経済的に自立するためのデザインとは―「世界を変えるデザイン」を読んで

みなさまこんにちは!清水葉子です

本日は、デザインについての書籍紹介をさせていただきます。

 

「デザインは誰のために、また、何のためにあるのか?」

この大きな問の中でも「誰」について、ぐっとフォーカスして考えられるのが、

「世界を変えるデザインーものづくりには夢がある」です。

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こちらの原題は「DESIGN FOR THE OTHER 90%」で、2007年にアメリカのスミソニアン/クーパー・ヒューイット国立デザイン博物館において開催された展覧会のタイトルとなっています。本書は、その展覧会の記録です。

 

「The other 90%」とは、世界の全人口の90%の人たちを指します。2007年当時の数字でいうと、世界の全人口65億人のうち、90%にあたる58億人は、最も基本的な製品すら買えないという状況にあり、生活の向上をのぞんでいてもなかなか叶えられないという状況にあるそうです。

 

その人たちのために、デザインで何ができるか。特に「もの(製品)」とそれをとりまく環境のデザインで、どうやって経済的な自立をうながせるか。この書籍では、そこにフォーカスしたプロジェクトや製品が数多く紹介されています。

 

本書の中で特に面白いと思ったのが、本書で紹介されている多くのデザイナーが、貧困層が何を必要としているのかにフォーカスすることから、デザインをスタートさせていることです。例えば安価な農業用器具を開発、販売している「キックスタート」を設立したマーティン・フィッシャー氏は、本書の中で「貧困層が最も必要としているのは、金を稼ぐ方法だ」と述べています。例えば灌漑のためのポンプが自分達で買えるほどの価格で、それを使うことですぐに収入が増え、元手を回収できるものであれば、彼らはそれを買い、収入を増やし、経済的に自立することができます。そこに必要なのは、最新式でパワーが最大の機械ではなく、現在の仕事の規模に適した、自分達の手が届く価格の製品をデザインすることなのです。

 

その他の製品、提案についても、貧困層の人たちの生活や時間の使い方、優先順位をよく観察した上でデザインされているのが、興味深かったです。住む場所を奪われたりという状況ではなく、継続して暮らす中でつづく貧困であれば、何かその暮らしの中にヒントがあるようです。

 

また、「持っている、知っている私達」から一方的に支援をする、ということではなく、お互いが置かれている違いや、どうなりたいかを考えた上で、自立するためのツールを具体的にデザインし、提供する(購入してもらう)、という流れからは、貧困層の方々の意思を尊重しているからこそできることがあると感じました。

 

そしてこの展覧会をコーディネートしたキュレーターのシンシア・スミス氏は、デザインの力や、世界の状況を、展覧会を通して多くの人にわかりやすく伝えるための場をデザインすることに成功していると言えますね!

 

2011年には「DESIGN WITH THE OTHER 90% CITIES」という、都市に住む貧困層をテーマにした展覧会も開かれています。こちらは「もの」はもちろん、コミュニケーション、コミュニティをどうデザインするかについても多くのプロジェクトが紹介されていますので、読み比べてみても、面白いと思います。

 

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