世界の事例に見るスタートアップコミュニティとそれをとりまく環境のあり方- Hack Osaka 2018レポート

みなさんこんにちは!清水葉子です。

2018227日、大阪で行われた、Hack Osaka というイベントを見学させていただきました。

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Hack Osakaとは、大阪イノベーションハブ(Osaka Innovation Hub)さん主催の、大阪でのイノベーション創出を支援するためのイベントです。講演の登壇者も、後半のピッチコンテスト出場者も、参加者も、大阪の方だけでなく、日本はもちろん、色々な国から参加されている国際的なイベントです。昨年デザインというテーマに惹かれて参加させていただき、とても面白かったので、今年もうかがいました。

 

今年のテーマは「つながる力・つなげる力でセレンディピティを生み出す-Give Before You Get-」でした。メインアリーナで行われたパネルセッションがとても面白かったので、紹介させていただきます。

 

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左から、モデレータでシリアルアントレプレナーMr. Tim Romero大阪市 経済戦略局理事の吉川 正晃氏、LeaguerX創設パートナー兼最高執行責任者Mr. Shan Lu(深圳)、テルアビブヤッファ メディア担当部長のMr. Gidi Schmerling(テルアビブ)、ロックスタート創設者Mr. Oscar Kneppersアムステルダム)、テックスターズアジア地域ディレクターMr. Oko Davaasuren(モンゴル他)です。登壇者のみなさんが関わられている地域はどこも、魅力的なスタートアップコミュニティができあがっています。

 

このセッションでのスタートアップコミュニティとエコシステムの定義は特になかったのですが、スタートアップコミュニティの中には、組織だけでなく、起業家個人も入っているようでした。ここでのエコシステムとは、ビジネスにおけるエコシステム=生態系という意味で使われていて、新しい分野で企業、投資家、個人がつくる新しい経済、流通の仕組みを指します。

 

日本に限らず以前は企業の規模によって、大企業→下請け企業という流れがあり、規模の大きい会社から小さい会社または個人に発注、指示、といった関係性が一般的だったのが、ビジネス全体の変化が早くなったこと、新しいアイディアが必要とされていることから、新しい産業でのスタートアップが注目され、政府や大きな企業も、その活躍と成長を期待、応援する状況になってきている様子が、お話を伺ってよくわかりました。セッションの中で、面白いと感じたポイントをいくつかお知らせします。

 

1.政府、行政の支援

セッションで事例に出されたスタートアップコミュニティのほとんどが、政府、行政の支援を受けていますが、行政、政府の関わり方は、場所により少しずつ異なるようでした。共通しているのは、ハッカソンやカンファレンス、ピッチコンテストなど、スタートアップ、個人が挑戦したり、仲間や投資家に出会える場を準備しているところです。加えてテルアビブでは、スタートアップの税金の減額をしたり、市内のWIFI環境の整備をし、屋外でも仕事ができるようにしたり、行政の持っているデータをオープンにして誰もが使えるようにしたりといった支援が行われています。また、アムステルダムでは、王子がスタートアップを支援する役割を担い、広く意見を聞いたり、それぞれのシーンで必要な人に引き合わせてくださるそうです。大阪市は、スタートアップだけでなく、大企業に所属する個人もコミュニティへの参加を促し、全体でのエコシステム構築を目指す一方、行政はコミュニティのけん引役でなく、民間をサポートする形を取られるそうです。

 

2.コミュニティの中の個人の意識

支援される側としてのスタートアップや個人起業家のスタンスも変わってきているようです。例えば東京のコミュニティでは、10年ほど前まではお互いにライバルという意識を持っている人が多かったのが、現在は起業家どうしでディスカッションし、お互いの経験を学ぶことを大切にする人が増えているそうです。このような環境が、結果的にみんなのゲームをレベルアップしている、というRomero氏の解説が、面白いなと思いました。アムステルダムKneppers氏も「スタートアップコミュニティにおける一番強いつながりは、人々が互いに助けることができ、また、助けたいと望む、『ピアto ピアコーチング』だと思う」とおっしゃっていて、コミュニティという環境によりかかるのではなく、コミュニティの中の個人どうしの情報共有や助け合いが大切だし、むしろ主体的にコミュニティをつくっていくことが大切なんだな、と感じました。

 

3.地域による差はさほどない?

これには登壇者の中でも意見が分かれそうでしたが、世界中でスタートアップコミュニティの立ち上げに関わられているDavaasuren氏は、立ち上げ前、その地域の人たちに「あなたはここの文化をわかっていない。ここではコミュニティを立ち上げることはできない」といったことを言われるそうです。でも結果、そこに関わるリーダー、投資家が同じビジョンを描き、実現させたいという強い思いがあれば、言語や文化は問題でなく、コミュニティは立ち上がる、ということでした。規模はともあれ、うちの文化や組織は特殊だから、と言いたい方達は、世界中にいらっしゃるのかもしれないなあ、と思いました。

 

4.街の中心部にいるという価値

これはテルアビブとアムステルダムの例として話されていましたが、コミュニティの場を準備する際、都市の中心部に人は集まりたがる、ということでした。広い場所を求めてオフィスを少しだけ郊外に移動しただけで、人の集まりは悪くなるそうです。文化の中心にいるという事に加え、様々なバックグラウンドを持った人と出会える、ということが、街の中心部にいるメリットのようです。テルアビブは、様々な業界を同じ場所に一同に集めようとしています。人々がまじりあった場所のほうが活気があり、病院関係者などスタートアップに所属する人達が、普段コンタクトを取ったことのない人たちとコミュニケーションをとることで、解決すべき問題を見つけやすくなるということです。インターネットがこれだけ普及した現在でも、人が直接出会うことの意味はあるんだなあと、あらためて感じました。

 

5.スピードと、そのための仕組みが大切

投資家や行政がスタートアップを支援する目的の一つは、スタートアップがどんどん成長し、経済効果をもたらすことです。深圳のLu氏によると、2000のスタートアッププロジェクトの中で、200を選び出して支援したところ、うまく行った会社は20社ほど、その中で大きく成長するのは1社といったことがあったそうです。確率論的に言うと、とにかく早く事業を立上げ、どんどん試していくことが必要になります。深圳では、会社設立にあたり、以前はいくつもの役所を回る必要があったのを、現在では1か所にオンライン申請をするだけで1週間以内に認可が得られるという仕組みに変え、スピードアップを図っているそうです。日本のビジネスはとても緻密だが、もっとスピードアップしたほうが良いし、もっと海外に出て、自分達のアイディアを広い世界でブラッシュアップしたほうが良い(自分達のアイディアがオリジナルだと思っていても、外に出ると同じようなアイディアは必ずある)、というLu氏のお話からは、エネルギーを感じました。

 

 

セッションを拝見し、世界のスタートアップコミュニティ、エコシステムの様子を垣間見ることができたとともに、これは特定の業界だけでなく、経済全体で起こっていることでもあるんだな、と感じました。少し前までは、企業の規模によって、できる仕事の範囲が決まっていたように思いますし、ビジネスパーソンビジネススクールに通い、基礎的なスタンスを身に着けて仕事を進める、という流れが一般的だったように思いますが、変化の速い今は、出来るだけ早く動き、お互いが情報を共有して学び合い、必要な情報や学びは都度取り入れ、都度必要な人や組織と組んでいくといった、組織も学びも必要に応じて形を変えるような状況に変化をしているのではないでしょうか。