小説からアートを楽しむ-原田マハさんの小説について

みなさまこんにちは。清水葉子です。

寒い日もありますが、梅も咲き、だいぶ暖かくなってまいりましたね。春も、もうすぐです!

 

さてみなさんは、絵画を、どのように楽しみますか。色、形、バランス、筆遣い、モチーフ、ストーリー?私が発見した最近の楽しみ方は、小説です。今日は、アートに関する小説を数多く出版されている、原田マハさんについて書きたいと思います。

 

小説家、原田マハさんは、美術館勤務のご経験があり、特に印象派後期印象派を題材にした小説を多く書かれています。画家たちの日常、人となり、創作活動を、学芸員、モデル、画商、恋人、家族など、周辺の人たちの語りを通して描いたり、学芸員やコレクターなど、アートに様々な立場から関わる方の、アートへの愛を描いていきます。そのどちらからも、画家本人とその作品への愛情が感じられるものが多く、読むことでその時代の画家達がより魅力的に感じられ、作品に興味がわいてきます。

 

2012年に出版された「楽園のカンヴァス」は、素朴派と言われる画家、アンリ・ルソーの描いたある作品が、真作か、贋作かについて、2人の学芸員がその判定を迫られるというものなのです。舞台は現代なのですが、そのストーリー中には、ルソーの生きた時代についての描写も多くあり、また、謎解きのような一面もあり、楽しめます。

 

2015年に出版された「ジヴェルニーの食卓」は、短編集です。

アンリ・マティスエドガー・ドガポール・セザンヌクロード・モネの日常が、様々な視点で描かれています。パブロ・ピカソやメアリー・カサット、ゴッホゴーギャンなどがストーリーの中にちらりと登場するのも、面白いです。印象派の画家たちの中には、なかなか価値が認められず、死後初めてその価値を認められた方も多く、評価も、経済的な豊かさも得られない中での創作への熱意や、周囲の創作活動や作品に対するあたたかいまなざしを感じることができます。

 

そして、2017年に出版された「たゆたえども沈まず」は、フィンセント・ファン・ゴッホの生涯、その創作活動について、弟テオと、パリで浮世絵を中心に日本の美術品を扱っていた画商、林忠正と重吉の視点から描かれた小説です。ゴッホについてはもちろん、弟テオの人柄について、心に染みる内容になっています。ゴッホと日本の関係については、2017年に日本で開催されたゴッホ展をご覧になった方はより楽しめるかもしれません。

 

2018年に出版された「モダン」も、短編集です。

こちらは、画家や作品名も多く出てきますが、学芸員、キュレーター、監視員、デザイナーなどからみた、美術館を舞台とした物語が続きます。展覧会って、このようにつくられているんだ、美術館を運営側から見ると、こんな風になっていて、関わる人達にはこんなドラマがあるんだ、ということが、わかるお話が多いです。

 

同じく2018年に出版された「暗幕のゲルニカ」は、2001年にニューヨークで起こったテロと、1937年に起こったスペイン、ゲルニカへの空爆をテーマにし、2つの時代をパブロ・ピカソの「ゲルニカ」を切り口に、並行して描いていきます。登場人物や構成に「楽園のカンヴァス」との重なりを楽しみつつ、戦争、平和と芸術の関係について考えさせられる内容になっています。

 

どの小説も、原田さんの綿密なリサーチが下地となっているのですが、その上に、原田さんの描いた人物像、ストーリーがのせられていて、あたたかい気持ちになりますし、アートへの興味が高まります。よろしければ、読んでみてくださいね。

 

次は誰のお話が読めるのか、とても楽しみにしています。

 

原田マハさん公式サイトはこちらです。

haradamaha.com

 

こちらのworksから書籍を見ることができますよ。

芸術鑑賞も、創作活動である-「20年経った今、日本の対話型鑑賞はどうなったのか?」に参加して

みなさまこんにちは。清水葉子です。早いもので今年ももう3月!まだ寒い日もありますが、梅や桜が楽しみな季節がやってきますね。

 

