経営におけるアートとサイエンスのバランスとは? 「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」を読んで

みなさま、新年あけましておめでとうございます。

本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

 

2018年、今年はより、アートの必要性が叫ばれる年になると思います。もう、ビジネスの世界では始まっていますね!

 

さてそんな年初にご紹介したいのは、山口周さんのご著書

「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのかー経営における『アート』と『サイエンス』」です。

 

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山口さんは、大学で哲学、大学院で美術史を学ばれた後、広告代理店、コンサルティングファームを経験されています。つまり本のサブタイトルにもなっている、アート側から考える世界、サイエンス側から考える世界の両方を経験されているということです。

 

だからこそ、この本ではなぜアートがビジネスに必要なのかがとてもロジカルに説明されています。また、アートとサイエンスのどちらか、ではなく、ここにクラフトを加えた3つのバランスが、これからの経営には大切だと述べられています。

 

その背景として、山口さんは、今の日本の経営において、論理的で理性的であること(サイエンス)が直感的で感性的(アート)であることよりも高く評価されていることを挙げています。論理的思考(サイエンス)は経験的思考(クラフト)をカバーし、問題解決に貢献しているのに、そこになぜアートが必要なのでしょうか?

 

山口さんはその理由として、どの企業もサイエンスを重視するあまり、出てくる解が似通ってきて、差別化ができず、結果スピードとコストの競争となり、疲弊してしまうこと、世界全体がVUCAという、先が読みづらい時代になり、論理的思考による正解は役に立たなくなっていることなどを挙げています。

 

「論理的な推論については最善の努力をしつつも、どこかでそれを断ち切り、個人の直感に基づいた意思決定を適宜行っていかなければ、組織の運営は『分析麻痺』という状況に陥る」

という一文が、的確にそれを指摘していますね。

 

この状況を打破できるのは「超論理的」な意思決定と、「真・善・美」の要素を持ったビジョンで、そのどちらも、論理に直感や感性が加わることで実現することができ、そのためには美意識、感性を磨く必要がある、というご意見に、なるほど、と思いました。

 

本書には、ではどうやって経営にアートを持ち込むかという方法論についても、実際の企業や組織を例に挙げて解説されています。アーティスティックな人が経営のどのポジションにいるとうまくいくか、という事例が多いのですが、サイエンスやクラフトほど明確に言語化できず、ファクトを示しづらいものであるからこその組織構成があるようです。

 

また、感性の鍛え方についてもいくつか紹介されています。

 

この本は、ビジネスにアートが必要なのか?と懐疑的に思っている方にも、アートは必要だ!と確信している方にも、ぜひ読んでいただきたいです。おそらく前者の、論理的思考が得意な方にとっては、アートの果たす役割をロジカルに理解していただけると思いますし、後者の、おそらく感性、直感が優れている方にとっては、その思いが言語化されていると感じられると思います。そして、アートとサイエンスは相反するものではなく、うまく組み合わせることによって相互作用が起こり、他とは一線を画す、独自性を持ったものが生まれてくるのだと思います。

 

アートの重要性が言われ始めてから、マーケット、生活者優位ではなく、企業や提供する側がまず納得できるものをつくり、それから世に出すほうが良い、という主張をあちこちで見ることができます。生活者を無視するわけではなく、生活者に課題を求めすぎず、自分達の感性、直感を信じて、まず自分からこれ、どう?と示した後、その反応をもとに試行錯誤をくり返す、という流れです。VUCAな世の中、まず自分はどうか、という意思表示が大切になってくるのかもしれませんね。

 

そして、差別化が大切な時代、本書で紹介されている方法はもちろん、感性と直感を磨くためのインプットも、色々あったほうが面白いのではないだろうかと思います。

 

そのあたりをみなさんとも考えていければと思っています。

今年も大体週1ペースで更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

アートは必要かという議論はそろそろ終わり、アートの力はどのようにつくかの具体的方法論へ

みなさまこんにちは。清水葉子です。

2017年も終わりに近づいてまいりました。みなさまにとってどのような1年でしたか?

