未来のテレプレゼンスロボットを考える―常翔啓光学園中学校の特別授業

みなさまこんにちは!先日、常翔啓光学園中学校の中学1年生の特別授業を見学させていただきました。

会場は、今年の春、梅田に完成したばかりの、大阪工業大学の梅田キャンパスです。

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こちらには、大阪工業大学のロボティクス&デザイン工学部が入り、ロボット研究、開発を中心とした設備や研究室が並びます。

 

www.oit.ac.jp

 

授業が行われた空間も、ワンフロアほぼ間仕切り無しの広い空間で、アクティビティの大きさによって間仕切りなどで空間を区切れるようになっていました。他のフロアにも様々な工夫があり「新しいものを生み出すには、創造性のある空間が必要」という意図があるそうです。

 

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今回の特別授業ももちろんロボットをテーマとしたもので、

課題は「未来のテレプレゼンスロボットを考える」です。

 

講師は大阪工業大学ロボティクス&デザイン工学部システムデザイン工学科 学科長の松井謙二先生。ゲスト講師として、テレプレゼンスロボットを実際につくられている合同会社 iPresenceの代表、クリス・クリストファーズさんが参加されました。

 

まずは本日の課題である「テレプレゼンスロボット」について、クリスさんから解説がありました。テレプレゼンスロボットとは「そこに居ずに、そこに居ること」を可能にするロボットだそうです(写真は同社"Double"の実演です)

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Skypeのような動画通話機能に、遠隔操作で画面を移動したり、向きを変える機能を追加することで、遠隔地の人がまるでそこにいるかのようにふるまうことができるそうです。(詳しくは、iPresenceさんのホームページをご覧ください)

http://ipresence.jp/double/

 

また、クリスさんからは「新しいものを世に出す=未来をつくる」ということだというお話がありました。Future(未来)=Past(過去)+Time(時間)だが、

Wanted Future(欲しい未来)=Existing Technology(現在のテクノロジー)+Missing Technology(足りないテクノロジー)という言い方もでき、技術が望む未来をつくりだすことができる、という生徒さん達へのメッセージでした。

 

 

続いていよいよ、未来のテレプレゼンスロボットをグループで考えていきます。

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アイディアを描きやすくするために、自身の1日の流れを思い出し、時系列でタイムラインに落とし込んでいきます。

毎日の生活も、あらためて思い出してみると、苦戦するようで、学校で使用している生活記録冊子を参照しているグループもありました。

 

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次に、一日の生活の中で、特に学校で過ごす時間から、自分が大切にしている時間を選び出し、代理人のロボットにお願いしたいこと(自分がその場にいなくても、自分の代わりにぜひやってほしいこと)を書き出していきます。最初は「黒板を取ってほしい」「実験がしたい」などテレプレゼンスを前提に考えていた生徒さん達ですが、次第に、学校生活での困りごとを解決する方向での要望があふれ出してきます。例えば「先生が言っていることをまとめてほしい」「代わりに勉強してほしい」「代わりに部活の筋トレをしてほしい」「忘れ物を届けてほしい」など、代行度が高くなっていくのが、見ていて面白かったです。

 

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それらの要望をもとに、具体的にロボットを使った実現の方法を考えていきます。

紙に絵を描く形で表現し、発表となりました。

 

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電子マネーでチップを払って色々やってくれる「ぱしりロボ」」「海で魚を捕ることができる」「おなかが冷蔵庫」「忘れ物や無くし物を画像解析で教えてくれる」「寂しい時に遊んでくれる」といった、様々な機能を持つロボットの案ができあがりました。それぞれがテレプレゼンスか、というと、少し離れてしまったものもありましたが、だからこそ、これからのテレプレゼンスの可能性を広げてくれるようなアイディアが多く出たように思いました。

 

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最後、松井先生、クリスさんからの講評も「みなさんの発想が豊かなので、この夢を持ち続けて実現してほしい」「それぞれのアイディアに夢があるが、それを誰が早く実現するかが大切」など、生徒さん達の発想力に触れたものでした。

 

今回特別授業を見学させていただき、イノベーションはどこから起こるのかな、ということをあらためて考えさせられました。色々な制約から自由な中1の生徒さん達。この部分を大切にしながら、企画を詰めていく力がついてくると、本当に素晴らしいでしょうね。そしてこの特別授業に関わった、講師の先生、中学の先生など、全ての大人がその成長を見守り、楽しみにされている様子を感じることができました。

 

見学をさせていただき、ありがとうございました!