さて、少し前になりますが、1月26日、NPO法人Educe Technologiesさん主催の勉強会「20年経った今、日本の対話型鑑賞はどうなったのか?」に参加させていただきました。テーマは、作品を対話しながら鑑賞する「対話型鑑賞」でした。最近仕事で少し芸術鑑賞に関わっていることもあり、鑑賞とは何か、もっとよく知りたくて、参加しました。

 

まずグループで対話型鑑賞の体験をした後、主催の吉川さんより、対話型鑑賞の歴史や、日本に導入された経緯についての説明がありました。その後、3名のゲストの先生方(神野真吾先生(千葉大学教育学部 准教授)、三澤一実先生(武蔵野美術大学造形学部 教育課程研究室 教授)、平野智紀先生(東京大学大学院 学際情報学府 博士課程))にお話をうかがった後、その内容についてグループで話し合う、という流れでした。4時間がとても短く感じる濃い内容で、とても勉強になりました。

 

学んだこと、感じたことはたくさんあるのですが、2点共有します。

 

1.鑑賞も、創作であるということ

この言葉に個人的に一番衝撃を受けました。手を動かさない鑑賞という行為を、どのようにアートの中に位置づけるべきかともやもやしていたのですが、たしかに鑑賞も創作なんです!厳密に言うと、ただ見るという行為が創作という訳ではなく、作品を見て、感じたこと、考えたことを鑑賞者が自分の中で再構成することを、創作と呼んでいます。これは知識を自身で構成して理解する、つまり学び方を創作するという構成主義の考え方と重なります。感じたことを文字そしてストーリーにすることも助けます。

 

2.鑑賞者に提供する情報は、鑑賞者が再構成可能な形で行うこと

この勉強会では、芸術鑑賞と情報提供の関係についても、大切なテーマになっていました。情報の内容や、提供のタイミングはどういったものが適切か、ということです。これを「鑑賞は創作」という考え方に基づいて考えると、とてもクリアになると感じました。つまり、鑑賞者を主体とし、鑑賞者が創作活動をするために必要になる情報提供を、鑑賞者が必要とするタイミングで提供するのが最も効果的ということです。三澤先生のお話の中にあった情報の分類は、それを模索するのにとても有効だと感じました。「提供」と書きましたが、鑑賞者が自分で情報を拾える環境、といったほうがしっくりくるのかもしれません。

 

当日写真を撮ることをすっかり忘れておりまして、言葉だけでわかりづらい部分もあり、恐縮ですが、上に挙げた2点の観点を得られ、芸術鑑賞について、より面白いと思えるようになりました。平野先生が翻訳に関わられている「学力をのばす美術鑑賞 ヴィジュアル・ シンキング・ ストラテジーズ: どこからそう思う?」にもそのあたりのことが書いてあります。あと、書きそびれた「対話型」についてもよくわかります。興味をお持ちの方は、ぜひ読んでみてください。

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会場や話し合いの場もとても心地よいものでした。参加させていただき、ありがとうございました。

セルフマネジメント力は、これからの教育の場にも必要な力―「管理ゼロで成果はあがるー『見直す・なくす・やめる』で組織を変えよう」を読んで

昨年末のブログにも書かせていただきましたが、教育の領域では、これからますます学習者主体の環境と学びの個別化が進んでいきます。学習進度を周りに合わせなくてよいのは学習者にとって大きなメリットですが、それは同時に、自分で学びを進めていく難しさに直面することでもあります。

 

先日コアネット発行の情報誌「FORWARD」の取材同行で、株式会社ソニックガーデンの代表取締役社長、倉貫義人さんにお話を伺う事ができました。会社の運営、人材育成のお話がメインでしたが、現在の教育課題に通じるヒントもたくさんいただきましたので、ご紹介したいと思います。

 

倉貫さんには2年前に関西で行われた「リモートワークジャーニー」という講演会+ワークショップで初めてお話を伺いました。ソニックガーデンは、全員がリモートワークという会社組織であること、クライアントとの打ち合わせや採用面接もリモートで行うという事実と、リモートワークの肯定的なとらえ方に衝撃を受けたことを今もはっきりと覚えています。その後、リモートワークだけでなく「納品のない受託開発」という新しい仕事の進め方を採用されていること、上司がいなくて、決裁や有給休暇の申請も必要ない組織であることを知りました。

 