 

私個人としては、このブログで書くという行為を通して、たくさんの出会いができたことに本当に感謝しています。取材をさせてくださった方はもちろん、ブログを見て下さった方、新しい出会いを作ってくださった方、アートと教育について話をさせてくださった方。本当にたくさんの方にお世話になりました。そして忘れっぽい私としてはその感動や思い、考えたことをブログに残しておくことで、時々読みかえして思い出すことができるので、このブログは大切なノートにもなっています。

 

2016年9月末からスタートし、83記事書いてきて、振り返って思うのは、この1年ちょっとの間に、日本において、アートが人生に必要だという認識が、かなり一般的になってきたということです。しかもそれは表現、芸術の世界だけの限定的なものではなく、ビジネスや、心のあり方、物の考え方や見方、コミュニケーションなど、多岐にわたります。もしまだアートは自分に関係ない、と思っている方がいらっしゃったら、その考えは今すぐ捨てることをお勧めします!

 

アート系の人は何を言っているかわからない、という方には、こちらの本がおすすめです。

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (山口 周氏)

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レビューは来年書きますが、アートの必要性についてとてもロジカルに解説してくださっています。

 

そしてこちらも。

教育とアートについての本 その1「エグゼクティブは美術館に集う」 - Arts in Schools

 

ビジネスマンがビジネススクールではなくアートスクールに通ったり、美術館に集ったり、コンサルティングファームがデザインファームを買収したり、枚挙にいとまがないほど、アートはビジネスに必要という認識が広がってきています。

 

また、アートが心に与える影響として「アートセラピー」という言葉もずいぶん浸透してきています。アートは生きる力を育てるというメッセージを、具体的なワークとともに、紹介されている東北芸術工科大学の有賀先生の書籍

教育とアートについての本その4-本当はすごい”自分”に気づく 女子大生に超人気の美術の授業 - Arts in Schools

 

アート活動を通して第3の居場所をつくられている桑原則子さんの活動

第3の居場所としてのアート:アートセラピーと「自由創作アトリエ はらっぱ」 - Arts in Schools

 

を通して、アートがマインドに与える力を考えることができます。

 

美しい作品をつくることだけがゴールではなく、表現を通して自分と向き合い、考え続けるという観点でアートをとらえる意味を教えてくれるのは、

 

岡本太郎さんのこちらの書籍

教育とアートについての本その3 「今日の芸術」-芸術をすべての人に - Arts in Schools

また、関西大倉中学校・高等学校さんの自身と向き合う授業

自身と向き合う美術の授業―関西大倉中学校・高等学校 その1 - Arts in Schools

自身と向き合う美術の授業―関西大倉中学校・高等学校 その2 - Arts in Schools

自身と向き合う美術の授業―関西大倉中学校・高等学校 その3 - Arts in Schools

自身と向き合う美術の授業―関西大倉中学校・高等学校 その4 渋谷信之先生インタビュー - Arts in Schools

 

などです。

 

そして、芸術作品ではないアーティスティックな表現ってなんなのか?というと、本当にたくさんあると思うのですが、これまでブログでご紹介した中でいうと、たとえば、イノベーションを下支えする動きです。

キャリア支援の再デザインで、働き方の未来を変えていく! ―関西大学+TSUTAYAによるスタートアップカフェ大阪の挑戦。―その2 - Arts in Schools

 

IoTスタートアップの面白さと可能性ー小笠原治さんの講演より - Arts in Schools

 

デザインは問題解決で、アートは問題提起、という定義もありますが、関西大学さんのスタートアップカフェや、小笠原さんが監修されたDMM.make AKIBAは、デザインの中でも、今までなかったものを形にし、みんなが認識できるようにしたものは、アートと言えると思います。

 

この「世界の見え方を変える」ことは、言葉でもできます。

同志社女子大学の上田先生に教えていただいた、学習姿勢の定義は、新しい世界の見え方を教えてくださるので、アートと言えるでしょう。

同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその4 - Arts in Schools

 

長くなってしまいましたが、こういった範囲でアートをとらえることが、ずいぶんと世の中に浸透してきた、ということです。(全部は紹介しきれませんでしたが、つまり、このブログで紹介してきたことは全部アートに関わることだということです。)

 

次は、このようなアートの力、どのようにつくのか?という問いが大切になってきます。鑑賞なのか、制作に没頭することなのか、哲学なのか、話すことなのか?

