悲しくなる日を楽しい時間に。生徒たちがリモートで実現した体育祭とは? -聖ヨゼフ学園インタビュー

今年は新型肺炎COVID-19蔓延の影響で、学校行事を中止や延期にされた学校は、多いのではないでしょうか。聖ヨゼフ学園中学・高等学校(横浜市鶴見区)でも、5月8日に予定されていた体育祭が中止となってしまいました。今年が最後の体育祭となる高校3年生の生徒さんたち、また、1月から準備を進めてきた実行委員の生徒さんたちは、とても悔しい思いをされたそうです。本来であれば体育祭が行われた5月8日は、とても悲しい日になるところでしたが、実行委員の4名の生徒さん達が中心となり実施した「リモート体育祭」で、大変な盛り上がりとなったそうです。本日は、その詳細と実現までの裏話をご紹介いたします。

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高校3年生 体育祭実行委員のみなさん

お話を伺ったのは、高校3年生の体育祭実行委員のみなさんです。

委員長のM.Oさんは中学1年から高校3年まで、ずっと体育祭の実行委員、他の3名の生徒さんたちも、実行委員は2年目もしくは3年目となるそうです。

 

例年の体育祭はどのように準備を進められるのですか

体育祭は毎年生徒が中心になって準備や運営を行っています。委員は、中学1年生から高校3年生まで各学年の数名ずつ選出されます。全学年の委員が決まるのは、その年度の4月ですが、高校3年生だけは前年度の1月より委員を決めて準備をし始め、競技やルールの変更点などをまとめます。新年度がスタートしてからは、高校2年生は高校3年生をサポートして、パンフレット制作などを行います。他の学年は役割分担をしながら、入退場の時に声をかけたり、競技の練習をサポート、グラウンドの整備、審判など他のチームと連携して準備を進めていきます。

 

今年はどのように準備を進めましたか

今年の体育祭については、この4名で1月から準備を始めました。新型肺炎蔓延の影響で、3月1日より休校となりましたが、その時点ではまだ体育祭はあると思っていたので、主にオンラインで、開催に向けた話し合いをしていました。プログラムや出場者など、かなり細かい部分まで決めていました。

 

体育祭の中止が決まったのは、いつですか。また、その時どう感じましたか。

3月30日に学校から一斉配信されたメールの中に、「体育祭は中止です」という一文がありました。その後担当の先生からもメールが来て、やはり中止なんだなと。委員のみんなとラインで連絡を取りあいながら大泣きしました。せっかく準備をしたのに、という気持ちもありましたし、私たちの学年はこれまで一度も優勝をしておらず、今年は絶対に優勝したいと思っていたので、とても残念でした。

 

その後、オンラインでやることを決めたのはいつですか

実は決めたのは体育祭が開催される予定だった日の前日なんです(笑)。体育祭が開催予定だった5月8日の前日、5月7日のお昼くらいに、私から他の委員のみんなに「明日が体育祭をやるはずだった日だから、その時間に4人で電話ができるといいね」とスマホからメッセージを送ったんです。そしてそのあとしばらくスマホを見ない間に、メンバー間で盛り上がり、どうせなら学年全員でやろう!ということになっていました。もちろん私も賛成し、そこからオンラインで話し合いながら、急いで準備を進めていきました(M.Oさん)。

 

それはすごく急な話ですね!どんな風に準備を進められたのですか

オンライン体育祭は、LINEのビデオ通話機能を使って参加者をつなげて行うことにしました。SNSを使って学年の全員と連絡をとり、オンライン体育祭に参加したい人にはLINEグループに入ってもらうようにしました。時間は14:00-16:00、参加条件としては

・全員ジャージ上下で参加すること(体育祭の開会式もそうなので)

・学年カラーの緑のはちまきをつけること

を設けました。競技については、色々なものをやりますよ、というアナウンスをしました。

 体育祭で使う音楽も全部ダウンロードして、準備しました。ポスターはM.Oさんがつくりました(下写真)。前日のアナウンスだったにも関わらず、学年の半分以上がLINEグループに入ってくれました。

 

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リモート体育祭のポスター

そして、当日のプログラムを決めていきました。体育祭でやる予定だった開会式、13の競技、閉会式までを通しでやることにし、オンラインでの置き換えの方法を探っていきました。

競技はオンラインでできるものとできないものに分け、難しそうなものは、動画を見ることにしました。H.AさんとA.Tさんのご家族が撮ってくれていた過去の体育祭ビデオをみんなで見ることにしたのが、「一直戦場(つなひき)」「ケツアツ測定(おしりで風船を割る)」「お嫁にもらって(花嫁さんの仮装をみんなで完成させる)」でした。また、学年演技は、前日に体育の先生に連絡し、休校になる前に撮影した動画を送ってもらいました。その時、リモート体育祭のことはお知らせせず、明日みんなで動画を見たいので、ということだけ伝えました。

 

それ以外の競技はオンラインでどうやるかを相談しながら準備をしました。開会式、閉会式も一通りやることにしたので、A.Tさんが校長先生役になり、はじめのあいさつと閉会式での全体講評、手作りの賞状と優勝杯での表彰をしてくれることになりました。また、私たちは59期生なので、H.Aさんが5と9のバルーンを準備してくれました。

