Khan Lab School(カーン・ラボ・スクール)の設計者が語る、新しい学びに適した教育空間とは

みなさまこんにちは!清水葉子です。

 

2017年にカーンアカデミーの主催者 サル・カーン氏が中心となり開校した

Khan Lab School(カーン・ラボ・スクール)。

khanlabschool.org


・年齢ではなく、 5-15歳の生徒たちが6段階のlevel of independence (自立レベル)に分けられる
・生徒達が自分達で目標を決め、先生と相談しながら目標達成のためのカリキュラムをつくる
・次の段階に進むには、自分が次のレベルに進めることを示すプレゼンテーションを行い、審査される

という特徴を持ち、「自分が成長するためのプログラムのオーナーは自分」という、サル・カーン氏らしいコンセプトがとても魅力的で、いつか行ってみたい学校の1つです。そのカリキュラムとともに、校舎も話題になっています。

 

この校舎を設計した建築家は、Danish Kurani(ダニッシュ・クラーニ)氏。KLSだけでなく、多くの教育空間に関わられているようです。

kurani.us

 

そのクラーニ氏が、2016年10月にTED×Georgia Techで行ったプレゼンテーションが、彼の設計プロセスやスタンスをうかがえるものとなっているので、ご紹介します。

日本語字幕がなかったので、私のつたない超訳もつけておきますね。

www.youtube.com

■Danish Kurani(ダニッシュ・クラーニ)氏が、201610月にTED×Georgia Techで行ったプレゼンテーション

 

高校生の時、私は「物理をバスケットボールで説明する」という学校のプロジェクトに取り組んでいた。友人が家に来て、家の前の道でボールをバスケットのゴールに何度も入れ、1つ1つの動きを丁寧に記録していたところ、母親が窓越しにそれをいぶかしげに見ていたが、ついに外に出てきて、何をしているのか聞いてきた。母に詳細を説明したところ、(それが学校のプロジェクトだと知った)母はとても驚いた。なぜなら母が学生だった時代、学校では知識を教えられ、それを覚えるだけだったからだ。

 

私は母親の時代よりも少しインタラクティブなシステムの中にいられてとてもラッキーだったと思う。テストはあったが、知識を問うだけのものではなかった。そしてそれは、教育がこの数十年の間に大きく変わっているという証拠である。そして今の子ども達の時代、変化のスピードは、これまでになかったほど、速くなっている。

 

教育が進化し、変化しているのは素晴らしいことだが、校舎はその進歩に追いついていない。なぜこんなことが起こるのか。

 

この疑問にせまるため、校舎は通常どうやってデザインされるのかを説明したい。例えばある学校が新しい建物が必要になったとする。(担当者が)建築家を選び「私達は500人の生徒のための校舎が必要なので、25の教室と、普通の体育館、図書館、カフェテリアを作ってください」という要望を話す。建築家はオフィスに戻り、それに見合うデザインを考える。学校によって多少の違いは出るかもしれないが、結果的にはどの校舎も同じように面白みのない、感動のない、(教室の写真を見せて)この写真のような仕上がりになってしまう。

 

この空間を使うことになる人々=先生と生徒は、校舎のデザインプロセスについて相談されることもなく、プロセスに参加することもない。彼らは完成した空間で活動するように言われるだけ。それは、学習環境が先生や生徒の実際の要望ややりたい事に合わせてつくられていないということ。

 

学校はそれぞれ、文化、ビジョン、教え方、学び方について、1つの軸を持つ傾向にある。しかしその物理的な環境=校舎だけは、全く別の方向に向いてしまうといったことが起きている。

 

もうひとつの問題は、学校の建物は100年もつように作られ、変えられないということ。それは、その固定された環境が、新しい教え方、学び方に合わせられず、学校の進化を止めてしまっている。私は建築家として、この問題を何年も考えてきて、今日はひとつの解をお見せしたい。

 

ある日ニューヨークのオフィスにimaginarium Denver Public Schoolsというところから問い合わせの電話があった。彼らの依頼は、彼らが新たな教育方法の支援をしているコロンバイン小学校の空間設計をしてほしいというものだった。

 

それを聞いて私達はコロラドに赴き、コロンバイン小学校の校長先生と先生方に会った。最初の打ち合わせで彼らは、「私達は子ども達が自分達にとって快適な環境で学んでほしい。私達は彼らがそれぞれの学びをパーソナライズしてほしいし、この新しい学校のモデルに対し、わくわくするようになってほしいと思っている」というビジョンを語ってくれた。私達はすぐに、そのビジョンはコロンバイン小学校の築70年の校舎ではできないことだと理解した。

