建築家ラルフ・アースキンと教育空間

みなさま、こんにちは!清水葉子です。

今日は、スウェーデンの建築家、ラルフ・アースキン(Ralph Erskine)と、彼の携わった教育空間についてご紹介したいと思います。

 

Ralph Erskine (architect) - Wikipedia

 

アースキンは日本ではあまり知られていませんが、イギリスで生まれ育ち、20代でスウェーデンに移住した後、生涯、スウェーデンを中心に多くの住宅、集合住宅、時には街区全体の設計に関わった建築家です。今ではスウェーデンは豊かな住空間、デザインを取り上げられることが多い国ですが、アースキンが移住した1940年代は、都市部への人口集中と質のあまり高くない住宅供給で、いわゆる富裕層ではない一般の人達の住環境は、貧しいものだったそうです。低予算でも色々な工夫をし、人々が自由に、楽しく過ごせるような空間づくりをしたのがアースキンでした。ご自身も、冬はスキーを楽しみ、夏は事務所ごと船で島に移動し、バカンスを楽しむなど、生活を楽しむ方でした。

 

□ヨテボリの客船ターミナル内部カフェ

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□フレスカシ大学図書館

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これらは比較的後期の建築ですが、大きな空間内に色々な要素が入っていて、色々な場がつくられています。

 

□アースキン自邸

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ご自宅もそうですね。奥のソファに座られているのが、アースキンです。2000年にインタビューをさせていただいた時の写真です。

 

なぜそのような空間をつくるのかという問に対して、「建築をデザインする時、visionalismを大切にしているからです。人々が建物の内部をどのように歩き回るか、何を感じ、どんな経験をするのか。親密な場がどうつながれるのか。空間の中で、様々な経験ができることが大切だからです」と答えてくださいました。

 

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上の2枚は、フレスカシ大学図書館の、設計段階のスケッチです。ほとんどの建築家は、設計段階のパース、スケッチを描く際、建物がメインで、人は空間の大きさを把握するためにシルエットを入れるだけです。人を手前に持ってきて、表情豊かに描きわける、というのはとても珍しくて、アースキンの設計姿勢が表れているなあ、と思わされます。

さてそんなアースキンが小学校を設計すると、どのようになるのでしょうか。

□ユットルプの小学校

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※写真は「Ralph Erskine, Architect」より転載

 

こちらは、比較的小規模な地区、ある工場に勤務する人たちのためにつくられたエリアに併設された小学校です(私は残念ながら見ることができなかったのですが、子ども達がすごくいきいきと過ごしている写真を、見せていただくことができました)。

 

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学年ごとにゾーンが分けられ、1年生は住宅のような雰囲気、高学年になると教室がだんだん学校の中心部に近くなってきています。

 

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子ども達の動きを描いたスケッチからも、4、5、6年生が教室を飛び出している様子がわかりますね。

この設計にともない、アースキンは

「what a school wants to be」というメモを残しています。それぞれの場所や子ども達の成長について書かれているのですが、特に最後の部分をご紹介します。

 

「学校は、人生においてはじめて体験するコミュニティーであり、それを恐れる感情を伴う最初の道である。そして、学校という道を通り過ぎた後に、自我が確立される。(中略)自我は学校の一部でもあり、学校は自我のためにある。それは社会や自然の一部というだけではなく、子ども達のコミュニティであり、彼らの親や大人たちのものではない」

 

ちょっと唐突で駆け足なご紹介ではありましたが、アースキンのデザイン姿勢や考え方、今学校現場でテーマとなっていることに、近い部分が多いと思い、ご紹介をさせていただきました。