自身と向き合う美術の授業―関西大倉中学校・高等学校 その2

先日、関西大倉中学校・高等学校にうかがい、美術の授業を見学させていただきました。前回は美術室の様子をお伝えしましたが、今回は、授業について紹介します。

 

「自由な表現ができるようになるためのカリキュラム」

関西大倉中学校・高等学校では、美術の授業は中学3年間は1時間ずつ、高校は芸術選択の1つとなり、高校1年生2時間、高校2年生1時間となります(1時間は55分)。

 

中学では基本的な道具の使い方を学びながら、木工芸、水彩、粘土、陶芸を体験します。高校では油彩、造形、デザインなどを学んだ後、2年生の後期で「選択制最終制作」を行います。絵画、立体(木彫又は自由素材)、デザイン(室内設計又は建築模型)の4つから生徒が自分で表現を選び、約15時間をかけて取り組みます。大学の卒業制作みたいですね。

 

<文化祭での作品展示>

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最終制作のゴールは、自分の考えや思いを伸びやかに表現できるようになることだそうです。

 

自分の考えや思いを伸びやかに表現する、これって、よく考えると、大人でも、いや、大人にこそ難しいことではないでしょうか。まず、自分とは何か。どんな存在かということに向き合う。その自分が発したいメッセージを自由にと言われると、何を表現すれば、と、はたと立ち止まってしまいます。たぶんこれは、何を表現すれば、ではなく、何かを表現したいという思いが沸き上がってきてこそ、表現と呼べるのでしょう。

 

「生徒たちの中には、自分に自信を持てない者もいます。高校受験を経験し、失敗することが怖くなったり、先生に求められていることを読み取り、それに応えようとする様子が見えることもあります。自信が持てないと、自分の立ち位置が見えづらく、萎縮した状態になってしまいます」と渋谷先生。

 

「線を引くとは何かを学ぶ、2時間の授業」

それを変えていくために、高校の授業は、正解を求めるのではなく、自分が感じたことを表現する体験からスタートします。高校1年生の2回目の授業のテーマは「線を引く」。線を引くことを学ぶために、2時間を使います。

 

線のトレーニングは、縦に置いた紙に、垂直と水平の線をフリーハンドで描くことからスタートします。「一発勝負で」「最高の線を」という、先生からのプレッシャーもあり、生徒さん達は誰もが真剣。なかなかうまく描けません。

 

 

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それを見ながら先生から一言「緊張して描くと悪い線や癖が出てしまう」

線は体全体で描くものだから、体が縮こまっていると良い線は描けないそうです。

それを体感するために、線の実力テストは行われたのでした。

 

<下写真の左側が縮こまった状態、右側が伸びやかな状態>

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良い線を描くコツは3つだそうです。

 -体を柔らかくして描く

 -線の先を読んだり、ねらいをつけて描く

 -リズミカルに描く

 

そして味わいながら描けるようになると、良い線が描けるようになるそうです。美術の線は記号でなく、表情としての線。だからたった一本の線でも表現出来ることがたくさんあるそうです。

生徒さん達は、はじめは、線なんてこれまで何度も引いてきたし、簡単に描ける!という雰囲気でしたが、イメージ通りにいかなかったこと、線の描き方や意味をあらためて学んだことで、次第に集中していきます。ランダムな斜線、平行線、円、楕円などの練習が続きましたが、静寂の中でさらさらと鉛筆の音が響いている。全員が線を描くことに意識を集中している、という状態は、見ているほうがぞくぞくするというか、あふれるエネルギーを感じました。

 

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