 

ここから先生たちとの協働が始まった。まず、私達は彼らに、我々がつくる家はどのようにデザインされるかを話した。例えば、家にあるキッチン、ベッドルームなどの各部屋は、調理する、眠るなどの行為をサポートするようにデザインされる、といったことだ。先生たちはその話を理解し、先生や生徒達がやりたいことを、空間がどのようにサポートできるのかについて、ブレインストーミングを始めた。

 

次のステップとして、1つの実際の部屋をつくってみることにした。その部屋のコンセプトは生徒達(の活動)を助け、勇気づけ、アイディアをシェアし、彼らがやりたいと思った色々なことができる部屋とした。先生たちとともに描いたフロアプランは、1つの空間に、レクチャースタイル、ギャラリー、大小のワークなど、さまざまな活動を内包できるようなものだった。

 

そこから私達は生徒に、学校でどんなふうに過ごしているか、どんな時に快適だと感じるか、何にインスパイアされるかなどの質問をした。そこで得られたインサイトを使って、先生たちと私達は協働して15の新しい、ユニークな活動と、学習ツールを考え出した。

 

(模型の写真を見せて)ここに全ての新しい活動とツールが含まれている。この空間が完成した時、私はそこに赴き、先生をトレーニングした。彼らが、新しい空間と学習ツールを使いこなすことができるかどうか、確認したかったからだ。

 

実は最初にお見せした一般的な教室の写真は、1年前のコロンバイン小学校の教室の写真で、再デザインの結果、こうなった(現在の教室の写真)。

 

コロンバイン小学校がこの空間を使い始めて、約1年になる。この空間は、教えること、学ぶことに大きなインパクトを与えた。先生たちによると、子ども達は以前よりも自信を持つようになり、リラックスして、そしてチャレンジできるようになったそうだ。また、以前よりもチームで協力的に活動するようになり、とてもシャイで静かだった子ども達も、みんなの前で発言するようになった。これが、学校デザインが持つポテンシャルだと私が考えるものだ。

 

コロンバイン小学校では、この解決が、彼らにとって正しかったと思う。この空間は、生徒達が自分の考えをシェアし、色々な方法で自分を表現する助けになっている。しかし、学校はそれぞれ違うニーズを持っている。ある人は、コンピュータサイエンスについて、子ども達のモチベーションを上げ、学習に熱中できるようになることを望んでいる。また他の人は、両親が学校を訪れ、より多くの時間を過ごせるようにしたいと思っている。また他の人は、学校において、お互いオープンで信頼しあう文化を持ちたいと思っている。

 

私達がどこで学ぶかは、私達がどう学ぶかのキーになると私は確信している。私達は学校の再デザインを始めなければならない。

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実際に使う先生や生徒が設計プロセスに関わるというスタイルに加え、コロンバイン小学校の事例が面白いのは、クラーニ氏と先生方が、話し合いの中で新しい学習スタイルやツールを一緒に考えているところだと思います。おそらくそこに関わられた、教育プログラムの支援者である、imaginarium Denver Public Schoolsの存在も大きかったのでは、と推測します。KLSではどんなコラボレーションがあったのかも、機会があれば、聞いてみたい!教育プログラムと校舎デザインのコラボレーション、もっといろいろなところで起こると、いいですね。

 

#Khan Lab School #Danish Kurani

 

教科を超えた協働がSTEAM教育を実現する―「AI時代を生きる子どものためのSTEAM教育」を読んで

みなさまこんにちは。清水葉子です。中高入試シーズンが終わると、あっという間に新入生が入ってくる新年度となりますね。このタイミングでICT環境を整えられたり、カリキュラムを変えられたりという学校が多いと思いますが、授業の運営方法や、さらに言うと、授業の企画、運営者が変わる、という学校って、どのくらいあるのでしょう?

 

本日ご紹介する「AI時代を生きる子どものためのSTEAM教育」には、STEM科目における教育効果の向上と、子ども達の創造力を高めるための具体的方法として、STEM科目そのものに、芸術の要素を取り入れるとともに、芸術の指導者自身もSTEM科目の授業企画、運営に入ることが提案されています。

 

STEAM教育とは?