たぶん、これだ!にはならないと思うのですが、今までの「アートが必要→やりましょう」の流れを見ていると、アートについての問題提起をされたご本人がもっとも親しみのある方法が、その実施方法として提案されているケースが多いと思います。その方法はそれぞれに面白いのですが、そこの共有や議論がもっと盛り上がると、たくさんの選択肢につながるのではないかと、思うんです。教育に近づけると、どんな場が準備されていて、どんな人が関わって、どんな素材があって、ということも、もっと議論されていいと思います。

 

来年はアートに関して「How can we do it?」の議論が、もっともっと盛り上がりますように。そして、私もそこに少しでも関われたらうれしいなと思います。

 

年末のお忙しい中、最後まで読んでいただきありがとうございました。

みなさま、良いお年をお迎えください。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

清水葉子

姫路高等学校探究科学コースの、双方向型中間発表

みなさんこんにちは!清水葉子です。

先日、兵庫県姫路市にある姫路市立姫路高等学校にうかがい探究科学コース1年生後期の中間発表に参加させていただきました。(見学、のつもりでうかがったのですが、表現としては参加のほうが合っています)。

 

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姫路高等学校の探究科学コースでは、週に1時間、探究の授業が行われています。1年次はグループで探究を行い、2年次は個人で行います。各学年前期、後期でテーマが異なります。

現在1年生は後期の活動として、「姫路探究」をテーマとした探究活動を行っています。

テーマは
1.日本遺産銀の馬車道
2.食
3.地場産業
4.中心市街地・文化エンタメ
5.医療・健康福祉・スポーツ
6.教育・子育て・生涯学習
7.防災・安全・環境・エネルギー

の7つ。生徒それぞれが興味のあるテーマを選び、同じテーマを選んだ生徒でグループをつくり、(計8グループ)そこから具体的に絞り込んで、現状の問題、課題を調査し、課題解決策を提案していくという流れです。考えたり、調べたりするだけでなく、具体的なアクションに落とし込むというのも、特徴の一つです。

 

<会場となった食堂>

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中間発表は、これまでの話し合いから問いを設定し、その問いと、解決策の仮説を発表するというものでした。クラス内だけでなく、行政、企業、教育関係の方達がゲストとして参加されていました(私もその中の1人として参加させていただきました)。

 

発表は、参加者が興味を持ったグループのテーブルにプレゼンを聞きに行く、という方法で行われました。ファシリテーターは、探究の授業を担当されている、株式会社アンドの小野義直さん(写真中央)です。

 

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グループの生徒5名のうち、2名がプレゼンターになってテーブルに残り、3名が他のテーブルのプレゼンを聞くために移動します。写真のように、メンバーが入れ替わってゲストが約2名加わった、7名のテーブルが8つできます。

 

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153ラウンドで参加者としては計2グループのプレゼンを聞き、問いかけと助言を行う形式で発表は進んでいきます。

 

私は「市街地活性化」と「食」の2グループに参加させていただきました。どちらのチームも、アクションとしてやりたいことが明確になっていて、この短期間によく絞り込んだなあと感じました。また、課題からまっすぐ解決策にアプローチしているグループと、生徒たちに身近なテーマからアプローチしているグループ、と、プロセスにも違いがあり、面白く感じました。

 

小野さんや先生方によると、生徒さん達はちょっと緊張していたそうです。初対面の大人に、自分達の考えを説明するわけですからね。でも、数人のグループでの発表スタイルは、それをやわらげることができていたと思いますし、発表者も、参加者も、言いっぱなしにならず、良かったと思います。

 

それにしても、気づけば私は高校生の倍以上の年齢(汗)。あたりまえと言えばあたりまえですが、同じ日本で生活していても、考え方も、興味も結構違います。でもギャップがあるからこそ、話していて発見があります。よく知らないおばちゃんが来て、よくわからないことを言っていったけど、それってどういうことだろう、という感じで考えることで、生徒さん達の中に新しい問いが生まれてくれたらとてもうれしいですし、何かやってみたいことがあって、それについて継続的に悩める、探究という環境があるのが、うらやましいなと思いました。

 

参加させていただき、ありがとうございました!

生徒さん達は引き続き探究を続け、310日には成果発表会があるそうです。

 

↓関連記事はこちらです

arts.hatenablog.jp

「言葉」を使った今年の振り返り方法のご紹介

みなさんこんにちは!清水葉子です。今年もあと一週間と少しですね!

