北欧の事例から日本の教育空間を見つめなおす―垣野 義典先生インタビュー その3

みなさんこんにちは。清水葉子です。

前回に続き、東京理科大学の垣野義典先生にうかがった、教育空間についてご紹介します。

 

ICT+個別学習+空間設定で、広がる可能性

最後のテーマは、ICT導入の可能性についてです。

 

↓垣野先生撮影 フィンランドの小学校の教室の様子

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フィンランドでは、2016年より、小学校のプログラミング教育が必須となったこともあり、教室でもICT化は進んでいます。

 

「スマートボード」という電子黒板が普及していて、上の写真のように、教室には黒板とホワイトボードも併設されているのですが、それらは授業や一日のタイムラインの表示や、連絡事項に使われているそうです。併せて実写投影機も準備されています。

 

「スマートボードの導入によりまず変わるのは、先生の体の向きです。板書が無くなることで、先生の体が常に児童のほうを向いた状態になるため、先生が教室の様子を観察しやすくなります。また、教材をスマートボードに映すことで、教師が見ているものと児童が見ているものが同じになり、結果目線が揃います(垣野先生)」

 

日本のICT導入とフィンランドのそれを比較すると、日本では動画導入によって教科書内容の理解を深めることに重きが置かれていて、フィンランドでは先生と生徒のコミュニケーションに重きが置かれているようです。公立でICTの導入が進んでいる東京都荒川区の小学校では、iPadに複数学年の教材が入っていて、つまずいた単元を自分で復習できるそうです。例えば5年生の児童が3年生の教科書を教室で開くのは、周囲の目もあって恥ずかしいのが、iPadだと周囲には気づかれず、自分のペースで学習ができるので良いのだそうですが、フィンランドでも個別学習の支援は進んでいて、先生が児童の課題進行具合、どの問題が解けていて、どれが解けていないかを管理できているそうです。

 

生徒が空間内に分散して滞在し、自習、個別学習時間の時間も一定数あるフィンランドスウェーデンでは、ICTの活用がその運営をスムーズにしていけますね。

 

 

日本でも、ICT+個別学習+空間のセットで考えることで、新しい展開が考えられるのではないかと感じました。例えば、自主性を育てながらも、まだフォローが必要な部分は、ICTの活用で、生徒も先生も安心して新しい環境に取り組めるかなと。

 

さて、全3回読んでいただき、ありがとうございました。

今回垣野先生にお話しをうかがい、新しい視点をたくさんいただきました。

 

まず、学校はどういう場なのかという前提条件がとても大切だということ。「もうひとつの家」なのか「オフィス」なのか「集団行動の場」なのか。また、誰のための場として想定するかにより、全く違う場になるということ。自身の経験上、考えずに当たり前だと思ってしまっていることを、もう一度考える必要があると思いました。

 

次に、空間だけに頼るのではなく、運営についてもきちんと考えること。空間が自主性を育てられるようにつくられていても、先生の指導スタイルが、徹底的な監視であれば、思うような成果は得られないと思いますし、結果的に使い勝手の悪い空間と感じる可能性もあります。

 

最後に、空間リテラシーは大切だということ。空間ボキャブラリーと言い換えても良いかもしれません。生徒はもちろん、先生にとっても、こういう時はこういう場が良いという引き出しがあれば、目的にあった様々な場がつくれると思います。垣野先生や他の学校建築計画をご専門とする先生方には、小学校のオープンスペースをどのように使ったらよいかわからないという問い合わせや依頼なども多いそうです。日本では子どものころから空間づくりについて学ぶ場が少ないので、大人にも、子どもにも、空間リテラシー教育の機会を設けていく必要があるのかもしれません。

 

今回インタビューをさせていただき、私自身、「学校ってこういうもの」という前提を気付かないうちに持ってしまっているんだなあと思いました。垣野先生、たくさんの発見をありがとうございました!

 

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