まずは前提について補足します。

STEM(ステム)とは、ScienceTechnologyEngineeringMathematicsの、それぞれ頭文字を取ったもので、近年アメリカでこれらの、いわゆる理系分野の人材が不足するとともに、子ども達の学力も低下していることが懸念され、大学でSTEM分野の専攻をする学生を増やすこと、その前の幼稚園から高校までの12年間は科学と数学を強化することが国全体の方針として決められたというものです。

 

ところが、STEM重視の授業を行って数年経っても学力調査の成績があまり伸びず、時間数を増やすだけでなく中身を変えなければならないのではないかという問題提起があり、「創造性」がひとつのキーワードとなり、STEMArt(芸術)を加えたSTEAM(スティーム)教育を行うべきではないか、という動きが出てきました。

 

本書の概要

本書は2013年にアメリカで出版された本の訳書で、教育神経科学脳科学の研究をされているデビッド・A・スーザ氏と、芸術の教育への織り込みに貢献されてきたトム・ピレッキ氏の共著です。(原題は「From STEM to STEAM: Using Brain-Compatible Strategies to Integrate the Arts」)

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本書の冒頭では、脳科学の側面から、芸術を学ぶことで得られるものについて解説されています。それはSTEM科目と相反するものではなく、創造性とともに認知力や記憶力を高め、むしろSTEM教育の効果を高める、という結論が、脳科学的な裏付けとともに出されています。

 

その流れの中で、拡散思考と収束思考の話が出てきます。現在の高校までの教育には1つの正解に行きつくための収束思考が求められることが多いが、結論を急ぎすぎず、色々な可能性を考える拡散思考ももっと取り入れたほうが、生徒の自主性、創造性を高めるとともに、実際の科学の世界でも役立つ力がつく、そのためにも、芸術をSTEM科目に取り込むべき、と論が展開されていきます。

 

STEM教科の教員と、芸術教科の教員が一緒に授業展開を考える?

STEM科目に芸術を取り入れるのか、という具体的方法について、STEM教科の教員と、芸術教科の教員が一緒に授業展開を考えることが、本書では提案されています。例えば小学校の理科の授業で動物の生態について学ぶ際、それぞれが動物を調べて発表するだけでなく、生徒達がそれぞれの動物になりきり、グループで、それぞれの生態を劇や歌、絵画などで表現する、といったものです。小学生だけでなく、高校生までの事例、教員の連携の仕方が紹介されています。

 

芸術教科の先生が、理科や数学の授業に入るというのは、突飛な考えに思えるかもしれません。でも専門の先生が生徒が理解しづらい部分、生徒に考えてもらいたい部分を明確にできれば、その先生とは異なるバックグラウンドを持っていて、思考方法が異なる先生と一緒に考えることが、新しい授業のスタイルをつくりだすことにつながるのでないでしょうか。

 

本書には授業デザインのテンプレートも掲載されていて、運営計画とともに「ビッグアイディア」「多面的知性の応用」「ブルームの分類方法の応用」といった項目も含まれます。授業の目的である大きな問と、その手法、生徒に期待する思考態度を最初に決めておくことで、共同で授業を計画しやすくなるような工夫がされています。

 

 

CCEの取り組みと新しい展開の可能性

では学校内に連携できる芸術教科の先生が見つからない場合はどうすれば良いか?

フロリダ州にある創造教育センター(Center for Creative Education:CCE

cceflorida.org

では、他教科の先生と協働できる教育芸術家の育成が行われていて、このセンターから中学や高校に先生を派遣する事業が行われているそうです。校外の力も活用することで、新しい展開が期待できそうですね。

 

授業内で先生によるアートとサイエンスのコラボレーションが起こるというのは、生徒にとっても、良い影響となるのではないでしょうか。

自主性と創造性を育てる、モンテッソーリ教育の環境設定

みなさまこんにちは。清水葉子です。

本日は、モンテッソーリ教育について、書きたいと思います。

この1年半、こちらのブログでも、また、それ以外の活動でも、子どもの創造力を高める環境について考えてきましたが、振り返ってみると、モンテッソーリ教育の考え方やあり方は、自主性、創造性を高めるための環境、方法と重なる部分がとても多いと感じます。

 

個人的な話ですが、私の子ども達が通った保育園は、偶然モンテッソーリ教育の実践園で、「お仕事の時間」という活動の時間が毎日ありました。保護者会などで、先生からその考え方について教えていただいても、その時は、正直良く理解できていなかったのですが、その後、仕事で関わらせていただいた幼稚園でモンテッソーリ教育が行われていて、園長先生にモンテッソーリ教育について教えていただき、はじめて体系的に理解ができました。