この時期になると、今年の1字や流行語などの発表がありますね。ユーキャン新語・流行語大賞で、忖度とともに大賞になった、「インスタ映え」、フォトジェニックという以前からある言葉を時代の要素をのせてかつ言いやすくしたところに、大賞になるべくしてなったなあ、と感じます。

 

さて、ではみなさん個人ではいかがでしょうか?今年1年に新しく知った言葉、面白いと思った言葉はありますか?

 

先日、昨年11月にアートのフューチャーセッションを行った運営メンバーで集まった際に、 それぞれが1年で新しく知ったワードを紹介しあうという振り返りワークをしてみました(写真を撮り忘れたので、昨年のフューチャーセッションの報告記事をリンクします)。

arts.hatenablog.jp

 

こちらの運営メンバーは、歩んできた道も現在の専門も様々なので、それぞれの今年1年の興味の対象がよくわかり、お互い新鮮に感じましたし、知らないワードも出てきました。そこから話が広がりすぎて1ワードずつ紹介するスタイルで、3時間強かけて5人で2周しかしませんでしたが(笑)、とても楽しい時間でしたし、お互いの理解が深まったと思います。

 

私個人として今年の言葉をあらためて振り返ると、「モックアップ」や「エコシステム」などものづくりに関するワードを多く仕入れたなあ、というのと、「マインドフルネス」や「成長的マインドセット」など、人のあり方についてのワードも、多くはありませんが、印象的なものを手に入れたと思います。

 

言葉って、端的に言えば、ものや状態を伝えやすくするための記号です。言葉で全てをあらわすことはできないかもしれませんが、言語化、キーワード化することで、より多くの人に伝えることができたり、属性や領域を超えたコミュニケーションができるものだと思います。それは自分に対しても同じで、今自分が置かれている状況や表現している状態を言語化することで、前に進むことができることってあるのではないでしょうか。余談ですが、先日、日本酒を紹介するサイトを運営し、ほぼ毎日日本酒のテイスティングノートを書かれている方に会いまして、その量に驚いたのですが、その方は、言語化することでより深く味わえる、とおっしゃっていて、なるほどなあ、と思いました。(日本酒が好きな方はぜひ、テイスティングノートを読んでみてください

日本酒コンシェルジュ通信 )

 

 

みなさんもぜひ、今年のキーワード、振り返ってみてください。

<言葉を使った今年の振り返り方法>

0.事前に「今年知った新しいワードを思い出しておいてね」とお願いしておく

1.2~数名でグループをつくる

2.付箋にワードを書き出す(1ワード1枚で、思い出したワードは全部)

3.順番を決めて、まず最初の人が1枚出す

4.周囲の人がそれについて質問し、ワードを出した人がそれに答える

5.3-4をくりかえす

 

という流れです。突然言われると思い出せない方もいらっしゃると思うので、

ステップ0が結構大切です。また、状況によっては、1人ずつの時間を区切っても良いかもしれませんね。

 

ふだん一緒にいる方とやってみても、新たな発見があって面白いと思います。

 

清水幹太さんのブログから、これからの世の中で必要とされる力を考える

みなさまこんにちは。清水葉子です。

12月も半ばとなり、新年を迎える準備に加え、

学校の先生方は入試の準備にお忙しい時期と存じます。

私も気持ちだけは焦る日々を過ごしているのですが、

先日クリエイターの方々が多くシェアされていたあるブログを見て、

とても感銘を受け、その方の過去のブログもついつい読み込んでしまいました。

 

それが、こちら。PARTY NY所属のテクニカルディレクター、清水幹太(Quanta Shimizu)さんが、新しい会社BASSDRUM(ベースドラム)を設立されることを告知されたブログです。

 

www.cbc-net.com

 

 

PARTYという会社は以前から存じ上げていまして、面白いことを次々と行われるかっこいい会社だなあと思っていたのですが、その立ち上げメンバーである清水幹太さんについては、デジタルやプロジェクションマッピングに詳しい方が立ち上げメンバーにいらっしゃるなあ、という知識しかありませんでした。

 

今回の清水さんのブログの中で、テクニカルディレクターというお仕事の具体的内容、また、ディレクターに必要な能力について、詳しく解説をしていただき、また、Webで作品を見せていただき、お仕事について、また、お人柄についても詳しく知ることができました。

 

そこでの内容が、未来の働き方や求められる力につながると感じましたので、言語化を試みたいと思います。

 

