教育とアートについての本その5-地域を変えるミュージアム

ミュージアム、美術館には色々な役割があると思いますが、こちらの書籍「地域を変えるミュージアム」では「『地域を変える』チカラ」」に注目し、30のミュージアムが紹介されています。地域とのかかわり方や、それぞれのミュージアムの軸となる部分は事例ごとに違うのですが、共通しているのは、ミュージアムという「場」が、色々なものをつなぐ機能を果たしているということ。

 

1番目の事例「藁工ミュージアム」では、アートをテーマとして、地域の人どうしがつながっていく。

3番目の事例「十和田市現代美術館」では、世界的に評価された現代アートがきっかけとなり、そこを訪れた人と地域の人がつながる。

そして22番目の事例「京都国際マンガミュージアム」では、マンガとビジネスがつながったり、世界中の人がマンガを介しててつながったり。

 

コミュニティとかつながりって、どうしても似たようなイメージを持ちがちですが、それが発生する場の立ち位置をしっかり決めることで、色々な展開が考えられるんだなあ、と、あらためて思いました。

アートやミュージアムが媒介するものの可能性について、多くのヒントが得られますし、一度行ったことがあるミュージアムについても実はそんな意図が!という発見ができると思いますよ。

 

 

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場の力が生徒の可能性を広げる。清教学園中・高等学校のラーニングコモンズ。

 ディスカッションやグループワークで良い成果が出せるか、イノベーションが起こせるかどうかは、検討フレームや話し合いのプロセス管理、テーマ設定などとともに、「どこで話し合いを行うか」が大きく影響します。「リラックスできる」「ポジティブになれる」「新鮮な気持ちで取り組める」そんな場でワークやディスカッションができるといいですよね。

 

大阪府河内長野市にある清教学園中・高等学校の校舎内に10月、ラーニングコモンズが完成しました。図書館とも隣接した、使いやすい場所にあります。通常の授業でディスカッションをする際に使われるとともに、毎日放課後は生徒が自由に使うことができます。自習をすることもできますし、机や椅子の配置を自由に変えて、グループワークやディスカッションをすることもできます。オープンな学びの場なので、単なるおしゃべりではなく、話し合いをするための場です。

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生徒さん達が「ここはちょっと他の場所と違うな」と感じられるようにするため、カラフルで、かつ移動しやすい実用的な机と椅子を置くとともに、内装もそれに合わせて変えられたそうです。天井と柱、梁のコントラストがいいですね。

 

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ひも状のカーテンで、4つに部屋を区切ることもできます(上左)。

地元河内の木材を使った椅子のコーナーも(上右)。

 

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そしてなんといっても窓の外の景色がとても開けているので、とても開放的な気持ちになれます!

 

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貸出用としてノートPCのChromebookが200台あり、wifi環境も整っていますので、調べものや資料づくりもできます。また、同校では「e-ポートフォリオ」という、教材や生徒の成果物を保存し、活用できるWebシステムがあり、ここでもその活用が可能になります。そのほか、パーティションがホワイトボードになっていたり、ディスカッションに具体的に役立つしかけも多くあります。

 

色や形、視界などは数値化しにくいものではありますが、人の感覚に直接訴えるものでもあります。生徒がリラックスでき、アイディアがあふれるような上質な場づくりは、これからの学校にますます求められるのではないでしょうか。

これからここで行われる学びや活動がどんな展開を見せるのか、楽しみです。

アートについてのフューチャーセッションを行いました

突然ですが、みなさんは、アートって何だと思いますか?

また、アートは、生活に、人生に、必要なものだと思いますか?

 

私は日々色々なシーンで、それについて考えます。

おおむねそれは、アートが足りない、ということなのですが、

家具や空間など、モノ、についてそう思うこともありますし、

コミュニケーションにおいても、もうちょっとアートがあったら、

そして、教育現場においてもアートが足りないなあ、と感じたりします。

 

じゃあ具体的に他の言葉に置き換えると、アートって、何?