ハッカソンってなあに? AngelHack Osaka 2017レポート

ハッカソン」というイベントを、ご存じですか?現在全国で、多くのハッカソンが行われているため、この言葉を目にされた方もいらっしゃるかもしれません。「アイディアソン」もあるけれど、具体的にどう違うの?どういう人が参加できるの?

 

と、私も最近までよくわかっていなかったので、百聞は一見にしかずということで、先日大阪で開催されたハッカソン「AngelHack Osaka 2017」を、見学させていただきましたので、レポートします。

 

ハッカソンという言葉は、”hack(ハック)marathon(マラソン)の2語が足しあわされた造語です。Hackという単語は色々な意味を持ちますが、この場合は、プログラミングや開発をする、という意味で使われています。多くは、数時間や数日間、連続して(マラソンですから)チームで何かを開発し、アイディアだけではなく、モックアップ(試作品)を作ってそのすばらしさを競う、というものです。つくるものはアプリだけとは限りませんが、Webサービスやアプリ、IoTなどが多いようです。テーマは、ある場合も、フリーな場合もあります。似たものに「アイディアソン」がありますが、これはコードを書いたり、モックアップをつくらないものが大半のようです。

 

あらかじめ作ってくるのではなく、限られた時間内でつくる、チームで取り組む、というのも特徴で、広く開かれたハッカソンだと、その場で初めましての方たちとチームを組み、作業を進めることもあります。

 

今回見学させていただいたAngelHack Osakaは、まさにそのような形でした。

AngelHack Osakaは、AngelHack Global Hackathonの1つで、大阪で開催されるのは初めてですが、Angel Hack 自体は今年で10回目を迎えるそうです。世界61地区(2016年度)で開催され、優勝チームは12週間の起業実現のためのカリキュラム「HACKceleratorプログラム」に参加、その後、審査を経てサンフランシスコにてピッチを行い(Global Demo Day)、さらに今年はその世界大会で選ばれた3チームが、最終的にロンドンで投資家を前にプレゼンする、という、夢のあるハッカソンです。

 

大阪の主催者の一人、丸山恵実さんは、昨年シンガポールでAngelHackのプレイベントに参加され、大阪でも開催したいと有志を募り、様々な協力者を得て、開催となったそうです。

 

AngelHack Osaka 2017は、617日、18日の2日間、大阪イノベーションハブにて行われました。大阪イノベーションハブはセミナー、イベントや、起業支援で、大阪のイノベーターを力強く後押ししてくれる機関です。

www.innovation-osaka.jp

 

詳細はこちらのページ↓とFacebookページに掲載されていますが、

AngelHack Global Hackathon Series: Osaka - AngelHack

 

写真掲載の許可をいただきましたので、その様子について少し紹介をさせていただきますね(以下写真は、AngelHack OsakaのFacebookからお借りしました)。

 

まず1日目。

午前中はアイディアソンとチームビルディングが行われます。

参加者がそれぞれのアイディアをシェアして、グループをつくります。

 

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今回は15チームができたようです。

 

午後からは早速開発(コーディング)開始。ここから翌日13時まで、ノンストップで作業が行われます。1日目は21時にいったん閉会となりますが、そのまま会場に残って作業を進めることが可能です。今回は約3分の2の方が、残って作業を続けられたそうです。未成年の方は保護者の同意があれば可能だそうですよ。

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続いて2日目。

朝から作業を続け、13時にコード提出、ランチ休憩となります。私は13時半すぎにうかがったのですが、徹夜でやり遂げたー!という雰囲気が会場に満ちていて、徹夜で模型や図面をつくっていた学生時代を思い出しました。

 

14時から、審査員の前でデモ形式のプレゼンを行います。時間は2分!審査員には株式会社フィラメントCEOの角勝さん、さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕さんなど、錚々たるメンバーがずらりと並びます。

 

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一つひとつは詳しく紹介できませんが、15チームのどのデモも、アイディアの面白さはもちろん、よくこの短時間でここまで仕上げられましたね!と感じるものばかりでした。

 

特別賞などの発表があった後、最後に最優秀賞が選ばれ、世界大会に向けて準備が始まるようです!

