Khan Lab School(カーン・ラボ・スクール)の設計者が語る、新しい学びに適した教育空間とは

みなさまこんにちは!清水葉子です。

 

2017年にカーンアカデミーの主催者 サル・カーン氏が中心となり開校した

Khan Lab School(カーン・ラボ・スクール)。

khanlabschool.org


・年齢ではなく、 5-15歳の生徒たちが6段階のlevel of independence (自立レベル)に分けられる
・生徒達が自分達で目標を決め、先生と相談しながら目標達成のためのカリキュラムをつくる
・次の段階に進むには、自分が次のレベルに進めることを示すプレゼンテーションを行い、審査される

という特徴を持ち、「自分が成長するためのプログラムのオーナーは自分」という、サル・カーン氏らしいコンセプトがとても魅力的で、いつか行ってみたい学校の1つです。そのカリキュラムとともに、校舎も話題になっています。

 

この校舎を設計した建築家は、Danish Kurani(ダニッシュ・クラーニ)氏。KLSだけでなく、多くの教育空間に関わられているようです。

kurani.us

 

そのクラーニ氏が、2016年10月にTED×Georgia Techで行ったプレゼンテーションが、彼の設計プロセスやスタンスをうかがえるものとなっているので、ご紹介します。

日本語字幕がなかったので、私のつたない超訳もつけておきますね。

www.youtube.com

■Danish Kurani(ダニッシュ・クラーニ)氏が、201610月にTED×Georgia Techで行ったプレゼンテーション

 

高校生の時、私は「物理をバスケットボールで説明する」という学校のプロジェクトに取り組んでいた。友人が家に来て、家の前の道でボールをバスケットのゴールに何度も入れ、1つ1つの動きを丁寧に記録していたところ、母親が窓越しにそれをいぶかしげに見ていたが、ついに外に出てきて、何をしているのか聞いてきた。母に詳細を説明したところ、(それが学校のプロジェクトだと知った)母はとても驚いた。なぜなら母が学生だった時代、学校では知識を教えられ、それを覚えるだけだったからだ。

 

私は母親の時代よりも少しインタラクティブなシステムの中にいられてとてもラッキーだったと思う。テストはあったが、知識を問うだけのものではなかった。そしてそれは、教育がこの数十年の間に大きく変わっているという証拠である。そして今の子ども達の時代、変化のスピードは、これまでになかったほど、速くなっている。

 

教育が進化し、変化しているのは素晴らしいことだが、校舎はその進歩に追いついていない。なぜこんなことが起こるのか。

 

この疑問にせまるため、校舎は通常どうやってデザインされるのかを説明したい。例えばある学校が新しい建物が必要になったとする。(担当者が)建築家を選び「私達は500人の生徒のための校舎が必要なので、25の教室と、普通の体育館、図書館、カフェテリアを作ってください」という要望を話す。建築家はオフィスに戻り、それに見合うデザインを考える。学校によって多少の違いは出るかもしれないが、結果的にはどの校舎も同じように面白みのない、感動のない、(教室の写真を見せて)この写真のような仕上がりになってしまう。

 

この空間を使うことになる人々=先生と生徒は、校舎のデザインプロセスについて相談されることもなく、プロセスに参加することもない。彼らは完成した空間で活動するように言われるだけ。それは、学習環境が先生や生徒の実際の要望ややりたい事に合わせてつくられていないということ。

 

学校はそれぞれ、文化、ビジョン、教え方、学び方について、1つの軸を持つ傾向にある。しかしその物理的な環境=校舎だけは、全く別の方向に向いてしまうといったことが起きている。

 

もうひとつの問題は、学校の建物は100年もつように作られ、変えられないということ。それは、その固定された環境が、新しい教え方、学び方に合わせられず、学校の進化を止めてしまっている。私は建築家として、この問題を何年も考えてきて、今日はひとつの解をお見せしたい。

 