ブログでは、テクニカルディレクターの仕事内容の紹介の中で、企画段階から技術のことが分かっているメンバーとしてテクニカルディレクターが入る効果、求められる技術にみあった技術者を連れてくる能力について触れた後、テクニカルディレクターのもうひとつの役割を「翻訳」と定義されています。「企画屋さんの言葉」を「プログラマーの言葉」にするんだそうです。

 

以下、ブログより引用

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たとえば、広告代理店みたいなところで広告企画を考えている人間と、制作会社でプログラムを書いている人間だと、仕事における「萌えポイント」というものがそもそも全然違ったりします。「自分の空想が実現して、多くの人に見て触ってもらえること」にやり甲斐を感じる人と、「チャレンジングな実装要件があって、それを動くようにする過程」に萌える人が一緒に働かなくてはならないときに、そんな二人が直接話しても、全然噛み合わなかったりします。
このへんの「企画者がやりたいこと」を「開発者が萌える仕様」に変換して目的とモチベーションを維持してものづくりを進めるのも、この「翻訳」の仕事です。
ディレクターが「ここはもっと『シュッ!』と動くようにして」みたいな指示を出してきたときに、「ここは0.4秒で30ピクセルくらいの距離をイーズアウトさせよう」みたいな感じに数値に変換して開発に伝える、みたいな文字通りの「翻訳」をするような場合もあります。」

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特に感銘を受けたのは、上記の部分でした。

広告業界にデジタルやモノづくりの要素が入ってきたのは、比較的近年のことです。これまであまり関わることのなかった、いうなれば別言語、別のモチベーションで動いてきた方達が協働するからこそ必要な翻訳作業。それを、清水幹太さんは丁寧にしてこられたのだと思います。

ブログの後半でも、清水幹太さんが言葉にされていますが、この根底にあるのは、相手の仕事に対するリスペクトです。クリエイティブ全体を取り仕切るクリエイティブディレクターが、技術者をリスペクトすることが、仕事の質を高めると、清水幹太さんが書かれていて、これは、これからの時代、全ての業界に通じることだなあと感じました。

 

広告業界だけでなく、時代の変化により、これまで関わりが無かった業界の人たちどうしが協働するケース、これからどんどん増えてくると思います。これまで大企業からのオーダーどおりの生産をしていた町工場が、発注企業の衰退により、自らデザインを発注しものづくりを行う事例などが顕著にみられる例ですが、それ以外でも、海外の企業と直接取引したり、協働する例が増えてくると思います。協働し、新しいものをつくる際に、それぞれの力を最大限に発揮するためには、お互い、相手をよく知ろうとすることと、相手をリスペクトすることであり、これからは、ディレクターだけでなく、技術者も、そういった能力や姿勢を身につけておくことが大切だと思いました。

 

加えて、状況を的確に言語化することも、とても大切です。何より、こうやってご自身の経験や役割を、業界の外の人たちにわかりやすく伝えてくれる清水幹太さんの言葉が、より多くのつながりをつくっていくと思いますし、過去のブログも、誰をターゲットに書かれているかがとてもわかりやすかったです。

 

クリエイティブには、言語化、そして翻訳ともいえるコミュニケーションの力が大切で、それはこれからの時代に生きる全ての人たちに必要とされる力なのではないか、と思います。

 

清水幹太さんのニューヨークでの体験記も、とてもわかりやすく面白いので、ご興味ある方はぜひ。

www.advertimes.com

 

同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその4

こんにちは!清水葉子です。同志社女子大学現代社会学部 現代子ども学科の上田信行先生のゼミを取材させていただきました。

 

取材後の20171123日、ゼミ生のみなさまによるLast projectと題したワークショップがあり、参加をさせていただきました。

 

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会場の都合で写真は掲載できないのですが、とても楽しいカフェ空間と展示、トークタイム、6期生、7期生のみなさんのダンス、参加者でグループをつくってのワーク(私たちはミュージックムービーをつくりました!)、そして全員でのリフレクションなど盛りだくさんの、本当に楽しい5時間でした。準備、運営、本当に大変だったと思いますが、一人ひとりを大切にしてくださる、本当にきめこまやかなおもてなしの空間でした、複雑な進行で機器のトラブルもありましたが、ゼミ生のみなさんがそれぞれの機転で笑顔で乗り切られていました。一生懸命準備してきて、気合が入っているからこそ、現場で何かトラブルがあると、ぴりぴりしてしまうことって、大人の現場でもよくあると思うのですが、それが全くないというのは、参加していて、こんなに心地よいものなんだなあと、感動しました。