 

今回初めてハッカソンを見せていただき、とても面白いなあ、と思いました。コンペやコンテストだと、それぞれが別の場所で準備をし、発表、プレゼンの時に一同に会します。アイディアソンやオープンセッションだと、アイディア段階で一同に会し、プロトタイピングは別々の場で行われます。ハッカソンだと、アイディアからモックアップ完成まで、連続して同じ場所で行われます。つまり、同じ条件下、同じ時間のもと、同じ場所でライバル同士が作業を続けるという、なんとも緊張感のある、でも別の見方をすれば、みんなで一緒にがんばっている(まさにマラソン)とも言えるわけで。

 

そして会ったばかりの人たちと、チームでそれぞれの得意な部分や専門性を出し合って、何かを作り上げるって、難しいけど面白そうだなあ、と思いました。ハッカソンでは、もちろんコードを書ける人が必要なのですが、面白いアイディアを出せる人、それをプランに落とせる人もメンバーとして必要だそうです。AngelHack Osakaには、女性の参加者も多くいらっしゃいました。

 

こういった場から実際に起業をされる方もいらっしゃるそうです。素敵なアイディアをお持ちの方、ハッカソンにエントリーしてみてはいかがでしょうか!

シンギュラリティは怖くない! 「超AI時代の生存戦略」から見えたこと

みなさまこんにちは。清水葉子です。 

昨年9月末より当ブログを始めまして、約9か月、記事数が先日50を超えました!もともと、アートがもっと教育に必要だ、という直感的な思いからスタートしたものですが、9か月たって・・・まださまよっています(^_^:)(というか、どんどん新しい世界が広がって、面白がっている段階なので、まとめたくないんです)でも、アートというひとつの問いを立てたことで、このブログをきっかけにたくさんの方とお話しさせていただいたり、さまざまな情報を得られました。掲載許可をいただいた方々、情報をくださったみなさま、そしてつたないブログを読んでくださった方々、本当にありがとうございました。まだまだアートについての旅は続けていきますし、教育にアートを追加していけるよう、情報発信とは別の形でも一歩踏み出せたらと思っています。

 

さて。本日は、これからの世の中にはアートがどのように必要になってくるのか?という視点で、メディアアーティストの落合陽一さんの書籍「超AI時代の生存戦略ー2040年代 シンギュラリティに備える34のリスト」をご紹介します。

 

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落合陽一さんは、「現代の魔術師」とも呼ばれる、工学系の研究者です。ものを非接触で動かしたり、空中に立体映像をつくりだしたりという、魔法のような研究とともに、これからのAI時代はどのような世界になるのか、などの発信も積極的にされています。テレビや、様々なメディアにも登場されているので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

 

私も少し前から色々なシーンで拝見していて、未来について、とてもポジティブなとらえ方をしている方だな、と感じていました。特に、コンピュータ対人ではなくて、お互いできないことを補い合って、どうやって共存していくかを考えたほうが、楽しくないだろうか、という論調が好きでした。

 

本書でも、やはりそのことに触れらています。落合さんが恐れているのは、

テクノフォビア(テクノロジー恐怖症)とそれをあおるメディアだそうです。

 

テクノフォビアとは、これまでは技術革新、ネットワークを喜んできた人たちが、AIの登場に「次は自分の番なのではないか」つまり、自分達の仕事が奪われるのではないか、と恐れている状態で、テクノロジーを恐れるあまり、思考停止に陥ることが危険な結果を招くということです。そうではなく、機械やコンピュータの得意なこと、人間の得意なことを見極めながら共存していくことが大切だと落合さんは指摘します。

 