 

モンテッソーリ教育、日本では0歳~6歳の実践がほとんどですが、海外では、15歳くらいまで、場合により18歳までのプログラムが実践されています。

 

「敏感期」がモンテッソーリ教育のポイント

モンテッソーリ教育は、イタリア人の医師、マリア・モンテッソーリ博士(1870-1952)が、20世紀子どもの研究をする中で生まれた教育方法です。すごく要約すると、子どもは、発達段階においてそれぞれの「敏感期」を通過します。重いものを持ちたい、不安定なところを歩きたい、小さいものをつまみたい、など、発達段階によって違うのですが、とにかくその動作をしたい、それを繰り返したいという衝動にかられる時期です。その動作に集中して、満足するまで取り組むことで、それができるようになるだけでなく、心も満足し、落ち着く、という前提に基づいた教育です。この、敏感期に求める動作をすることが、それぞれの成長に必要な「お仕事」と位置付けられています。お仕事の内容は様々で、掃除や調理など、生活の中での動作のこともありますし、切る、並べる、といった動作が教具のこともあります。いずれも、それぞれの敏感期に必要な動作をシンプルに実践できるような工夫がされています。

 

みなさんも、大人になってから子どもを観察して、なんでこんな事をするんだろう、そして繰り返し同じことをしたいんだろう、と不思議に思われたことはないですか?私は親になってから何度もそれを体験しました。寒い中、駐車場に描いてある円に沿ってえんえんと楽しそうに走り続ける息子を見て、なんともいえない気持ちになったこともあります。でもそれが成長に必要な動作だとわかれば、少しだけ待ってあげようかという気になりますね(状況にもよりますが)。

 

自主性を育てるための環境設定

モンテッソーリ教育の原点には、「子どもの発見」があります。子どもは大人とは感じ方、物の見方が違うという発見です。そして成長過程により、自身で必要なものを発見し、熱心にとりくむことで、体も、心も成長していく、という考え方です。この考えに基づくと、先生の役割は、生徒が自己成長をするのを助ける、という関わり方になります。

 

なので、モンテッソーリ教育を実践されている保育園、幼稚園は、その環境にとても配慮がされています。お仕事の時間は、基本的に子ども達が自分で教具を選び取り、お仕事をするので、選びやすく、教具を自分で出して、自分でしまえる環境となっていますし、それぞれが集中しやすい環境も大切にされています。

 

3歳頃までは、体の動き、動作がメインですが、それより上の年齢では、知的好奇心の敏感期も出現し、だんだんとその割合が大きくなってくるそうです。モンテッソーリ教育には体験→抽象という流れがあり、文字や数字、地図などについても、最初に手を動かして学び、それをベースにして、年齢が上がると、抽象化、概念化して考え進めるようになるということで、小学生のプログラムでも、低学年の間は、算数なども実際に触れるモジュールなどを使うようです。

 

アメリカのモンテッソーリ協会、American Montessori Societyの動画紹介ページにある、上から3つ目の動画「Montessori: The Elementary Years」をごらんになると、小学校での授業の様子がわかると思います。

Montessori Videos | American Montessori Society

 

小学校以降のモンテッソーリ教育

海外でのモンテッソーリ協会は、大きく2つあるようです。

まずは、マリアモンテッソーリ博士とその息子さんが立ち上げた、オランダにある

Association Montessori International

https://ami-global.org/

 

それから、アメリカにある、先に紹介した

American Montessori Society

http://amshq.org/

 

AMSは、ナンシー・マコーミック・ラムバックス博士が自らの教育実践の中でモンテッソーリ教育を知り、AMIのプログラムをアメリカに取り入れ、その後分化した組織です。両組織のホームページでは、小学校以上の学校の紹介や、プログラムの紹介がされています。それらを見ると、小学校でも基本的には個別学習が中心で、時に小グループでの活動を行っているようです。3学年ほどの縦割りでの運営が基本になっているのも、個別学習スタイルだからこそ、できることですね。小学校では知的敏感期への対応とともに、感性、実生活に関係する力を伸ばせる環境を整えているようです。また、さらに上の年齢になると、それらに加え、社会と自身との関係や、職業に関係する学びの割合が増えるようです。個人的成長から、次第にコミュニティへとつながっていくのですね。

 

モンテッソーリ教育の基本にある、自分に必要な学びを選び取り、集団の中でも個々に集中(没頭)する、という流れは、自主性の発達とともに、これまでお話をうかがったり、読んできた、創造性を育てる方法に合致するなあと気づかされます。今日本で注目を浴び始めているのも、納得できます。

