「STEM to STEAM」をけん引する John Maeda 氏とRISDについて

こんにちは。清水葉子です。

いよいよ夏休みも終盤ですが、みなさまはどのような夏を過ごされましたか?

私は先述しましたように暑さにまけていたのですが、それ以外で言いますと、アートに関する資料を読みあさっておりました。しかし英語の文章を読むのはなかなかスムーズに行かず、体力とともに英語力のアップを誓った夏でした。

 

さて、その中で、知れば知るほど魅力的な人物と組織について書きたいと思います。ジョン・マエダ氏と、RISD(ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン)についてです。

 

“Art and design are poised to transform world economies in the 21st century just as science and technology did in the 20th century. (サイエンスとテクノロジーが20世紀の世界経済を変えたように、アートとデザインは、21世紀の世界経済を変える)”

 

グラフィックデザイナーであり、ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(Rhode Island School of Design=RISD:アメリカ合衆国の私立美術大学)の前学長を務め、STEM教育に芸術のAを加えたSTEAM教育の提唱者である、ジョン・マエダ氏の言葉です。

 

日系アメリカ人としてアメリカ合衆国で育ったマエダ氏は、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology=MIT)工学部でコンピュータを学び、その後、筑波大学大学院で芸術を学びます。アメリカに戻りMITメディアラボの教授となり、その後RISDの学長に就任、2008年~2013年まで学長を務めた後、シリコンバレーベンチャーキャピタリストとして、スタートアップを支援し、現在は、WordPress.comの親会社Automattic(オートマティック)に所属という経歴をお持ちです。

 

サイエンス・テクノロジーとアート・デザインの両方の世界を経験された彼が発する「アートとデザインは、21世紀の世界経済を変える」という言葉には、とても説得力があると感じます。

 

STEMとは、アメリカ国立科学財団(National Science Foundation=NSF)がこれからの社会で身に着けておくべき力として、1990年代に発表したもので、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)

の頭文字を取ったものです。2013年には国家戦略となり、K-12(幼稚園から高校までの12年間)のカリキュラムもそれにそったものになっているようですね。

 

一方STEAMは、STEMに芸術(Art)を加えたもので、ジョン・マエダ氏がRISD学長に就任した2008年に発表され、前述のNSFなども巻き込んでK-12プランがつくられたり、政府に提言がなされていますが、未だ国家戦略とはなっておらず、STEAMに賛同した学校や企業、個人が様々な形で実践をしているという状況です。

 

中でもマエダ氏が強く主張をしているのは、アートやデザインは見た目を美しくするだけではなく、もっと経済やビジネスの中心にあり、なくてはならないものだということです。実際に、RISDからはAirbnbの創設者など多くの起業家が育っています。こちらのジョン・マエダ氏のプレゼンテーションにおいて、後半にリーダーシップとは何かを解説する部分があるのですが、このように全体の構造をとらえなおし、独自のフレームをつくりだすのにも、アートやデザインの力が使われているのだと感じます。

 

www.ted.com

 

先日翻訳本が出されたばかりの

ロードアイランド・スクール・オブ・デザインに学ぶ クリティカル・メイキングの授業―アート思考+デザイン思考が導く、批判的ものづくり」では、RISDの教育方法について詳細に紹介がされています。

 

www.amazon.co.jp

 

その中で私が感じたのは、RISDでは創造的問題解決の力をつけることを大切にしていて、そこにはわかりやすいプロセスがあるというよりは、多くの機会(失敗を含む)があるということです。大量のインプットをしながら、この方向性で良いのか、このコンセプトで良いのか、この手法で良いのか、この素材で良いのか、自分に問い続け、プロトタイプを繰り返す孤独なプロセスを得て、何かを生み出し、あらたな問いと向き合う。そうすることで、イノベーティブな力は育っていくのだと感じます。

 

先の書籍の中でファンデーション・スタディーズの准教授レスリー・ハースト氏が「私が何を望んでいるのかがわからない、と学生たちはよく言うが、彼らの解決策が私の要求に基づいていなければならないとでも思っているのだろうか(中略)自分で考えれば、この時点で答えより問いのほうが多くなり、私には思いもよらない場所に、彼ら自身がたどり着くだろう」と述べているのですが、こういう、自身と向き合う孤独な(本当は見守られている)時間は贅沢で、大切だなと、自身の経験を振り返っても、思います。こういう贅沢な時間、中高で取れないかなあ。。。

 

現在ジョン・マエダ氏は、1年に1度、「Design In Tech Report」を発表されていて、デザイン会社がTech系の企業やコンサルティング会社に買収されている(つまり必要とされている)ことを紹介したり、デザイナーが社会でどのように活躍しているか、どのような力が必要かなどを紹介しています。教育の世界から、卒業生達の仕事をつくりだす場所に、その立ち位置を変えられているようにも見受けられます。

 

www.slideshare.net

 

STEAM教育の広がり、アーティスト、デザイナーの立ち位置の変化、どちらの動きもとても興味深いので、引き続きウォッチして、あらためてご紹介していきますね。

サイエンスとアートの教育者が、STEAM教育についてともに考える場が、日本にもできるといいですね!

 

↓RISDホームページ

www.risd.edu

 

↓STEM to STEAMのページ

STEM to STEAM