アートがあると、どんな良いことがあるのかな?ということを、もっと考えたくて、

他の人の意見も聞きたくて、先日、アートに関するフューチャーセッションを開きました。                     

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フューチャーセッションとは、さまざまなバックグラウンドを持つ人達が集まり、一つのテーマについて話し合うことです。話し合うだけではなく、そこから新しいアイディアやつながりがうまれて来ることも期待されています。詳しくは、こちらをご覧いただければ。

https://www.ourfutures.net/about/future_session

 

一緒に企画をやろうと言ってくれた、方達と、合計6名で、3ヵ月くらい準備を重ね(この段階でもかなりアートについて語ることができました)、先日、11月6日に梅田にある、関西大学のKANDAI Me RISEを会場としてお借りし、3時間のフューチャーセッションを行いました。

 

まずは、参加者それぞれに、オリジナル名札をつくっていただきます。

結構みなさん集中して取り組んでくださり、個性的な名札がたくさんできました。

 

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そして、名札も使って自己紹介をしながら、グループに分かれて、

「私にとってのアートって何か」「アートをテーマとして、これからやってみたいこと」などについて、話し合っていただきました。

 

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短時間でしたが、たくさんのアートについてのアイディアが出てきました、

アイディアをそのまま掲載はできませんが、

たとえば、こんなテーマがありました。

 

・アートや表現には枠があるべきか?

・アートとデザインの境界は?

・アートは部分なのか全体なのか?

・アートは、答えを出すものなのか 

アイディアがさらなる問いを生んでいきますね。

 

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さて、次のステップは!というオープンな形で、今回のアートに関するフューチャーセッションは終了しました。

 

引き続き、開催していきたいと思いますので、参加したい!という方は、清水までお声がけくださいね。!

4月にオープンする、新しい笠置町の窓!

京都府相楽郡にある、笠置町(かさぎちょう)ってご存知ですか?

人口1600人ちょっとで、町としては日本で2番目に小さい町だそうですが、

京都駅からも大阪駅からもそれぞれ1時間半くらいでアクセスできる、自然が豊かな場所です。町役場の方からいただいた名刺の裏面に見どころが紹介されていますが、今の季節は紅葉の名所ですし、キャンプ、ボルダリング、カヌーが楽しめるそうです。

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この笠置町に、来春、民家をリノベーションした、コミュニケーションスペースがオープンします。

 

現在はこのような民家を

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こんな感じにリノベーションするそうです。コワーキングスペース、ライブラリースペース、カフェ、宿泊スペースなどがつくられ、笠置町の人も、外から来た人も使える場になります。建物の前には広いウッドデッキが作られる予定。

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現在の建物からの眺めはこのような感じです。うかがったのがちょっと前なので、紅葉一歩手前だったのが残念。。。

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こういう美しい町、観光で訪れても楽しいものですが、もっと普段の生活について知ったり、その場所の楽しみ方を地元の人に教えてもらったりできると、もっと楽しいですよね!

外からも中からものぞける、笠置町の窓!

設計をされるのはMN設計共同体のお二人です。

(左が鈴木さん、右が広瀬さん)

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建物デザインだけでなく、建物の使い方、運営まで考えられています。

学校とのコラボも大歓迎ということですので、関西の学校の先生方、いかがでしょうか!

 

笠置町ではこのほかにも色々なプロジェクトが始まるそうです。

楽しみ!

「人生をいかに楽しく生きるか」を学ぶ、デンマークの学校

本日は、デンマークの教育システムについての勉強会にうかがってきました。

 

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デンマークに移住して19年の造形家、高田ケラー有子さんが、デンマークの教育について紹介してくださった後、デンマークに2年滞在の後、六甲に

ラーンネット・グローバルスクール 好奇心伸び放題の探究型スクール

を立ち上げられた、代表の炭谷俊樹さんと高田さんとの対談でさらにそのお話しを深めていくという、結構じっくりお話しをうかがえる会でした。

お話をうかがっていて感じたのは、教育がデンマークの中で、とても大切に扱われていることです。それは、国の政策というだけではなく、みんなが大切に思い、協力してくれるということ。例えば、先生など教育に関わる人達は、他の仕事よりも休暇が長い。それは「教育という大切な仕事に関わっているんだから、しっかり休んでください」というメッセージなんだそうです。また、保護者も子どもと過ごす休暇は必ず3週間連続してとらなければならないと決められているそう。

 

また、「人生をいかに楽しく生きるか」を学ぶところが学校、という基本があり、全員同じことができるより、それぞれが自分の力を発揮することに重きが置かれるそう。だからデンマークの人は大人でも初対面で「あなたは何ができるの?」という質問を発し、小さなことでも良いから答えられることが重要なんだそうです。

 

