「ティンカリング」が学びを発明するー「作ることで学ぶ―Makerを育てる新しい教育のメソッド」を読んで

みなさまこんにちは!清水葉子です。前回の投稿から2週間あいてしまいましたが、今年度も、教育とアートについて発信をしていきます。よろしくお願いいたします。

 

さて本日は、こちらの書籍をご紹介します。

「作ることで学ぶ―Makerを育てる新しい教育のメソッド」

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この本は、プログラミング、ロボット教育など、新しい技術を用いて教育を改善する活動をされている、シルビア・リボウ・マルティネス氏、ゲイリー・ステージャー氏により2013年に書かれた「Invent to Learn」が、2015年に日本語に翻訳、加筆されたものです。

 

プログラミングやメイキングを具体的手法として挙げながらも、それをゴールとするのではなく、それらを思考力を伸ばし、学びを促進するための手段として用いる、という方針が、全編にわたり貫かれています。

 

原書のタイトルにもなっている「Invent to Learn(学ぶために発明する)」は、スイスの心理学者、認識論者のジャン・ピアジェの著書「To Understand is to Invent:The Future of Education(理解することは発明すること:教育の未来)」にも関連しています。この理論は「構成主義」というのですが、人が何かを学ぶ時、そのまま知識を受け取るのではなく、自分の中でもう一度知識を組み立てなおして理解する、という考え方です。その組み立て方は人によって異なるため、それぞれが学びの構造を「発明する」必要があるということになります。

 

ではどうすればそれぞれが学びの構造を発明できるようになるか、その鍵を握るのが「ティンカリング」であると、本書では位置付けられています。ティンカリングとは、あれこれ思いつくままに知恵を絞り工夫する、いじくりまわすという行為を表す言葉です。この方法を提唱したのが、メイカー・ムーブメントをけん引したシーモア・パパート氏で、構成主義の考えかたに基づき、思考を頭の外に出して見えるようにし、手を使って試行錯誤することで、学びの構造を発明しやすくする、という理論「構築主義」として確立されました。

 

以前にこちらのブログにも書きましたが、パーソナルファブリケーションが可能となり、個人がコンピュータやそれに関連した道具を使って、安価に試行錯誤ができるようになった今、教育現場にティンカリングを取り入れることがとても容易になっています。パパート氏は教育のためのプログラミング言語や教育プログラムを開発することで、学びの環境設定に尽力しました。本書でも、環境の整え方、教師の関わり方、プログラムの案、道具のそろえ方など、実践に向けてのたくさんの手法が紹介されています。

 

「学び方はそれぞれが見つけるもの」というスタンスはまさに学習者中心の考え方といえるでしょう。手法は様々あると思いますが、例えば校内のあちこちにティンカリングができる場がある、という環境は、とても素敵ですね。そんな環境を実現するためのヒントがちりばめられている本書、お勧めいたします。

 

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