ではどうすれば良いのか、というところからが面白く感じたのですが、機械やコンピュータと人はどう違うのかと考えることは、つまり人間とは何なのかをもう一度捉えなおすということのようです。

 

例えば人間だけの特性としては、モチベーションや非合理性に基づいた趣味性、何かを信じること、暇つぶし、睡眠すること、抽象化して特徴量の差をとらえる能力などがあるそうです。コンピュータには限りなく透明になろうとする圧力があるそうで、非合理な部分や一見無駄と思われることは、苦手なのでしょう。それは複雑というのとは少し違って、飛躍とか想定外の組み合わせ、なのでしょうね。

 

そして今の時代が連続していくのであれば、結局サービスを受けるのは人なので、そういう非合理なことを受け入れたり、共感できるのは同じ人間、ということになりそうです。その上で、人だから人の側に立つとか、どちらが優位だ、というのではなく、「人間相手に発注するときは、モチベーションと結果と抽象化がすごく重要だけど、機械に発注するときは、具体的な指示が大事になる」「人間を動かす(プログラミングする)ための言語というのは人間のほうがうまく話せる」という落合さんのフラットな見方が面白いなあと思いました。

 

これからは、趣味=自分がこれが好き!という気持ち、どこから湧いてくるかわからないけれどもとにかく沸き起こってくるモチベーションを、それぞれが大切にしていくことが必要なのではないでしょうか。中高生くらいまでの子どもって、何かに熱狂したり、うかされることってありますよね。大人はそれに「落ち着きなさい」「まず勉強しなさい」と言ってしまいがちですが、実はそれを(それも)追求するところに、これからの生き方のヒントがあるかもしれませんね。それにはアートが重要な役割を果たすかも?というのは私の主観ですが、そんなことを考えながら読みました。

 

現実から目を背けるのではなく、現実をしっかりと見据えて、変化を楽しみながら時代に適応できるようになれば、きっと明るい未来がやってきますね。そう思える本でした。 

 

AI時代だけでなく、これからの世の中を生き抜くハックスも多く紹介されているので、中高生にもお勧めの本です。

 

www.amazon.co.jp

 

コアネットの夏のイベントCorenet New Education Fes2017(通称コアフェス)でも、落合さんにご登壇いただくことになりました。直接話を聞いてみたい方は、ぜひご参加ください。

Corenet New Education Fes 2017

子どもの主体性を伸ばす空間とは―学校建築計画セミナーより

先日、大阪で開催されたNew Education Expo2017に参加させていただきました。興味深い内容が多かったのですが、その中から学校建築計画のセミナーについて、紹介させていただきます。

 

「アクティブ・ラーニングに向けての学校計画
~日本とフィンランドにみるクラスルーム・オープンスペース・メディアスペースのつくり方と使われ方~」というタイトルで、
大阪市立大学大学院 教授 横山俊祐先生
千葉工業大学 創造工学部 デザイン科学科 准教授 倉斗綾子先生
東京理科大学 理工学部 建築学科 准教授 垣野義典先生

の3名が登壇されました。主催者様のルールで写真は掲載できませんが、文章でご紹介しますね。

 

まず倉斗先生のレクチャーです。

日本の小学校では、1980年代からオープンスクールと呼ばれる、廊下側に壁がなく、教室と廊下の境界をあいまいにし自由に使えるスタイルが増えていたのだが、2000年頃までに一度衰退、でも今は学習スタイルの変化で広いスペースを使いたいという先生が増えてきたそうです。

 

一方で、使い方がわからない、他のクラスに迷惑をかけたくないなどの理由でオープンスペースをうまく活用できていない事例も多いのだとか。

 

そこで千葉のある学校で、学年全体で授業を展開する取り組みを行ったそうです。児童達は学年の教室、オープンスペースのあるエリア全体を使い、随所に配置された解説コーナー、答合わせコーナーなどを使いながら、自分のペースで学習を進めて行くというものでした。低学年では算数で、高学年では国語、算数の2教科20時間分を、自分で時間配分も考えながら取り組むという大規模なものでしたが、それぞれ取り組みは成功し、児童たちは各々のペースや空間の使い方で学習を進めることができました。現場の先生方も実際にやってみたことで、これからの活用の可能性が見えてきたそうです。

