「振り返ってみると、私たちはこの状況をポジティブに捉えることができたのではないかと思います」休校期間に見えてきた、生徒達の発表の場 サレジオ学院中学校・高等学校インタビュー 後編

 2020年3月~5月、新型肺炎COVID-19蔓延の影響で休校となった期間も新しい形での授業継続に加え、生徒さんたちの発表の場もさまざまな形で準備をされたサレジオ学院中学校・高等学校の先生方。前編については休校時の体制づくりについておうかがいしました。後編では生徒の発表の場について、より具体的な取り組みについてお話をうかがいました(取材:2020年7月)

 

中学2年生は、授業以外の課題にもユニークなものがありましたね

森田先生: 「俺の料理」という、それぞれがつくった料理の写真をシェアする企画と、学校紹介動画を作成する企画を行いました。これらは、生徒たちにオンラインで何をやってみたいか聞いたことがきっかけになっています。生徒たちからは、クイズ番組のようなことがやってみたい、などもあり、これも国語の授業で漢字クイズをするなどで実現したのですが、その中に「料理をつくって見せ合いたい」という意見があったので、中学2年生全員への課題として4月末に出してみました。我々教員としては、せっかく家にいるから、家の手伝いをしてもらいたいという思いもありました。提出してもらったのは、生徒が自分でつくった料理の写真とレシピです。出てくる料理は目玉焼きくらいかなと思っていたのですが、餃子、唐揚げなど、手のこんだ料理をつくってきて、課題を出した我々が驚きましたね。生徒達もお互い写真を見合って、刺激を受けたようです。

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中2の生徒たちが提出した「俺の料理」

森田先生:学校紹介動画を作成する課題は、我々が考えました。最初は自己紹介動画を作成してもらおうと思っていたのですが、学校紹介動画のほうが、学校の広報にもつながりますし。休校前までの授業で動画作成の技術などは教えていなかったので、生徒それぞれの環境で動画作成をすることが難しければ、スライド作成でも良いことにしました。出来上がった動画を見て、生徒たちが色々な工夫をしてくれて、驚きました。ぬいぐるみを語り手にしたかわいい動画をつくってくれる生徒もいました。完成した動画は、生徒が相互評価をする機会も設けました。

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中2生徒による学校紹介動画1(イメージ)

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中2生徒による学校紹介動画2(イメージ)

動画作成技術を、生徒さんたちが独学で学ばれたとはすごいですね

高木先生:高校2年生も、自己紹介動画で自分の好きなものなどを紹介し、共有しました。どの学年の生徒も、これまで授業や校内の活動で動画をつくるということはほとんどありませんでした。しかし、もともと彼らはYouTube世代なので、自分ですぐに動画を作れる生徒もいましたが、今回初めて取り組んだ生徒も含めて、全体的に動画編集のスキルがかなりアップしたと感じます。今後の授業にも動画作成を取り入れたいですね。

 

下田先生:今年は例年のように新入生を集めて部活を順番に紹介するという形での部活紹介ができなかったので、各部活、1分の動画を作って、中学1年生のオンライン上のクラスルームに置き、見てもらう形を取りました。教員の手はほとんど借りず、すごい動画をつくっている部活もありましたね。

 

部活、行事など、自宅学習期間中の工夫はされましたか

下田先生:生物部が「マリンチャレンジプログラム」という、日本財団・株式会社リバネス・一般社団法人 日本先端科学技術教育人材研究開発機構(JASTO)が主催する、海洋分野での課題に取り組むプログラムの大会にオンラインで参加し「JASTO賞」という賞をいただきました。この大会はもともと3月半ば、会場で開催される予定だったのですが、この状況下、4月上旬に延期になっていました。結局それも中止となり、4月19日にオンラインで開催することになったのです。なので、もともと発表の準備とリハーサルはできていたものを、リアルでなく、オンラインで発表したという形です。研究内容は、「キンチャクガニと共生するイソギンチャクについて」でした。実はこのプログラムはもともと、プロの研究者の方がアドバイザーとして協力していただける仕組みがあり、今回アドバイスに入っていただいていたのが、沖縄の研究者の方だったので、オンライン開催になる前から、生徒達はオンラインで外部の方とやり取りを行うという環境に触れていました。もちろん、オンラインでスムーズにやり取りができるまでには少し時間がかかったのですが、生徒達にとって良い訓練になったのではと思っています。今年も関東大会に招いていただけたので、引き続き同じテーマで参加する予定です。これはオンラインだからという訳ではないですが、今回のプログラム参加をきっかけに、今回参加したメンバー以外にも、研究をしたいという生徒が出て来たのは、とても良い影響だと思います。

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マリンチャレンジプログラムで「JASTO賞」を受賞した生物部