 

日本でも、モンテッソーリ教育、またはモンテッソーリ教育の理念を大切にした教育をされている小学校はありますが、私立小学校として認可を受けている学校はほぼ無いようです。こういったスタイルの小学校や中学校が私学として成立し、もうひとつの選択肢として、もっと一般的に選べるようになったらいいなあ、と思います。

 

6歳までの敏感期については、日本モンテッソーリ協会理事の、相良敦子先生のご著書、「お母さんの『敏感期』」にとてもわかりやすく紹介されています。

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京都発、ものづくりのエコシステムをつくる -Makers Boot Camp二神麻里さんインタビュー

こんにちは!清水葉子です。先日、京都市下京区にあるものづくり拠点、KYOTO MAKERS GARAGE(以下京都メイカーズガレージ)を見学させていただき、コミュニティーマネージャーの二神麻里さんにお話をうかがいました。

 

<京都メイカーズガレージ外観>

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<インタビューをさせていただいた、二神麻里さん>

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京都メイカーズガレージは、京都中央卸売市場近くのガレージを改装し、昨年9月にオープンしたばかり。京都市、京都高度技術研究所(ASTEM)、京都リサーチパークMakers Boot Campの4社が立ち上げに関わり、運営をMakers Boot Campが行っています。

 

こちらには、コワーキングスペースとメイカーズスペースがあります。メイカーズスペースでは1時間1000円で、レーザーカッター、3Dプリンターなどのマシンを使うことができ、コワーキングスペースの利用者は割引があります。そして学生は無料(条件あり)!学生とは、大学生以下、中学生、高校生も含まれるそうです。(メイカーズスペース利用者は事前にトレーニングコースの受講が必要です)

 

コワーキングスペース

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<メイカーズスペース>

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京都メイカーズガレージが力を入れているのは

1.ものづくりのスタートアップ(起業家)を事業として軌道に乗せること

2.起業をめざす人を増やすこと

の2つです。

 

まず1つめについては、この場を運営されているMakers Boot Campさんの専門領域です。京都にはものづくりの企業が多くあり、そういった企業50社以上が集まってつくった「試作ネット」(https://www.kyoto-shisaku.com/)という団体があります。金属、樹脂の加工や、組み立て、基盤づくりなど、様々な技術を持っていて、新しく何かを試作したい、という要望に応えてくれる組織です。

 

「はじめてものづくりに取り組む方の試作も請け負ってくださるのですが、試作ネット企業の中で必要な技術を持った企業と複数のマッチングを行う必要があります。一方で、試作ネットのほうも、スタートアップと働くことで最先端技術を用いた開発力を蓄えたいという気持ちがあります。その間をつなぐのが、Makers Boot Campです。弊社には経験豊かなプロジェクトマネージャーがいますので、弊社を通して試作ネットとお話ししていただくことで、コストにみあった試作品を提供できるようになります。もちろん、はじめてものづくりに取り組む個人や組織の試作も請け負ってくださるのですが、そういったところが試作ネットと組むと、試作ネットとしてもものすごく基本的な話からはじめなければならないので、時間がかかります。一方で、試作ネットのほうも、スタートアップから新しいアイディアなどを得たい、という気持ちがあります。その間をつなぐのが、Makers Boot Campです。弊社には経験豊かなプロジェクトマネージャーがいますので、弊社を通して試作ネットとお話ししていただくことで、コストにみあった試作品を提供できるようになります。 小さなコンピューターArduino を用いた展示用試作を京都メイカーズガレージで作った後は、もう量産化が目前なので、量産化を想定した作り方や、工程のデザインをする必要があります。そのための設計図づくりを手伝ってくださるのが、京都メイカーズガレージにおけるMakers Boot Campの役割です。企業の中からそのスタートアップに最適なパートナー企業を選び出したり、場合によってはプロトタイプをつくりだすための投資もしてくださいます。このような支援を通して京都でものづくりのエコシステムをつくり、それを日本中に広げることで、日本のものづくりを世界に発信していきたいというのが、京都メイカーズガレージの目標です(二神さん)」

 

2つめの「起業をめざす人を増やす」というのは、1のようにものづくりのエコシステムをつくるためにはまず、ものづくりで起業をしたい人を増やす必要があるため、その起業家教育の部分も担っていこうということです。