 

また別の小学校では、校舎内に、オープンスペースだけでなく、大、中、小といった大きさの違う空間を準備しておくことで、先生たちも使いやすく、児童たちも自分の場を見つけやすくなる工夫がされていました。

 

倉斗先生は、これからの学びのための空間として、

 

・児童生徒が学びを楽しむ

・興味関心を高める

・自分の学び方を見つけられる機会をつくってあげる

 

の3つのポイントを挙げられていました。

 

どれも重要なことですが、特に3つ目のポイントが個人的には特に印象に残りました。先生が生徒の様子を観察し、環境を設定することももちろん大切なのですが、生徒、児童一人ひとりが主体的に学びを進めて行くためには、それぞれが自分にとって最適な環境、学び方を見つけていくのが一番良いですよね。

そのような「学び方を選べる」を空間でつくりこむことで、小学生のうちに学校で試行錯誤ができる、というのは、とても重要なことと感じます。

 

続いて垣野先生のレクチャーでした。

北欧を中心に、学校建築の調査をされている垣野先生。フィンランドの小学校の授業から、日本の授業のあり方を問い直してくださいました。

 

フィンランドでは2010年より「Finnish School on the move」というスローガンがあるそうです。座りっぱなしの授業ではなく、動きのある授業を目指し、教室ではスマートボード(電子黒板)と実写機(書画カメラのようなもの)が大活躍。生徒も1人1台タブレットを持っています。

 

また、フィンランドでは教室内に、勉強をする雰囲気が満ちていて、そこには先生が寄与するところが大きいようです。例えばスマートボードの登場で板書が必要なくなった先生達は、ほとんどの時間、体の正面を生徒のほうに向けていること、タブレットの活用で、先生が見ているものと生徒達が見ているものの目線を合わせること、日本のようにどの教室でも同じ掲示(ルールと生徒作品など)ではなく、学習に必要なものを掲示したり、家のような雰囲気をつくったりしていることなどです。さきほど書いた勉強をする雰囲気は決して固いものではなく、その中で生徒達が空間や学び方を自由に試行錯誤できるようになっているようでした。

 

また、フィンランドでは45分の授業時間内にペアワーク、グループワーク、レクチャーなど、たくさんのアクティビティが組み込まれているのも特徴だそうです。これをすることで、生徒の集中力が途切れないかつ、色々な学び方を体験し、自分にあったやり方を選択するきっかけになっているそうです。

 

最後に、垣野先生から日本でも再検討すべき3つのキーワード

 

・板書の意味

・教室の壁の役割

45分の使い方(授業のテンポ)

 

を挙げていただきました。

この中では特に、壁(掲示)についてはっとさせられました。どの学校でも、そして自分が小学生の時からほとんど変わらない、そして先生が決めたものを掲示する壁。これを生徒が選択できるようにすることは、自分達の場づくりの練習になるのではないでしょうか。

 

最後に、横山先生のコーディネートでディスカッションが行われました。

 

今回このお話をうかがい、これまで私が(勝手に)いだいていた、建築計画の認識が変わりました。活動に適した空間の大きさの定義や、集団のアクティビティから傾向を探るのが建築計画だと思っていました。

 

もちろんそのような側面もあるのでしょうが、集団や傾向だけでなく、生徒、児童一人ひとりの個性にフォーカスし、一人ひとり違うということを前提に、観察、分析を行われているところや、先生ではなく生徒、児童の手に空間をゆだねることを理想とし、それをすることは本当に生徒を主体的、アクティブにすることだ、と定義されていること。どちらも研究者の立ち位置は、子どもが学校の主役で、空間と現場の先生方が子ども達の成長をどう助けるか、というところになっていて、これは本当に大切なことだな、と思いました。また、学びはもちろん、生活の場としての空間についても、自分がしっくりくる空間を試行錯誤できたら、その後の人生にとても役立ちそうです。

 

ネット環境の充実で、どこでも学べるようになった今、学校という学び舎は必要?という議論もありますが、やはりリアルに集まる場を体験し、そこから学ぶことは多いなあ、とあらためて感じました。

 

先生方、貴重なお話をありがとうございました。

描くとわかることがある!―ラクガキコーチ、タムラカイさんのワークショップ

突然ですが、みなさんはラクガキが好きですか?ラクガキとまで行かなくても、何か相手に伝えたい時にそれを絵にしてみたりすること、ありますか?