ある日ニューヨークのオフィスにimaginarium Denver Public Schoolsというところから問い合わせの電話があった。彼らの依頼は、彼らが新たな教育方法の支援をしているコロンバイン小学校の空間設計をしてほしいというものだった。

 

それを聞いて私達はコロラドに赴き、コロンバイン小学校の校長先生と先生方に会った。最初の打ち合わせで彼らは、「私達は子ども達が自分達にとって快適な環境で学んでほしい。私達は彼らがそれぞれの学びをパーソナライズしてほしいし、この新しい学校のモデルに対し、わくわくするようになってほしいと思っている」というビジョンを語ってくれた。私達はすぐに、そのビジョンはコロンバイン小学校の築70年の校舎ではできないことだと理解した。

 

ここから先生たちとの協働が始まった。まず、私達は彼らに、我々がつくる家はどのようにデザインされるかを話した。例えば、家にあるキッチン、ベッドルームなどの各部屋は、調理する、眠るなどの行為をサポートするようにデザインされる、といったことだ。先生たちはその話を理解し、先生や生徒達がやりたいことを、空間がどのようにサポートできるのかについて、ブレインストーミングを始めた。

 

次のステップとして、1つの実際の部屋をつくってみることにした。その部屋のコンセプトは生徒達(の活動)を助け、勇気づけ、アイディアをシェアし、彼らがやりたいと思った色々なことができる部屋とした。先生たちとともに描いたフロアプランは、1つの空間に、レクチャースタイル、ギャラリー、大小のワークなど、さまざまな活動を内包できるようなものだった。

 

そこから私達は生徒に、学校でどんなふうに過ごしているか、どんな時に快適だと感じるか、何にインスパイアされるかなどの質問をした。そこで得られたインサイトを使って、先生たちと私達は協働して15の新しい、ユニークな活動と、学習ツールを考え出した。

 

(模型の写真を見せて)ここに全ての新しい活動とツールが含まれている。この空間が完成した時、私はそこに赴き、先生をトレーニングした。彼らが、新しい空間と学習ツールを使いこなすことができるかどうか、確認したかったからだ。

 

実は最初にお見せした一般的な教室の写真は、1年前のコロンバイン小学校の教室の写真で、再デザインの結果、こうなった(現在の教室の写真)。

 

コロンバイン小学校がこの空間を使い始めて、約1年になる。この空間は、教えること、学ぶことに大きなインパクトを与えた。先生たちによると、子ども達は以前よりも自信を持つようになり、リラックスして、そしてチャレンジできるようになったそうだ。また、以前よりもチームで協力的に活動するようになり、とてもシャイで静かだった子ども達も、みんなの前で発言するようになった。これが、学校デザインが持つポテンシャルだと私が考えるものだ。

 

コロンバイン小学校では、この解決が、彼らにとって正しかったと思う。この空間は、生徒達が自分の考えをシェアし、色々な方法で自分を表現する助けになっている。しかし、学校はそれぞれ違うニーズを持っている。ある人は、コンピュータサイエンスについて、子ども達のモチベーションを上げ、学習に熱中できるようになることを望んでいる。また他の人は、両親が学校を訪れ、より多くの時間を過ごせるようにしたいと思っている。また他の人は、学校において、お互いオープンで信頼しあう文化を持ちたいと思っている。

 

私達がどこで学ぶかは、私達がどう学ぶかのキーになると私は確信している。私達は学校の再デザインを始めなければならない。

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実際に使う先生や生徒が設計プロセスに関わるというスタイルに加え、コロンバイン小学校の事例が面白いのは、クラーニ氏と先生方が、話し合いの中で新しい学習スタイルやツールを一緒に考えているところだと思います。おそらくそこに関わられた、教育プログラムの支援者である、imaginarium Denver Public Schoolsの存在も大きかったのでは、と推測します。KLSではどんなコラボレーションがあったのかも、機会があれば、聞いてみたい!教育プログラムと校舎デザインのコラボレーション、もっといろいろなところで起こると、いいですね。

 

#Khan Lab School #Danish Kurani