「日本ではなかなか起業がキャリアの選択肢とはならないんですね。それでは私達がサポートしていきたいスタートアップが増えていかないということで、若い頃からキャリアの一つとして考えてもらえるような環境づくりを目指しています。もちろん、全員が起業家を目指すべきと考えているわけではありません。大企業や中小企業に就職したとしても、創造性を持って仕事をすることが必要なのは、起業家だけではないと思うんです。どんなキャリアを選ぶ人も、創造性を持って仕事をしてほしい、というのが、私達の願いです(二神さん)」 

先にご紹介したように、こちらの場所の利用は、学生であれば無料です。大学生だけでなく、中学生、高校生も同様です。大学生になると自分の専攻が固まってきますので、その前からぜひものづくりに関わってほしいというのが、京都メイカーズガレージのみなさんの願いだそうです。

 

オープン直前の昨年8月には、高校生を対象とした「高校生メイカーズ」というワークショップが、この場所を使って行われました。

 

「ワークショップは連続講座の形で間を数日空けながら全7回、1回約3時間をかけて行いました。1回目は座学での講義があり、その後、チームに分かれて、「熱中症」「家事」のどちらかのテーマで試行錯誤を行います(3時間×5回)。

まずそのテーマに関する問題、課題を考え、それを解決するにはどういった製品が有効かを考えて、つくってみます。その製品についてマーケットニーズがあるかどうかも、インターネットなどを使って確認をしてもらいました(二神さん)」最終回は外部から審査員も招いてのプレゼンテーションを行い、熱中症対策としてミストが出る日傘をつくったチームが1位となったそうです。

 

<ワークショップの様子>

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アイディアは、3Dプリンターなどで形をつくり、モーターを入れて動くところまで実演したそうで、メイカーズスペースの責任者、コナー・カーク氏がアドバイスを行われたそうです。また、プレゼンテーションでは、10年後の収益などについても発表があり、Makers Boot Camp代表取締役の牧野成将氏が、持続的なビジネスを行なうためのアドバイスを行われたそうです。

 

アイディアだけでなく、プロのアドバイスを受けながら、実際に形にできる体験ができるのは素晴らしいことと思いました。高校生メイカーズ、2018年の夏も開催されるそうなので、来年の夏に高校生だという方にはぜひチャレンジしていただきたいです!

 

二神さん、ご多用のところインタビューをさせていただき、ありがとうございました!

 

↓Kyoto Makers Garageのページはこちらです。

kyotomakersgarage.com

子どものほうが美術に近い!という発見-「子供の世界 子供の造形」を読んで

こんにちは!清水葉子です。社会全体にアートの必要性が高まっている中、子どもの頃からアートに触れるということはどういうことなのか、また、子どもの表現力はどのように育つのかについて知り、環境を準備することは大切だと思います。その方法を模索する中、アートを通して子どもの表現力を育てる教室、ワークショップなどを行われている合同会社エデュセンス代表の奥村みずほさんにこちらの本をお勧めいただき、とても感銘を受けたので、紹介させていただきます。

 

関西国際大学教育学部教授の松岡宏明先生による、

「子供の世界 子供の造形」です。

http://amzn.to/2DTkfJl

 

著者の松岡宏明先生は、中学校の先生として、また、大学での研究者として、ずっと美術教育に携わられてきた方です。

 

第1章では、大人と子どもが質的に異なる点について、わかりやすくまとめられています。自分と世界の関係、五感の使い方、ありかた、時間のとらえかたなど、具体的に見ていくと、決定的に違う部分が多くあり、私自身の経験に照らしても、納得できる部分が多くありました。

 

第2章では、美術の定義と、1章での子どもの定義を比較しながら、その親和性の高さが紹介されています。子どもは大人よりも、芸術活動に親しみやすく、芸術活動自体が「子供が子供という『今』を十分に満喫することができる活動としてピッタリだということ(本書より引用)」が理解できます。

 

第3章では「発達」「特徴」「美」「心理」という4つの側面から、子どもの造形について紹介されています。「発達」の部分では、子どもの絵の変化について紹介がされています。子どもにより変化のスピードは違うものの、ほぼ同じプロセスを辿るそうです。

「心理」の部分では、子どもの絵に描かれる対象の位置、大きさなどにより、表現から、子どもの感情やストレスを読み取る方法が紹介されています。

 

第4章では「見る力」について、大人が子どもの絵を見る力、子どもが絵を見る力の両方について紹介されています。

 