個人的には大人はラクガキをする人と、しない人の大きく2つに分かれるなあ、と思います。あ、あたりまえ?でも、子どもはほぼみんな、ラクガキするような気がしますね?

 

さて先日、「ラクガキコーチ」タムラカイさんのワークショップに参加してきました。タムラさんは、デザイナーで、イラストも描かれています。さらに、話し合いの内容を同時進行でものすごいスピードで絵にしていく、グラフィッカーでもあります。ご自身で描かれるだけでなく、より多くの人に絵を描いてほしい、という思いで、ラクガキのコーチをされています。

 

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タムラさんもやはり、大人になると絵を描かなくなる人が多くなる、と考えられています。「絵ごころが無いから」と言う人が多いけど、絵ごころとは、絵を理解したり絵を描きたい!という気持ちのことなので、絵心の無い人はいない!と断言。とはいえ、しばらく絵を描いていない人のために、表情を描くためのフォーマットを紹介してくださいました。

 

それが、こちらです。(清水が再現しているので、クオリティはご容赦ください(笑))

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丸い顔の輪郭に、5種類の口、5種類の目、4種類の眉毛を組み合わせることで、なんと100通りの表情が描ける!

 

しばらくみんなで、組み合わせをつくって名付けてみました。

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たしかに、単純なパーツの組み合わせで、色々な表情が生まれますね。これを、感情を表すグラフィックという意味で「エモグラフィ」というそうです。説明資料にエモグラフィを使うことで、内容が伝わりやすくなるのは、やはりエモグラフィ―によって情報量が増えるからなのでしょうね。

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エモグラフィ―は、説明、プレゼンだけでなく、アイディアを出す時にも使えるそうです。例えば保険についてのブレストをする時、文字だけだとちょっと固くなってしまいますね。これは、言葉で考えると言葉に出来ている範囲でしか発想できないからだといいます。

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それをさきほどのエモグラフィーを使ってやってみると?

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感情が出やすくなるんですね!

顔アイコンを入れることで、ユーザーのことを無意識に考えられるようになり、そこから思わぬ課題を発見できるようになるそうです。この時のセリフは、安い映画みたいなセリフを書く(思っていることは全部口に出す感じ)のがポイントだそうです。

 

ワークショップの最後に、神戸で開催されたイベントだったので、みんなで「エモーション神戸」をやりました。

 

清水が描いた「エモーション神戸」はこんな感じです。

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他の参加者の方も「神戸は美人が多いなー」とか、文字だけでは絶対に出てこないような言葉が出てきていて、面白いなあ、と思いました。

 

ラクガキのしかたをいつのまにか忘れてしまった人は、ここからラクガキを再開してみるのが、良いのではないでしょうか!言葉では言いづらいことをエモグラフィにこめるのも、いいですね。

タムラカイさんは書籍も出されていますので、参考になさってください。

 

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タムラカイさん、楽しいワークショップを、ありがとうございました。

 

↓タムラカイさんのラクガキライフホームページはこちらです。

happyrakugaki.com

巨大オブジェ?スポーツクライミングの3つの壁を持つ、常翔啓光クライミングウォール

先日、大阪府枚方市にある、常翔啓光学園中学校・高等学校にうかがいました。

全くの別件でおうかがいしたのですが、入り口にこのような案内があり、一体これは?と用件そっちのけで教頭先生を質問ぜめにしてしまいました(すみません。。。)

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そして、5月19日に行われた、オープニング式典を取材させていただくことができました!

