子どものほうが美術に近い!という発見-「子供の世界 子供の造形」を読んで

こんにちは!清水葉子です。社会全体にアートの必要性が高まっている中、子どもの頃からアートに触れるということはどういうことなのか、また、子どもの表現力はどのように育つのかについて知り、環境を準備することは大切だと思います。その方法を模索する中、アートを通して子どもの表現力を育てる教室、ワークショップなどを行われている合同会社エデュセンス代表の奥村みずほさんにこちらの本をお勧めいただき、とても感銘を受けたので、紹介させていただきます。

 

関西国際大学教育学部教授の松岡宏明先生による、

「子供の世界 子供の造形」です。

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著者の松岡宏明先生は、中学校の先生として、また、大学での研究者として、ずっと美術教育に携わられてきた方です。

 

第1章では、大人と子どもが質的に異なる点について、わかりやすくまとめられています。自分と世界の関係、五感の使い方、ありかた、時間のとらえかたなど、具体的に見ていくと、決定的に違う部分が多くあり、私自身の経験に照らしても、納得できる部分が多くありました。

 

第2章では、美術の定義と、1章での子どもの定義を比較しながら、その親和性の高さが紹介されています。子どもは大人よりも、芸術活動に親しみやすく、芸術活動自体が「子供が子供という『今』を十分に満喫することができる活動としてピッタリだということ(本書より引用)」が理解できます。

 

第3章では「発達」「特徴」「美」「心理」という4つの側面から、子どもの造形について紹介されています。「発達」の部分では、子どもの絵の変化について紹介がされています。子どもにより変化のスピードは違うものの、ほぼ同じプロセスを辿るそうです。

「心理」の部分では、子どもの絵に描かれる対象の位置、大きさなどにより、表現から、子どもの感情やストレスを読み取る方法が紹介されています。

 

第4章では「見る力」について、大人が子どもの絵を見る力、子どもが絵を見る力の両方について紹介されています。

 

この本からは、造形や絵画は完成させることだけが目的ではなく、そのプロセスに様々な意味や効果があることが理解できます。また、子ども達はその成長段階により、その段階の自身に必要な表現をめいっぱいして、味わいつくし、満足するとその次の段階に進むということがわかります。子ども達にそのプロセスを味わいつくしてもらうためには、その時期に合った関わり(例えば、触って確かめる時期には絵を描く対象をきちんと触れる環境)、また、満足のいくまで造形や絵画に没頭できる時間が必要なのだと思います。本書によると、いくつかの段階を経た後、14歳~17歳に完成期を迎えると、そこから人それぞれの個性的な表現をするようになるそうなのですが、誰もがこの段階に入れるはずなのに、十分な時間や環境が無い場合が多く、この段階に到達できるのは少数だそうです。小学校高学年や、中学生くらいの段階で、自分は絵がうまく描けないと思って描くのをやめてしまう人、確かに多いと思います。そして、絵画や造形の表現をやめてしまっても別に困らないのが、今の日本の教育環境でもありますね。

 

ここに書かれているのはおもに芸術活動のことですが、その他の学習についても、これに近い発達プロセスや状況があるのではないでしょうか。カリキュラムありきで全員が決められた時間内に到達することが望まれるのではなく、年齢に応じたそれぞれの発達があり、達成時間に差はありつつも、それぞれが自分のペースで進めるよう、周りがサポートできる環境は、やはり良いと感じました。また、大人と子どもは違う、という前提に立つと、あまりにも大人目線で必要そうなものを押し付けてしまうと、子ども達に受け取ってもらえないということも、あるかもしれませんね。こと美術に関しては、大人よりも子どものほうが近いということを大人は自覚して関わったほうが良いのかもしれません。

 

ぜひ、ご自身の子どもの頃の経験や、周りにいる子ども達のことを考えながら読んでみてください。近いようで遠い、似ているようで違う、子どもの世界を知ることができると思います。