 

もうひとつ見習いたいと思ったのは、ゼミ生のみなさんの立ち位置です。個人的な反省ですが、ワークショップの運営って「〇〇をやってください、はいどうぞ!」「できましたかー?」というように、場をコントロールしがちです。でも、今回のワークショップで、ゼミ生のみなさんは「一緒にがんばりましょう!」という立ち位置でした。タイムラインやテーマなどで環境設定をし、その中で参加者と一緒にその場を作り上げる。ゼミ生のみなさんも、心から笑い、本気でジャンプする。場のルールの細かい設定や、伝えたいことのおせっかいな解説もないのですが、ポジティブな雰囲気の中ワークショップが進行し、最後のリフレクションでは、参加者それぞれ持ち帰れるものができている。これが、もう一つの魅力だと感じました。

 

このワークショップには、卒業生で、現在は小学校の先生をされている方達も来られていました。その中のお一人が、「このゼミで学んだ、人を変えることはできないけれども、周りの環境を変えることで、人は変わることがあるということを、現場に出てみて実感した。そして上田ゼミでの学びのスタイルの重要性にあらためて気づき、もっと現場で実践したい」とおっしゃっていて(小学校でもカリキュラムにそういったことを行う時間的余裕が無いという葛藤はあるようですが)、とても心に響きました。

 

私が言葉を尽くしてもなかなかこの空気感まで伝わらないと思います。興味を持たれた方は、ぜひ一度、ワークショップを体験されることを、お勧めいたします!

 

上田先生、日高さん、上田ゼミの学生さん達、お忙しい中お時間をいただき、本当にありがとうございました。

 

↓過去の記事はこちら

arts.hatenablog.jp

 

arts.hatenablog.jp

 

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同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその3

こんにちは!清水葉子です。先日、同志社女子大学にうかがい、現代社会学部 現代子ども学科の上田信行先生のゼミを見学させていただきました。前回は、ゼミ長の日高さんのインタビューをご紹介しまた。今回は、上田信行先生に、学びの環境について、また、アートについて、お話をうかがいました。

 

上田信行先生インタビュー

How can we do it?”と”Artistic mindset”が、成長していく人を育てる。

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■上田ゼミの学生さん達のように、主体的に、楽しく、学びに向かっていく人はどうやって育つのでしょうか?

上田先生:大人も子どもも、それぞれが持つ能力観により、大きく2つのグループに分けることができます。1つは、「成長的知能観」つまり知能は成長すると考えていて、努力次第で伸ばしていけると考えるグループ、もう一つは「固定的知能観」つまり知能は伸ばすことができないと考えているグループです。端的に言うと、チャレンジが楽しいと思うか、怖いと思うかですね。固定的知能観の人は、今自分がどれだけ知的かということに価値を置きますから、能力が高かったら示したいし、そうでなければ隠したい。成長的知能観の人は、今の自分の能力より、これからどれだけ勉強して成長できるかどうかに関心があるので、失敗をおそれず、チャレンジする。なのでみんなが成長的マインドセットになって、チャレンジが楽しいと思いだしたら、学びの場は必然的にとても楽しい場になるんです。

 

■固定的マインドセットから成長的マインドセットになるには、どんな環境が必要ですか?

上田先生:まず、自分がどちらのマインドセットを持っているかを認識することがスタートでしょうね。その判定には、自分のアテンションがどこにあるかを確認することが一つのポイントになります。例えばテストで60点をもらった時、気持ちが自分に向かい、60点しか取れなかったとがっかりする子と、どうすればあと40点取れるだろうと気持ちを課題に向ける子がいます。前者が固定的マインドセットの持ち主、後者が成長的マインドセットの持ち主ですね。気持ちの矢印が自分に向いているのか、課題に向いているのか、と言い換えることもできると思います。点が取れなかった時、”fail(あかん)“でなく”not yet(まだ到達してない)“と思うのが、成長的マインドセットです。学生にはもし自分が固定的マインドセットの持ち主だったら、それをメタに見て(俯瞰して)、意識を課題に持っていくようにしなさいと言っています。TKFモデル(つくって、かたって、ふりかえる)は、やってみて、それを俯瞰することで自分の意識の方向を確認し、自分で方向修正するということにも、役立ちます。

固定的マインドセットと成長的マインドセットの違いは、”Can I do it”How can I do it ?”の違いですね。Howで考えると課題に向くんです。そして、”How can we do it?” にすると仲間と一緒に可能性が広がるんです。

 

■成長的マインドセットになるために、一つひとつのプロジェクトにどのくらいの時間をかけると良いですか?

