には授業デザインのテンプレートも掲載されていて、運営計画とともに「ビッグアイディア」「多面的知性の応用」「ブルームの分類方法の応用」といった項目も含まれます。授業の目的である大きな問と、その手法、生徒に期待する思考態度を最初に決めておくことで、共同で授業を計画しやすくなるような工夫がされています。

 

 

CCEの取り組みと新しい展開の可能性

では学校内に連携できる芸術教科の先生が見つからない場合はどうすれば良いか?

フロリダ州にある創造教育センター(Center for Creative Education:CCE

cceflorida.org

では、他教科の先生と協働できる教育芸術家の育成が行われていて、このセンターから中学や高校に先生を派遣する事業が行われているそうです。校外の力も活用することで、新しい展開が期待できそうですね。

 

授業内で先生によるアートとサイエンスのコラボレーションが起こるというのは、生徒にとっても、良い影響となるのではないでしょうか。