方法をたくさん知っていることの強さ―船と装丁展より

先日東京の神保町で開催されていた「船と装丁」展に行ってきました。

グラフィックデザイン事務所「tobufune」の代表およびスタッフの方々が、船をテーマにした小説の装丁を、(仕事として発注されたわけでなく)自主的に行ったものです。

内部でデザインするだけでなく、絵をイラストレーターさんに発注し、それを装丁としてデザインし、用紙と印刷方法を決定印刷を発注する、という、本格的なものです。会場ではイラスト、デザインの展示とともに、実際にその装丁がかけられた小説を購入することもできました。

tobufuneさんの装丁依頼の7割はビジネス書や実用書で、残りの3割が絵本や参考書、専門書など、小説の依頼はほとんどないそうです。ならばクライアントがいなくても自分たちでつくろう!ということで、今回の展示が実現したそうです。その心意気にまず感動したのですが、さらに面白いな、と思ったのは、tobufuneの方々のデザイン力と、紙や印刷に関する知識の深さです。いくつか作品を紹介しますね。

 

まず「ドリトル先生航海記」。イラストレーターさんのコラージュを使った作品これだけでも十分楽しい雰囲気が出ているのですが、

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さらにカラフルな文字を重ねることで、よりポップで楽しい雰囲気が出ています。

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タイトル文字は手書きをトレースしたものだそうです。また、よくみるとタイトル文字は半透明でぷくっともりあがっています。UV厚盛加工という印刷方法だそうです。

 

こちらは蟹工船のイラスト。オホーツクの荒波を表現しているそうです。

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これにカラーと独特の文字を加えることで、より迫力が出ていますよね。

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そして、印刷の質感に一番驚いたのはこちらです↓

原画が、アクリルガシュという、筆跡が残るような絵具で描かれていて、それを印刷でどう表現するかというと。。。

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↓こちらです。写真だとわかりにくいかもしれませんが、ちゃんと触って筆跡が感じられるんです!

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これは、まず、紙に白のインクで筆跡を印刷した後、その上から絵を印刷したそうです。他にも、銀色紙にその下地の色も見せながらインクを重ねたり、発泡印刷という、ぼこっとしたインクののせ方をしていたりなど、本当に多彩で豊かな表現がありました。代表の小口さんにうかがったところ、国内の印刷手法として、紙と印刷方法の組み合わせで100種類くらいはご存知ということでした。イラストレーターさんについては聞き忘れましたが、こちらもたくさんの選択肢をお持ちなのでしょう。

2次元での表現はもちろん、それにどういう技術を組み合わせれば、イメージに近いも

のができるのか、その解決方法をたくさん知っていることが、tobufuneさんのプロフェッショナルなところなんだなあ、と思いました。方法をたくさん知っていることは、表現や思考を自由にしますね。

 

今教育業界ではアクティブラーニングの議論の中で、思考力、コミュニケーション力だけでなく、そこで使える知識のインプットも必要だという主張があります。まずはインプットという考え方もありますが、知識の必要性を感じてからインプットする、という考え方もありなのではないかと思います。「イメージ通りの表現」という目的があるからこそ、小口さんはたくさんの手法をインプットできるのかなあと思いました(推測ですが)。

 

↓tobufuneさんのホームページは、こちらです。

tobufune.com