そして今回お話を伺い、そういった一見自由に見える組織や働き方を可能にする「セルフマネジメント」とはいったいどういうもので、どのようにその力をつけるのかを教えていただき、さらに衝撃を受けました。

 

セルフマネジメント力(りょく)とは、自分で自分を管理する力です。これがあると、自分が担当する仕事に時間やリソースなど、何がどのくらい必要かを把握することができ、それに基づき自分で仕事を進めることができます。そのため、上司の指示や管理がいらなくなり、リモートでも問題なく仕事ができるようになるのです。ソニックガーデンのような環境は、セルフマネジメント力がある人にとっては、とても自由でやりがいがある一方、まだセルフマネジメント力がついていない人にとっては決して楽ではない環境なんです。私はここがとても面白いところだと感じます。

 

そしてソニックガーデンには、セルフマネジメント力をつけるための段階的なサポートがあります。会社として、ここまでできたらどのくらいのレベルにいる、ということをあらかじめ設定しているのですが、そのレベルには役職のように人数枠がなく、全員が一番上のレベルになることが奨励されています。また、定期的な仕事の振り返りで、自分のレベルについて確認していくのですが、それも上司の一方的な評価ではなく、先輩のサポートを受けながら、自分自身で仕事のやり方を振り返り「よかったこと」「悪かったこと」「次にやってみること」の3つの視点で、次のアクションにつなげる形で振り返りを終わるといったやり方をとられています。

 

このやり方が一般的な会社組織と大きく違うのは、社員のみなさん一人ひとりが、自分の成長に目を向けて、自分で改善を重ねていけるところだと思います。上司など他者からの評価が育成の軸になる場合、連続的に自己成長をすることが難しくなることもありますよね。

 

私はこの部分が特に、これからの学校現場に求められることと重なると感じました。

これからの教育の場で、学習者一人ひとりが、自分で学びを進めていけるようになるには、先生からの評価だけでなく、自身での振り返り、改善が欠かせないのではないでしょうか。そしてそれができるようになる未来は決して辛いものではなく、自分で決められることが多い、楽しい未来なんだな、ということが、今回お話を伺い、強く感じたところです。

 

倉貫さん、お忙しいところ色々と教えていただき、本当にありがとうございました。

 

セルフマネジメント力のもっと具体的なお話はもちろん、チームでどう成果を出すか、あたりまえと思われてきた制度を無くすとどんな効果があるかなど、1月に出版されたばかりの倉貫さんのご著書「管理ゼロで成果はあがるー『見直す・なくす・やめる』」に詳しく書かれています。ぜひお読みくださいね。

 

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2018年のアートについての思考は、「個性」と「環境」がキーワードでした

みなさまこんにちは。清水葉子です。

各地で雪が見られるなど、急に冬らしくなってまいりましたが、お変わりなくお過ごしでしょうか。

2018年もあと1日となりました。

今年もこのブログをきっかけに、多くの方と出会えたこと、とてもうれしく思っています。また、ブログ読んでるよ!と色々なところで言っていただき、本当にうれしかったです。ありがとうございます!

 

ブログを振り返ってみると、今年のテーマは「個性」だったなぁ、と思います。

それぞれが持つ個性を最大限に発揮することが、それぞれの創造力を伸ばす、そして、その個性を発揮するための手法が、アートだ、という考え方です。

 

東北芸術工科大学の有賀三夏先生が実践されている、多重知能理論、芸術思考は、その部分を大切にされています。

個性はinputにもoutputにも発揮される-自分の強みを見つけよう-「8つの知能」で未来を切り開く を読んで - Arts in Schools

 

ピカソプロジェクトを主催されている、合同会社エデュセンスさん。子ども達がリラックスしてどんどん描きたくなる場づくりが、すごいです。

子ども達の表現力を伸ばす!ピカソプロジェクト-アートの特別授業 at 波除学園 - Arts in Schools

 

・個性爆発、を感じたのは、ラーンネット・グローバルスクールです。自分たちで考え、実践できる場を多く用意すれば、子ども達は伸びるということを感じました。

「自ら学ぶ力」と「探究心」を育むラーンネット・グローバルスクール。その環境とカリキュラムとは? その1 - Arts in Schools

 