この本からは、造形や絵画は完成させることだけが目的ではなく、そのプロセスに様々な意味や効果があることが理解できます。また、子ども達はその成長段階により、その段階の自身に必要な表現をめいっぱいして、味わいつくし、満足するとその次の段階に進むということがわかります。子ども達にそのプロセスを味わいつくしてもらうためには、その時期に合った関わり(例えば、触って確かめる時期には絵を描く対象をきちんと触れる環境)、また、満足のいくまで造形や絵画に没頭できる時間が必要なのだと思います。本書によると、いくつかの段階を経た後、14歳~17歳に完成期を迎えると、そこから人それぞれの個性的な表現をするようになるそうなのですが、誰もがこの段階に入れるはずなのに、十分な時間や環境が無い場合が多く、この段階に到達できるのは少数だそうです。小学校高学年や、中学生くらいの段階で、自分は絵がうまく描けないと思って描くのをやめてしまう人、確かに多いと思います。そして、絵画や造形の表現をやめてしまっても別に困らないのが、今の日本の教育環境でもありますね。

 

ここに書かれているのはおもに芸術活動のことですが、その他の学習についても、これに近い発達プロセスや状況があるのではないでしょうか。カリキュラムありきで全員が決められた時間内に到達することが望まれるのではなく、年齢に応じたそれぞれの発達があり、達成時間に差はありつつも、それぞれが自分のペースで進めるよう、周りがサポートできる環境は、やはり良いと感じました。また、大人と子どもは違う、という前提に立つと、あまりにも大人目線で必要そうなものを押し付けてしまうと、子ども達に受け取ってもらえないということも、あるかもしれませんね。こと美術に関しては、大人よりも子どものほうが近いということを大人は自覚して関わったほうが良いのかもしれません。

 

ぜひ、ご自身の子どもの頃の経験や、周りにいる子ども達のことを考えながら読んでみてください。近いようで遠い、似ているようで違う、子どもの世界を知ることができると思います。

木工教室のシステムから、個別学習環境の可能性を考える

みなさまこんにちは。清水葉子です。

年が明けて急に寒くなってまいりましたね。入試も多い季節。これからあまり雪が降りませんように。

 

さて本日は、木工教室での指導から感じた、個別学習環境の可能性について書きたいと思います。私の家族に、木工に興味があって技術を磨きたい、というものがおりまして。継続して教えていただけるところはとても少ないのですが、幸い自宅から少し遠いものの通える教室を見つけて、1年ちょっと、通わせていただきました。

最近できあがったサイドテーブルがこちら。先生にかなり助けていただきながら完成し、本人もとてもうれしかったようです。

 

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さて、私もなんどか教室に同行し、先生の教え方、教室のシステムがとても良いと感じました。また、いま注目されている、個別学習の参考にもなるのではないかと感じましたので、ご紹介したいと思います。

 

まずこの木工教室には、一斉指導というものがありません。スタート時期がそれぞれ、年齢も小学生から大人まで、技術レベルも幅広い生徒さん達が、それぞれのペースで、製作を進めています。技術を磨くためのコースがいくつか準備されていて、最初はそれに沿って学んでいくのですが、コース内の1つのステップにかける時間は本人の技術により、まちまちです。一通り基本ができるようになると、自分が作ってみたいものを、先生に相談しながらつくることができます。先生は、それぞれの生徒さんと作業内容や進捗を確認し、機械の使い方や、加工方法など、質問があれば対応したり、相談に乗ったりされます。

 

工房の中で、それぞれがそれぞれの作業に没頭する姿を見ていて、なんだかとても良い場だなあ、と感じました。それは自宅で道具を揃えて1人で作業を進めるのとは少し違っていて、進捗を見てくれて、相談できる先生がいて、木工が好き!という共通点を持つ他の生徒さん達と同じ空間で作業していることも刺激になり、良い場となっているのだろうと思います。

 

学校の授業ではあまりこういう光景は見かけませんが、部活動によってはこのスタイルがありますね。以前見学させていただいた、東京農業大学第一高等学校・中等部の生物部では、個人もしくはグループで、やってみたい研究を行い、論文にまとめ、外部の研究発表会に参加します。見学させていただいた際は、中学1年生の女子生徒さんが、100個の水槽で金魚を1匹ずつ環境を変えて発育状況を観察し、論文にまとめる、という研究をされていました。その生徒さんは夏休みも毎日登校し、観察を続けられたそうです。顧問の先生は、必要があれば関わる、というスタンスでした。つい先日も、高校の生徒さん達が科学賞で受賞されたようです。

