ビジネスにもアート!

アートは、サイエンスからのジャンプだ。ということを、前回書きました。分野や職業に関わらず、すべての人がアートの力、すなわちサイエンスからジャンプする力を身につけることで、世の中はもっともっと面白くなるのではないでしょうか。

 

例えば、ビジネスにおいてアートの力が発揮されるとは、どういうことでしょうか。

 

物語仕立ての企画書が、経営陣を動かした

1999年にスープ専門店「Soup Stock Tokyo」を立ち上げた遠山正道さん(現株式会社スマイルズ代表取締役社長)は、当時日本に無かったスープ+パン、スープ+ごはんという、スープをメインとした食事を提供するお店を作りたいと思い、当時勤務していた企業の新規事業として上層部に提案します。その際に事業計画書とともに提出されたのが「1998年スープのある一日」という22ページにわたる物語仕立ての企画書です。

 

「1998年 スープのある一日」は、1997年の12月に書かれています。1998年という、近い未来の設定で、Soup Stock Tokyoの店舗がある世界で、誰がどんな風にお店に来て、スープを飲み(食べ)、何を感じているかが、具体的に描かれています。物語の前半はユーザー目線、後半では、どんな場所にどんなお店がつくられ、どのように事業が展開していくかについて、事業者目線で描かれています。これが決め手となり、事業が実現します。

 

Soup Stock Tokyoは、遠山さんがファーストフード業界を経験し、調べるうちに「どうしてこうなっちゃうの?」と感じるようになり、そんなときある日突然、女性がスープをすすっているイメ―ジが降りてきたことが始まりだそうです。それをきっかけに具体的に描かれた「スープのある一日」を読むと、現在のSoup Stock Tokyoで実施していることがたくさんあることに驚かされます(遠山さんのご著書「スープで、いきます―商社マンが、Soup Stock Tokyoを作る」で全文が公開されているので、ぜひ読んでみてください)。

 

新しいビジネスには、新しい絵が必要

Soup Stock Tokyoが実現するまでには、2つのアートの力が発揮されています。一つは、現状(この場合はファーストフード業界)認識とその分析というサイエンスからの、思考のジャンプ。もう一つは、まだ世の中には無い新しい景色を一緒に見てもらうための表現力です。世の中にまだない、新しい事業を進める際には思いもよらない事がたくさん起こるでしょう。実際、Soup Stock Tokyoを立ち上げ、店舗を増やしていく過程には、たくさんの困難があり、飲食業界の方達から、経験に基づいた(!)多くの指摘もあったそうです。でもやっぱり、新しいことを実現するには、降りてきたイメージを大切にし、新しい絵(例えば実現したときのイメージ)を描く必要があるんじゃないかな!と思うのですが、いかがでしょうか。そして、それがあったからこそ、困難を乗り越え、今のSoup Stock Tokyoがあるのではないでしょうか。かなりの頻度でSoup Stock Tokyoを利用する私も、遠山さんが描いた絵(物語)の中に入っているのなら、うれしいなと思います。

 

今回ご紹介したSoup Stock Tokyoのストーリーは、ビジネスにおいてアートの力が発揮されるシーンの1つだと思います。これはどの業界でも見られそうです。もしイメージが降ってきてもそれが実現しない状況があるとしたら、イメージを得た本人がそこに向かわないか、「経験値が高い」周囲のアドバイスがそれをねじまげてしまうか、そんなことが、起こっているのかもしれません。

以前お話しさせていただいたことがありますが、 遠山さんは、面白いこと、感動することに、真っ直ぐな方だと感じました。そんなお人柄も、アートの力と関係していると思います。

 

参照:

「スープで、いきます―商社マンがSoup Stock Tokyoを作る」 新潮社

 https://amzn.to/30K3prX

f:id:yShimizu:20200119151926j:plain

 

#STEAM #アート教育