 

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まず、安全祈願祭がとり行われ、安全が祈願されました。右手に見えるのが「リード壁」左手が「スピード壁」。ともに世界大会の基準を満たしているそうです。リード壁の裏側に「ボルダリング壁」があります。クライミングウォールにはこの3種類があり、このように3種類が一体となった設備は、なんと全国初だそうです!

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遠景です。ウォールの高さは15mを超えていて、グラウンドに巨大なオブジェができたようです。

 

続いてオープニングセレモニー。理事長先生、校長先生、来賓祝辞の後、

ワンダーフォーゲル部の生徒さん、卒業生、顧問の先生による、ウォール試登が行われました。まずはリード壁。ボルダリングの4倍以上の高さの壁を、体につけたロープを壁に固定しながら登ります。下ではビレイヤーと呼ばれる役割の方が命綱となるロープを持ちます。

 

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この高さ!と傾斜!見ていてはらはらしましたが、生徒さん達はしっかりとした足取りで登っていました。

常翔啓光学園ワンダーフォーゲル部では、20年前からスポーツクライミングを行われていて、多くの優秀な成績を収められているそうです。

 

続いてスピード壁。こちらはまっすぐ登るものです。10数秒でするするっと登っていく姿にびっくりしました!

 

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吹奏楽部の生徒さん達も、音楽でクライミングを盛り上げます。クライミングは、何か音楽をかけながら行うのが、一般的だそうです。

 

試登はここまででしたが、セレモニー終了後、枚方市長、そして校長先生が、ボルダリング壁を登られていました!マットはあるとはいえ、すごいチャレンジです!でも、この壁は登ってみたくなる魅力がありますよね!

こちらのウォール、ワンダーフォーゲル部の生徒さん達はもちろん、体育の授業でも使われるそうです。

<左が市長、右が校長先生です>

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ボルダリングのウォールは以前から校内にはあったものの、広さも十分でなかったそうです。この壁が完成するまでには、予算の問題、法令の問題など、色々な「壁」があったそうですが、生徒達になんとか良い練習環境を用意したいという、顧問、部長の先生方の熱い想い、周囲の先生方の協力でその壁を乗り越えることができ、ついに完成しました。

そしてこの建設が決まったあと、スポーツクライミングがオリンピックの種目に採択されたそうです。これからますますクライミング人口が増えることが予測されますね。常翔啓光学園では、スポーツクライミングの発展のため、校外の方も大会や強化合宿ができるようにされるそうです。

また、文化祭等で、初心者向けのクライミング体験ができるそうです。

体力、筋力はもちろん、登りきるという精神力、先を読む力、知識、相手を信頼する力など、様々な部分が鍛えられるクライミング。一度トライしてみては、いかがでしょうか!

 

完成までの動画は、こちらから見ることができます。

www.youtube.com

 

常翔啓光学園さんのページはこちらです。

常翔啓光学園中学校・高等学校

第3の居場所としてのアート:アートセラピーと「自由創作アトリエ はらっぱ」

みなさまこんにちは。清水葉子です。先日、大阪府茨木市にある「自由創作アトリエ はらっぱ」にうかがいました。こちらを主催されている桑原則子さんは、子ども達の指導に加え、大人向けの絵手紙教室の開催や、アートセラピーの実施もされています。今回は、「アトリエはらっぱ」の見学とともに、アートセラピーについて、桑原さんがアートから受けた影響ついて、お話をおうかがいしました。

 

「自由創作アトリエ はらっぱ(以下アトリエはらっぱ)」は、3歳~中学生までが通っている絵画、造形教室です。教室は月2回で、かく日、つくる日が1回ずつ。それぞれに、テーマがある日と、自由制作の日があります。

 

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見学させていただいたのは、テーマ制作の日。母の日が近かったので、お母さんのプレゼントにもできる、UVレジンを使ったアクセサリーづくりをしていました。

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テーブルの上にはビーズやシールなど、たくさんの材料が。それを台座の上に、自由に組み合わせていきます。

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もくもくと取り組む子、「ここどうしよ」「先生こういうのない?」などと話しながら取り組む子と様々ですが、桑原さんは特にこうしなさいとは言わず、子ども達を見守ります。

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出来上がった作品にはUVレジンを流し込み、UVをあてる機械に入れて少し待つと完成です。

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お母さん、喜んでくれそうですね!