「自ら学ぶ力」と「探究心」を育むラーンネット・グローバルスクール。その環境とカリキュラムとは? その2 - Arts in Schools

 

発揮するだけでなく、学ぶ部分にも、個性を考慮したほうがうまくいく、という考え方にも、あらためて感銘を受けました。

 

・こちらの本には、ものづくりをベースに個人が試行錯誤するための環境の作り方が紹介されています。

「ティンカリング」が学びを発明するー「作ることで学ぶ―Makerを育てる新しい教育のメソッド」を読んで - Arts in Schools

 

・また、こちらの本には、教科の先生+芸術の先生がペアで授業を行うことで、子ども達が多様な学び方ができる環境を作る方法が紹介されています。

教科を超えた協働がSTEAM教育を実現する―「AI時代を生きる子どものためのSTEAM教育」を読んで - Arts in Schools

 

このように振り返ってみると、アートと個性に加え、環境が、大切なキーワードになっていることがわかります。

 

折しも6月に文部科学省経済産業省から発表された文書から「学びの個別化」という方向性が見えてきました。STEAM教育やものづくり教育の実践例もでてきました。来年は、学校という現場で、アートがどのように作用していくのかに、より注目し、またブログに書けたらいいなあと思っています。

2019年もどうぞよろしくお願いいたします。

生徒がアーティストの作品を紹介する、富士見丘中学校・武蔵野美術大学「Feeling展」

 

みなさまこんにちは。清水葉子です。先日、東京都渋谷区にある富士見丘中学校で行われた、武蔵野美術大学と共同開催の「Feeling展」を見学させていただきました。富士見丘中学校・高等学校の中学1年生~3年生と、高校2年生で行われている探究学習「自主研究5×2」の一環で、中学2年生の生徒さんたちが、武蔵野美術大学の学生およびプロのアーティストの作品と、キュレーションについて半年かけて学び、来場者に作品の解説を行うというアートイベントです。

 

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6回の授業で、武蔵野美術大学を訪問し、アートについて学び、アートの制作現場を見たり、美術館の学芸員の方に講義を受けたりしながらアートの知識を深めていきます。また、数名ずつのグループに分かれ、解説を担当するアーティストとのコミュニケーションを行い、作品についての情報を集めます。また、展示会場のレイアウトやおもてなしの方法の検討も行います。

 

全体のキュレーション、アーティストの選定は、武蔵野美術大学芸術文化学科教授の杉浦幸子先生がつとめられます。

 

当日の会場の様子です。

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日本画、写真、油絵など色々な作品を、それぞれ担当の生徒さんたちが解説してくれました。解説を聞くことで、作品自体にも発見があるのですが、特に面白かったのは、その作品にまつわるエピソードです。例えば、あるアーティストが動物の絵を描くために、何度も特定の動物園に見にいくこと、あるアーティストが絵をあえて未完成にしておく理由など、アーティストの人物像が見えてくるようなお話を色々とうかがうことができました。これは生徒さん達がアーティスト本人から直接話を聞いているからこそ、親近感を持って語れるのだと感じました。アーティストの方達も、生徒さんたちの素朴な疑問や感想が、刺激になるということでした。

 

作品制作に使われている画材の展示コーナーや、映像コーナーもあります。

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生徒さんたちによるお茶のサービスや、感想の展示コーナーも素敵でした。

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生徒さん達を通してアートを身近に感じることができる、とても楽しいイベントでした。

見学させていただき、ありがとうございました。

 

プラットフォームはどう「デザイン」されるのか―「プラットフォーム革命」を読んで

みなさまこんにちは。清水葉子です。

例年よりあたたかいとはいえ、いよいよ本格的に寒くなってまいりましたが、風邪などひかれていませんか。

私は9月、10月と原稿やインタビューが立て続けにあり、終わったところでどっと疲れが出ました。が、休息もかねて色々な本を読むことができました。アートを題材にした小説にも夢中になりまして、そちらについても改めて書きたいと思うのですが、本日はデザインの視点でビジネスのプラットフォームについて書かれた、

「プラットフォーム革命」-経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか について、ご紹介をいたします。

 

