北欧の事例から日本の教育空間を見つめなおす―垣野 義典先生インタビュー その2
みなさんこんにちは。清水葉子です。
前回に続き、東京理科大学の垣野義典先生にうかがった、教育空間についてご紹介します。今回は「主体性」がテーマです。
↓前回の記事はこちらです
前回のお話から、フィンランドの方達は空間リテラシーが全体的に高い、ということがわかりました。子ども達も家庭でそういった力をつけていることがうかがえますが、空間リテラシーは学校でも育てられているのでしょうか。
「子どもが自分達で活動する空間を選ぶことは、空間リテラシーが高まることにつながります。場が変わることで気持ちの切り替えができますし。そうやって場の選択を繰り返していると、自分に合った場や、『この作業にはこの場が適している』という感覚が育ってきます(垣野先生)」
自分で考え、試行錯誤できる機会の提供に、場の選択も一役かっているようです。また、教師と児童の関わり方も日本とフィンランドで違いがあるそうです。日本だと、先生が正解を持っているという認識が先生にも生徒にもあり、そのため生徒がおそるおそる発言するという状況が散見されるようですが、フィンランドでは、それが少ないため、生徒が疑問や感じたことを自分の言葉として発言しやすいそうです。空間の選択についても正解を求めない、ということなのでしょう。
主体性を育てるために、組織環境と空間環境の両方を整える
もうひとつ興味深かったのは「空間だけでは主体性は育たない」ということです。考えてみれば当然かもしれませんが、空間は活動を内包するものなので、その活動と、空間が、マッチして初めて、その空間は機能するわけです。
フィンランドでもスウェーデンでも、小学校の6年間(もしくは中学校までの9年間)で、生徒の主体性が育つ関わりがされています。その一つが「プロジェクトブック」だそうです。
「小学校1年次から、生徒達は自習ができるようになる練習を始めます。月曜日に各教科から、今週の課題が示されて、それをその週で終わらせるように自分で計画を立てるんです。はじめは先生のサポートが必要ですが、繰り返すうちに、自分で自習が進められるようになってきます(垣野先生)」
自習は、課外のこともありますが、学年が上がるにつれ、通常授業内での個別学習の時間が増えてくるそうです。先生は教室を巡回し、つまずいている児童のサポートを行います。
フィンランドはこういった活動が教室内で展開されますが、スウェーデンでは、「ユニット型」と言って、大きさの違う部屋の集合を1ユニットとし、授業の内容によって、同時に複数の部屋を使うことが多いそうです。
以下は、あるスウェーデンの小学校の5年生(2クラス)ユニットの1日の動きを、垣野先生が観察されたものです。
9:55~の活動では、A組(黒丸が児童)はビデオ視聴で1クラスにまとまっていますが、B組(灰丸が児童)は生徒がユニット内の好きな場所を選んで、演劇の練習をしています。
13:00~の活動では、2クラス合同の授業です。児童は各自好きな空間を選んで学習(自習)し、教師は巡回しながら個別指導をしています。
↓以下2枚 垣野先生の論文(「スウェーデンの学校建築その2 『ルーム』の分節からうまれるワークユニットの可変性:文教施設 2016年春号)より転載
学年が上がるにつれ、自習の時間が増えるとともに、自由な場を選んで良いシーンでの、児童の活動範囲が増えていくそうです。児童が自分で空間を選び取る力も、上がっていくのでしょう。こうやって自主性が育てられた児童・生徒達が次に進む学校(中学または高校)は、大学のスタイルに近い、教科教室型が多いそうですが、そこでもきちんと自主性が発揮され、問題なく運営されるようです。
「小学生のうちに自学できるようになると、先生も楽だと思うのですが、日本の学校だと高学年でも先生が最後まで教えようとする傾向が強いですね」と垣野先生。
最近では日本の小学校でも、生徒が落ち着けるという理由で小部屋のニーズが増えているそうで、運営プログラムも含めて転換するチャンスかもしれませんね!
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