 

 

制作が終わると、自由な時間。絵を描いたり、制作をしたり。内容も、描く場所も、フリースタイル。子ども達はそれぞれ好きなスタイルで、楽しんでいました。

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アトリエには色々な画材が。本もたくさんあります。

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自由制作の日は、色々な画材や材料を使い、自由に表現できるそうです。

<自由制作の様子>

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桑原さんの子ども達への声かけは、とてもフラット。作品や制作についてのアドバイスを桑原さんからすることはほとんど無く、質問があったら答える、というスタンスです。逆に「ゴールデンウィークどこにいったん?」「あの映画見た?」といった日常に関する問いかけが多く、話したい子は色々なことをおしゃべりしながら作業を進めています。

 

見学にうかがう前、先生に技術を教えてもらうというスタイルをイメージしていた私は、不思議な印象を持ちました。でも、子ども達はとてもリラックスした様子で、自分達でどんどん手を動かしていきます。なぜか?その秘密は、「アトリエはらっぱ」のコンセプトにありました。

 

 

「アトリエはらっぱ」には、アートセラピーの要素が多く取り入れられています。まず、アトリエでは、自分が思うペースで、好きなことをする時間を持つことができます。黙々と取り組んでもよいし、おしゃべりしても良い。という場は、ありそうでないのではないでしょうか。そして、そのような場で、生徒達は次第に自分の思うように動けるようになっていくそうです。また、上手な作品をつくることが目的ではなく、ありのままを表現することが、こちらでは大切にされています。だから桑原さんは「ここをこうしたら?」とは言わず「ここはどうするの?」と聞くそうです。

 

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それは、「はらっぱのおやくそく」にも表れています。邪魔されない、評価されない場で、最初は何をすればよいかわからない子どもも、だんだん自分の表現ができるようになるそうです。「アトリエはらっぱ」に通っている子ども達は、もちろん最初は絵が好き、工作が好き、というきっかけなのでしょうが、学校でも家でもない、第3の居場所として、この場所を必要としているのではないかな、と感じました。

 

「絵を描く人は長生きする人が多い」が桑原さんの持論です。なぜなら絵を描く人は、自分の内面をぶつける先があるから。絵は上手い下手は関係なく、描くことで発散できるものだそうです。実はこれを使ったのがアートセラピー(絵画療法、色彩心理)と呼ばれるもので、言葉にできない気持ちを、絵を描くことで表現し、それによって自分の気持ちを整理したり、その絵を介して相手との対話を可能にするそうです。桑原さんはアートセラピストとしても活動されていて、今年は、子育てに悩んでいる方の訪問アートセラピー事業も始められるそうです。

 

何かについて悩んでいる人は「絵を描いている場合じゃない」と考えてしまいがちですが、そのような時こそ、絵を描くことで気持ちの整理ができたり、リラックスできることもあるとか。

 

確かに、大人になると、下手だと思われるのが嫌という気持ちが出たり、苦手意識が出てしまい、だんだん描かなくなってしまいます。でも、絵のうまい下手は関係なく、描くことで発散できるものだとしたら。そしてそれが長生きにつながるものだとしたら!描かない手は無いのではないでしょうか。アートが人に与える影響の大きさについて、あらためて考えさせられました。

 

そして、桑原さんご自身の人生にも、アートは大きな影響を与えています。

くわしくは、桑原さんのブログをご覧いただきたいのですが(最後にリンクを貼っています)、子育てをしながらもアートを生活の一部としてお持ちだった桑原さんが、あるきっかけで絵画療法という言葉に出会い、これだ!と思い、2年をかけて学び、ご自身のライフワークにされた、というお話からは、アートによって自由になったり、生きる目的を見つけられるということを、桑原さんご自身が体現されているんだなあ、と感じることができました。

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桑原さん、お忙しい中アトリエを見学させていただき、また、インタビューをさせていただき、本当にありがとうございました。アートがある人生は、やっぱり良い!

 

ameblo.jp