高木先生:部活ではありませんが、高校生の生徒がe-スポーツの大会として「クラッシュ・ロワイヤル」という、リアルタイム対戦型ゲームの高校生向けの大会に出場しました。また、パソコン甲子園という、例年会津大学で行われているプログラミング技術を競う大会が、今年はオンラインでの実施となり、本校の生徒も出場予定です。

 

下田先生:中学3年生の吹奏楽部所属の生徒は、アーティストGReeeeNの「星影のエール」を全国の吹奏楽部員と奏でる企画に応募し、オンライン上で合奏に参加しました。

 

染谷先生:運動部はなかなかオンラインではできない状態ですね。やはり活動場所が学校ではない場合、ケガなどのリスクも出てきますので、運動部は慎重に進めていかなければと思っています。8月からは4~5校会場に集まっての、小さな規模の大会は始まる予定です。

森田先生:剣道部は大会も全国的に開けておらず、素振りや、基本的な練習しかできないのですが、オンラインでできることとして、毎回練習の最後に顧問が話す「今日の練習のまとめ」の内容をGoogle Classroomでも残しておく形にし、帰宅後も振り返ることができるようにしています。また今後、毎回練習の最後にそれぞれがつける振り返りノートをオンライン上でできないかと考えています。いずれは練習動画を撮って、共有、研究をしたりと、生徒が自分達で運用できると良いと思っています。

 

 

今年の文化祭は学校で?それともオンラインで?

染谷先生:学校で、生徒のみの参加で行い、なおかつオンラインで見られるような形での準備を、高校2年生が中心となって進めています。例年よりも検討事項が増えて大変だとは思うのですが、アイディアを出し合って作り上げてもらいたいと思っています。

 

6月より、分散登校での授業を再開されましたが、休校期間前と変わったことはありますか?

高木先生:教員も生徒もオンラインでの学習に慣れ、中学2年生~高校2年生までが端末を持っているため(中1は9月から)、学校での授業の方法もずいぶん変わりました。紙の使用量が8割ほど減った先生もいました。

 

森田先生:授業中でも生徒間の距離を保つため、グループワークなどはやりづらい状況が続いています。そこで、最近は教室でも端末を使ったグループワークを行っています。その様子を見ていると、この3か月で、生徒のICTスキルも相当向上したと感じますね。先日ある授業で、生徒達自身で国語の問題をつくってみる、という課題を出し、6人で1つのスライドをつくってもらったのですが、生徒たちはいつのまにか色々な機能を覚えていて、こちらの予想を超えるスライドが完成し、課題を出したこちらが驚かされました。また、授業時間内で作業が終わらなかったグループは、帰宅後、オンラインで協働作業をして課題の仕上げをしたそうで、こちらが言わなくてもそれを自然にやっているという状況にも、驚かされました。

 

染谷先生:生徒達のスライド、ドキュメント作成能力は、かなり向上したと思います。数学の授業でも、生徒がタブレット上で解いた答案のいくつかをピックアップして全体共有し、添削、解説するような形で授業を進めています。今は教室で行っていますが、たとえまた第2波で休校になったとしても、オンラインで同じ形で授業を進められると思います。

 

森田先生:他にも、自分が読んだ本を他の生徒にお勧めする「読書ノート」のオンライン化、生徒の作品のウェブ上での共有と相互評価、オンラインでのディスカッションなど、学校や教室でもオンライン化したほうが共有しやすかったり、作業が進めやすかったりするものは、学校が再開してもそのまま残しています。

 

高木先生:振り返ってみると、私たちはこの状況をポジティブに捉えることができたのではないかと思います。休校になり、行事や研修旅行など、できなかったこともたくさんあるのですが、この状況下で何ができるかを考え、実行した、自分の学習スタイルを振り返った、動画編集技術を身につけたなど、教員も生徒も、この状況下だからこそできるようになったことがたくさんありました。一方で、学校が再開してうれしいという生徒がたくさんいます。言語化しきれない、リアルな場所でのコミュニケーションの価値を、生徒たちも感じているのでしょう。本校の理念は「共に生きる」です。だからこそ、学校というリアルな場でできることも大切にしながら、オンラインの場もうまく活用していきたいと思います。

 

取材をさせていただき感じたのは、先生方がこの状況をとてもポジティブにとらえ、あたらしい学びの場をつくられたという事です。色々とやり方を変えざるをえないのはどの分野でも同じだと思いますが、これを転機ととらえ、新しい事に取り組む姿勢は、私も見習いたいと思いました。先生方、お忙しい中取材をさせていただき、本当に本当にありがとうございました。

<インタビュー前編はこちら>

arts.hatenablog.jp

 

サレジオ学院中学校・高等学校のウェブサイトはこちら>

www.salesio-gakuin.ed.jp

 

こちらの記事は、2020年10月に発行された ”私学の「これから」を創造する学校マネジメント情報誌:FORWARD”に清水が書いた内容の転載となります。