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こちらは、自らもプラットフォームの運営、構築支援をされているアレックス・モザド氏、ニコラス・L・ジョンソン氏による、「プラットフォーム」というビジネスモデルの分析と、そのデザイン方法の解説書です。

 

ビジネスにおけるプラットフォームとは、消費者と、サービスやプロダクトの提供者(本書ではプロデューサーと呼ぶ)を結ぶためにつくられたマーケットのことです。

様々なアプリが購入できるApp Storeや、FacebookYou Tubeもそうです。

プラットフォームでやり取りされるものは、様々ですが、そのプラットフォームが無ければ、価値を生まなかったものも多くあります。

空き室や空家を宿泊施設として提供する、airbnb(エアビーアンドビー)も、そうですね。

airbnb TED - Bing video

 

上の動画では、airbinbの創業者であるジョー・ゲビア氏がそのデザインについて語っていますが、本書でも、それらがどうデザインされているのか、さらに、プラットフォームとして機能するまでにどういった準備が必要なのかについて、様々な事例を用いて解説がされています。

 

インターネットの発達により、多くのプラットフォームが実現可能になった一方、機能するものとして作り上げるには、たくさんのアナログな努力が必要だし、やはりアナログでうまくいかないものはデジタルでもうまくいかないということが、本書を読んでよくわかりました。ただ、優れたデザインにより良いプラットフォームをつくることができれば、消費者とプロデューサーの双方が良い影響を与え合い、単独の提供者だけでは無しえないような大きなムーブメントを起こすことができるんだなと、本書を読んで感じました。

 

一人ひとりがアイディアを出し合ってつくる面白い場、それが育つ環境をデザインするのが、プラットフォームをつくるということなのかもしれません。巨大なプラットフォームにばかり目が行ったり、脅威に感じてしまうこともありますが、まだまだ新しいプラットフォームができる余地があるのかなと、期待を持てる本でした。

演劇というアートについて―「わかりあえないことから-コミュニケーション能力とは何か」を読んで

みなさまこんにちは。清水葉子です。

暑かった日本の夏がようやく過ぎ去り、すっかり秋になってまいりました。

1年を通して行事があまり多くない10月、11月は、読書が進むので私が好きな季節です。

 

さて本日は、演劇というアートについて書いてみたいと思います。

造形と比べて、見る方も演じるほうも個人的にあまり経験が無い演劇について、アートやアート教育においてどのように捉えて位置付ければ良いのかわからなかったので、劇作家、演出家で、子どもから大人まで、数多くの演劇ワークショップを行われている平田オリザさんのご著書を読んでみました。

2012年に出版された「わかりあえないことから-コミュニケーション能力とは何か」という本です。

http://urx.blue/MxqS

 

コミュニケーションとは何か、という話から本書は始まり、そのわかりやすい定義にも納得をさせられるのですが、教育現場や社会でのこれまでのコミュニケーション教育におけるダブルバインドの解説が特に興味深かったです。それは「思ったことを自由に表現しなさい」と言われる一方で「空気を読みなさい」と言われるといったようなことで、その他の表現教育とも共通する部分が多いと感じました。

 

平田オリザさんの演劇ワークショップでは、役割、状況設定が与えられた上で、セリフは自分たちで考えるというものです。これが、自分とは違う立場にいる人がどのように感じ、どのように言葉を発するのか(発しないも含め)考える機会となり、人生の経験になる、というところが、面白いと思いました。

 

またもうひとつ大切な要素としては、平田さんの演劇ワークショップの表現には正解が無いということです。それはきっと、普段の自分と違う立場を自分ごととして経験し、感情や表現を発見することが大切で、違う立場の人の気持ちを決めつけるものではないからなのではないかな、と感じました。

 

「自由に表現できる環境と機会があり、そこでの試行錯誤を通して自分で発見をする」これが最近私が良いと思っている場なのですが、この本を通して、それが演劇という環境にもある事に気が付かされました。読むまでに購入してから2年も経ってしまっていて、もっと早く読めばよかったです。

 

文化の違いによる言葉の捉え方の違いや、演劇についてなどもとっても面白かったです。秋の夜長の読書にお勧めの1冊です。

 

#わかりあえないことから

#コミュニケーション能力とは何か