生物部 第61回日本学生科学賞 読売新聞社賞 | 東京農業大学第一高等学校中等部/東京農業大学第一高等学校

 

仲間とともに、かつ、自分のペースで研究や作業、そして学習を進めていけるという環境は、みんなのペースについていかなければ、という焦りや、わからないけど時間が来たら過ぎていく、というあきらめを減らし、自分の力で進み、自分で課題を乗り越える良さがあると思います。学校においても、生徒が主体的にカリキュラムを決めて、自分のペースで学習を進められる環境が、すでに海外では実現していますし、日本でも一部そのような動きが出てきていますので、環境設定も含め、どんどん広がっていくと良いなあ、と思います。

 

経営におけるアートとサイエンスのバランスとは? 「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」を読んで

みなさま、新年あけましておめでとうございます。

本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

 

2018年、今年はより、アートの必要性が叫ばれる年になると思います。もう、ビジネスの世界では始まっていますね!

 

さてそんな年初にご紹介したいのは、山口周さんのご著書

「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのかー経営における『アート』と『サイエンス』」です。

 

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山口さんは、大学で哲学、大学院で美術史を学ばれた後、広告代理店、コンサルティングファームを経験されています。つまり本のサブタイトルにもなっている、アート側から考える世界、サイエンス側から考える世界の両方を経験されているということです。

 

だからこそ、この本ではなぜアートがビジネスに必要なのかがとてもロジカルに説明されています。また、アートとサイエンスのどちらか、ではなく、ここにクラフトを加えた3つのバランスが、これからの経営には大切だと述べられています。

 

その背景として、山口さんは、今の日本の経営において、論理的で理性的であること(サイエンス)が直感的で感性的(アート)であることよりも高く評価されていることを挙げています。論理的思考(サイエンス)は経験的思考(クラフト)をカバーし、問題解決に貢献しているのに、そこになぜアートが必要なのでしょうか?

 

山口さんはその理由として、どの企業もサイエンスを重視するあまり、出てくる解が似通ってきて、差別化ができず、結果スピードとコストの競争となり、疲弊してしまうこと、世界全体がVUCAという、先が読みづらい時代になり、論理的思考による正解は役に立たなくなっていることなどを挙げています。

 

「論理的な推論については最善の努力をしつつも、どこかでそれを断ち切り、個人の直感に基づいた意思決定を適宜行っていかなければ、組織の運営は『分析麻痺』という状況に陥る」

という一文が、的確にそれを指摘していますね。

 

この状況を打破できるのは「超論理的」な意思決定と、「真・善・美」の要素を持ったビジョンで、そのどちらも、論理に直感や感性が加わることで実現することができ、そのためには美意識、感性を磨く必要がある、というご意見に、なるほど、と思いました。

 

本書には、ではどうやって経営にアートを持ち込むかという方法論についても、実際の企業や組織を例に挙げて解説されています。アーティスティックな人が経営のどのポジションにいるとうまくいくか、という事例が多いのですが、サイエンスやクラフトほど明確に言語化できず、ファクトを示しづらいものであるからこその組織構成があるようです。

 

また、感性の鍛え方についてもいくつか紹介されています。

 

この本は、ビジネスにアートが必要なのか?と懐疑的に思っている方にも、アートは必要だ!と確信している方にも、ぜひ読んでいただきたいです。おそらく前者の、論理的思考が得意な方にとっては、アートの果たす役割をロジカルに理解していただけると思いますし、後者の、おそらく感性、直感が優れている方にとっては、その思いが言語化されていると感じられると思います。そして、アートとサイエンスは相反するものではなく、うまく組み合わせることによって相互作用が起こり、他とは一線を画す、独自性を持ったものが生まれてくるのだと思います。

 

アートの重要性が言われ始めてから、マーケット、生活者優位ではなく、企業や提供する側がまず納得できるものをつくり、それから世に出すほうが良い、という主張をあちこちで見ることができます。生活者を無視するわけではなく、生活者に課題を求めすぎず、自分達の感性、直感を信じて、まず自分からこれ、どう?と示した後、その反応をもとに試行錯誤をくり返す、という流れです。VUCAな世の中、まず自分はどうか、という意思表示が大切になってくるのかもしれませんね。

 

そして、差別化が大切な時代、本書で紹介されている方法はもちろん、感性と直感を磨くためのインプットも、色々あったほうが面白いのではないだろうかと思います。

 

そのあたりをみなさんとも考えていければと思っています。

今年も大体週1ペースで更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。