上田先生:tinkering(ティンカリング:いじくりまわす)というキーワードが、今アメリカですごく重視されています。思いついたらすぐにやってみて、ダメだったら修正する。つまり、TKFモデルを毎日のように繰り返すのが良いと思います。日本人は思いや考えに時間をかけて、やってみるまでに時間がかかりすぎだと思います。

やってみるという形で表に出すと、周りから改善のためのコメントをもらえます。今、清水さんと話している間に新しいモデルを思いついたのですが、「さらして、とくして、前に進む(STM)」というモデルはどうでしょうか。こういうポジティブなマインドが必要だと思います。

僕は学生がレポートを提出したら、展覧会をします。せっかく書いたのに、僕しか読まないというのは、もったいないんですよね。学生も含めて全員で見ることで、お互いに学び合えますから。学生にはいつも、人にさらすことを目的にレポートを書くようにと言っています。

 

■以前うかがった上田先生ご講演の中で、デザインは問題解決で、アートは問い、という表現がありました。アートが学びにどう結びつくかについて、もう少しお聞かせいただけますか?

上田先生:アートとは、今ここにある難問を解くというよりも、今まで人があまり考えたことがないことを提案することだと思います。そういう意味で僕は自分がアーティストとしてふるまいたいと思っています。新しいことを投げかけて人をびっくりさせたい、気づいてほしい、と思っているんです。そして僕はアートがこれからの世の中を変えていくエンジンになると思っています。だからこそ学校にアートを持ち込まないといけないと思っていて、それが何かを新しくしていくための原動力のような気がするんです。アートは、刺激的でラディカルな視点をぽーんと投げ込み、みんながざわざわして、これまでのOSをゆさぶるような、新しい刺激を与えるようなものであるべきだと思います。

 

■つまり、考え方やあり方も、アートだということでしょうか。

上田先生:さきほどお話しした「failからnot yetへ」のような価値観の転換、その人が持っている世界観を大きく変えるようなものがアートだと思います。アートというのは自分の限界を超えていくことです。だからこそ、チャレンジするのです。成長的マインドセットを持ち、新しいことにチャレンジし、さらに境界線を越えていく、それを繰り返していくことが、アーティスティックなアプローチかなと思います。それはプレイフルネスと本当によく似ています。プレイフルも、やり方ではなくて、あり方なんですよね「おもしろくしてやろうぜ」みたいな。さきほど、デザインは問題解決で、アートは問いと言いましたが、言い変えると、アートはマインドフルなんです。マインドフルの対義語は、マインドレスなのですが、私たちはふだんつい、「〇〇はこういうもんだ」というように、あまり深く考えないでマインドレスに色々なことを捉えてしまっていると思うんです。でも自分の言葉でもう一度考えてみると、面白い発見ができたりします。マインドフルというのは、心を覚醒させて自分で何かをつくりだすということです。

 

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今回上田先生にお話を伺い、今まで先生のご著書やご講演で伺っていたキーワードを、ひとつながりのものとして理解することができた気がします。

 

自己ではなく、課題に目を向けて、仲間と取り組む。その際、ただ一直線に進むのではなく、TKFを繰り返しながら色々な視点から考え、同時に、既存の考えやものの見方にとらわれず、一つ一つの事柄を自分の言葉でもう一度考える。これが、個人の成長を促し、周りの人たちにも新しい価値観を投げ込むのではないか。そしてそのプロセスそのものがアートと呼べるのではないか、とお話を伺っていて感じました。

 

STEAMの提唱者、ジョン・マエダ氏とも親交が深い上田先生。RISDSTEAMミーティングの第1回にご参加された時、会議の主催者の方が”You have to move.” という言葉を言われたのが印象に残っているそうです。今回上田先生を取材させていただき、行動についても、思考についても、まさに上田先生にぴったりのフレーズだと感じました。

 

上田先生、お忙しいところお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

 

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