教育の基本は「自分で決める」「経験から学ぶ」「楽しく生きる」。

「自分で決める」はわがままなのではなくて、自分で決めたことは自分でやるという練習。親も、一方的に指示するのではなく、子どもと正面から向き合い、子どもと話し合う。そうやって、市民をつくっていき、みんなで人生を楽しめるようにする。

 

子どもを信じ、向き合うこと。人生は楽しいんだと大人の態度で示すこと。競争じゃなく、役割の認識。どれも大事なことだなあ。とあらためて感じました。

コーディネーターをつとめてくださった方のプロジェクト(美山教育の森プロジェクト)も、面白そう。それらはまたあらためて書きますね。

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教育とアートについての本その4-本当はすごい”自分”に気づく 女子大生に超人気の美術の授業

アートセラピー」って言葉、聞いたことがありますか?

私はこれまであまり良く知らなかったのですが、こちらの本を読んで、その意味や効果が少しわかったような気がしています。

 

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東北芸術工科大学で美術のワークショップを中心とした講義を行われている有賀三夏さん。本書ではその具体的な内容とともに、アートは人にとって、どんな意味を持つのか、ということをわかりやすく解説してくださっています。

 

-美術の授業には単に「美しいものをつくる」というだけでなく、「制作を通じて自分自身と向き合う」という側面があります。それをカウンセリングに活かす手法を「アートセラピー」といいます(本文より)-

 

アートセラピーとは、うまい、下手に関わらず、何かを表現することに没頭すること、制作を通じて自分と向き合うこと、それによって、自分でも気が付いていなかった自分の考えや視点に気が付くことだと、有賀さんは解説しています。

 

私も、無心になって何かを作っている時、幸せな気持ちになります。そして上手にできたかはあまり関係なく、手を動かして何かをつくっていること自体が楽しい場合が多いな、と思います。そして、忙しい時に限って何かつくりたくなります。これは無意識に、心が求めていることなのかもしれませんね。

 

また、アートは、生きる力を養うものだと本書では述べられています。身近なもので何かを作り出すことができるようになることが、生きる力につながること、また、アートを通して「型にはまらない柔軟な考え方や、さまざまな可能性を探る思考が育てば、日常生活の中でつらいことがあっても、それを乗り換える力になる」と、有賀さんは述べています。

 

アートで自分を知り、柔軟さと生きる力を育てることができるとしたら!そうしたら、もしかすると、アートは教育の中心あるべきものなのかもしれませんね。

 

教育とアートについての本その3 「今日の芸術」-芸術をすべての人に

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アートは特定の人でなく、どんな人にも必要だ!と、最近強く思っています。

先日もそんな話をしていたところ、岡本太郎さんの主張と似ているということで、こちらの本を紹介していただきました。

失礼ながら目力の強いおじさまという印象しかなく、岡本太郎さんの文章は初めて読んだのですが、とても共感できるものでした。

 

この本では、全編にわたり、全ての人が芸術に関わるべき、つまり、創造活動をするべきだ。ということが述べられています。

 

人はだれでも「現在、瞬間瞬間の生きがい、自信を持たなければいけない、そのよろこびが芸術であり、表現されたものが芸術作品なのです。」

 

というように、うまいとか下手とか他人の真似ではなく、自分の内側からあふれるものを表現するように、といったことも、繰り返し述べられています。

 

でも芸術は教えられるものではないそうで。

「芸術には教えるとか、教わるとかいうようなことは何ひとつないのです。ただ私はこの本全体をつうじて、あなた自身の奥底にひそんでいて、自分で気がつかないでいる、芸術にたいする実力をひきだしてあげたい」それがこの本の目的だそうです。

 

そのために、これまでの芸術の解釈、新しいとはどういうことか、今の時代(当時ですから約40年前)について、色々な角度から解説がされ、後半には子どもが芸術に興味を持ち続けるにはやり方を教えるのではなく、環境を与えるのがよい、といったことが述べられていました。その切り口や視点がとても面白くて、現代にも通じる部分がたくさんありました。

 

全てのものを前提条件なく、時に批判的に、でも真正面から見て論じることができる太郎さんだからこそ、みんなにこの自由を感じてもらいたい、型にはまらずに表現してほしい。と思われたのでしょう。そこには人に対する温かいまなざしがありました。そして、やり方を教えるのではなく、環境を与え、自分でやってみたいという気持ちになるのを待つ、というのは、人の持つエネルギーを信じているということで、芸術だけでなく、全ての学びにつながるのではいか、と感じ、そういうスタンスが、いまだに新しさを感じさせるのかな、と思いました。