 

競技をオンラインでどう置き換えていったのか教えてください。

例えば「ちょっと拝借(借り物競争)」は、学年カラーである緑の物を画面で見せるようにしました。競争ではなく、全員で緑色の画面を作り上げる、というイメージです(写真)。もうひとつ、5か9が入っているものを見せるというものもやりました。

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借り物競争の写真

「移動教室は大変」は移動教室に必要なものをカバンに入れながら走ってゴールするという競技なのですが、自宅でそれは難しいので、ジャージの上衣をはやくたたむという内容に変更しました。

「2人でお食事」は、2人3脚のパン食い競争なのですが、それを「みんなでお食事」にして、ちょうど15時頃だったこともあり、みんなでおやつを食べることにしました。

ブラックホール(玉入れ)」は、全員一定距離からゴミ箱に紙などをまるめて捨てることにしました。

「うさぎラッシュ」は大繩で8の字飛びを何回飛べるか回数を競うものなのですが、競技の音楽を流して、その間全員で飛ぶことにしました。

 

もともとの競技名もユニークですが、オンラインの置き換えのアイディアも面白いです。

準備が本当に楽しかったです。実際にできるかは不安でしたが、体育祭が大好きな4人なので、やったらなんとかなる!と思って準備を進めました。

 

5月8日当日の様子を教えてください

当日は、14:00からスタートしました。まず、開会式で使う音楽に合わせて、全員スマホの前で行進をしました。LINEは分割画面が6名だけしかできないので、私たちはみんなが歩いている姿をスライディングしながら見ていました。その後プログラム通りに、開会式、各競技、閉会式と進めて、全員で競技をしたり、動画を見たりしました。例えば借り物競争では、全員が緑色を画面に映し、画面が緑色になった景色には感動しました。また、学年対抗のリレーでは、これまでリレー選手をやってきた子たちに、いつもどんな気持ちで走っているかをインタビューしたところ、第一走者のプレッシャーや、バトンミスなどについて話してくれました。実際の体育祭だと忙しくてゆっくり話も聞けないので、オンラインで今回初めてゆっくりと話がきけたのは、逆によかったと感じます。体育祭は学年対抗なので、学年内では競争ではなく、みんなで楽しむ、という雰囲気でできました。終了時間は16:00だったのですが、休校中で久しぶりに会えたということもあり、その後17:30頃までみんなで話していました。みんなの写真を合成して集合写真もつくりました。

 

みなさんで楽しんだ様子が伝わってきます

参加した生徒達は、楽しかったと言ってくれました。次の日にあらためて「やってくれてありがとう」というメールをくれた生徒もいました。そういう反応を見て、やって良かったなと思いました。体育祭が中止になり、本来であれば体育祭をやっているはずの時間に一人でいると、「今頃体育祭やっていたんだな」と悲しくなりますが、リモートでもみんなの顔を見て一緒に色々な競技をしたり、話すことで楽しく過ごせました。体育祭が無くなってしまったその日が、楽しい日にできたのは、良かったです。ただこれはあくまでも、体育祭が中止になって寂しい気持ちを収めるためのもの。この状況が収まったらリアルな体育祭はいずれぜひやりたい。私たちはまだ今年度の開催をあきらめたわけではありません。

 

最後に、担任の宮下先生にもお話をうかがいました

 

先生方はリモート体育祭についてはご存知だったのでしょうか

私達は全く知らなかったんです。実施後、委員の4名は、体育祭担当の先生には報告したそうなんですが、私たちのところまでは伝わってきていませんでした。体育祭当日の5月8日は私も出勤していて、職員室では同僚の先生たちと体育祭の話になり、今頃生徒たちは落ち込んでいるよね。と生徒たちのことを気にかけていました。特に高校3年生の生徒たちは、学年演技もずいぶん早く仕上げていたので、並々ならぬ思い入れがあったと思うんです。だからすごく残念がっているだろうと思っていました。

その後始まった生徒とのオンライン面談で、リモート体育祭に参加した何名かの生徒から、オンライン体育祭が楽しかったという話を聞きました。それで、オンラインで写真を送ってもらったところ、すごくその写真が楽しそうだったので、良かったなと思いました。生徒達には、普段から行動力があると思っていましたが、正直ここまでと驚いたとともに、私たちが考えている以上に、生徒が学校行事を自分たちのものとして大切に、楽しみにしてくれているんだということがわかって、とても嬉しかったです(宮下先生)。

 

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インタビューをさせていただく前は、競技をオンラインでどうやったか、という部分に興味を持っていました。実際にインタビューをさせていただき、オンラインでの様々な工夫や、、オンラインならではのメリットもあることがわかりましたが、それ以上に、生徒さんたちの体育祭への熱い想いと、仲間を気遣う心、そして想いを形にできる実行力に感動しました。活動の形を変えるしかない状況下でも、想いがあればできることはたくさんある。そう思わせてもらえるインタビューとなりました。お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございました。


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