イノベーションのためのアート・デザイン教育とは(書籍「RISDに学ぶクリティカル・メイキングの授業」から考える)

みなさまこんにちは。清水です。

 

先日、STEAM教育を提言するJohn Maeda氏と、RISD(Rhode Island School of Design)について当ブログで紹介しました。

 

本日はRISDの教育内容についての書籍紹介をしたいと思います。

RISDには、他の多くの美術・デザイン系の大学にあるような、絵画、グラフィックデザイン、彫刻、服飾、建築などの専攻があるのですが、なぜイノベーションが教育の中心にあるのかな、と本書を読む前には不思議に思っていました。

 

www.amazon.co.jp

 

本書はRISDの現学長 ロザンヌ・サマーソン氏、RISD統合化計画の統括責任者マーラ・L・ヘルマーノ氏の統括のもと、いくつかの学科の教員が、RISDの教育について、基礎教育、探究思考、ドローイング、実物教育などのテーマで、単独または討論の形式で紹介しているものです。

大学が目指すところは、イノベーションを起こせるアーティストやデザイナーを育成すること、と、とても明確です。

その手法は学科や教員によって少しずつ異なりますが、共通のテーマとして感じたのは、自身の内側だけに目を向けがちな学生達に対し、社会全体に広く目を向け、様々な視点を持つこと。現象や思いを言語化、ストーリー化できること。自分の軸を持ちながら時間をかけて探究を続けること。そして新しい形としてそれを表現し、それを説明することです。本書ではそれをクリティカル・メイキングという言葉で表現していますが、個人的には「アウトプットまで時間をかけてじっくりやる探究」という風に感じました。

 

自宅などプライベートな場を、期間を決めて貸し借りできるサービス、Airbnbの3名の共同創業者のうち、2名はRISDの卒業生です。彼らはこの事業で何をデザインしたのか?を、創業者の一人、ジョー・ゲビア氏のTEDでのプレゼンテーションでご確認いただけると思います。

 

www.youtube.com

 

お時間の無い方のためにちょっと書いてしまうと、彼らがデザインしたのは「信頼」です。見知らぬ人に部屋を貸す、という不安を解消するために、ユーザーの情報が(好印象とともに)伝わりやすいよう、サ―ビスがデザインされ、新しい形の信頼を世界中に作り上げることに成功しています。

 

また、ゲビア氏のプレゼンを聞いていると、様々な状況を言語化する力に驚かされます。もともとの能力ももちろんあるとは思いますが、RISDで培われた部分も大きいのではないかと、本書を読むと考えさせられます。言語化することで物事を再定義し、これまでになかった新しいものをデザインしていく。これぞRISD力なのではないかなあと思うのです。

 

アートやデザインって、色々な切り口があると思います。RISDは「イノベーションのためのアート・デザイン教育」と、教育の目的が明確なんだなと、あらためて感じました。

 

ではSTEAM教育が全てRISDで行われているのか?というと、近年学生はプログラミングも学習しているそうなので、近い部分もあるかとは思いますし、共通する方法はあるということなのですが、またちょっと別の話なのかと感じました。そこは私のテーマとして、継続して探究していきたいと思います。

 

↓関連記事


arts.hatenablog.jp