同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその2

こんにちは!清水葉子です。先日、同志社女子大学にうかがい、現代社会学部 現代子ども学科の上田信行先生のゼミを見学させていただきました。今回は、ゼミ長の日高さんのインタビューをご紹介します。

 

上田ゼミには現在、3年生と4年生の学生さん達、あわせて27名が在籍され、その活動の中心は学びのワークショップです。全員が参加するものと有志参加のワークショップがあり、年間で合計約40も実施されるというから驚かされます。当然常にプロジェクトが同時進行することになり、取材をさせていただいた11月上旬には、10のプロジェクトが同時進行していました。当然メンバーが重複するのですが、どのように運営されているのでしょうか。ゼミ長の日高さんにそのあたりも含め、上田ゼミの活動について伺いました。

 

ゼミ長 日高愛理さんインタビュー

「たくさんのプロジェクトを丁寧に運営していくことで、自分も、チームも成長します」

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■年間でどのくらいのプロジェクトをされますか?また、対象はどなたが多いですか?

日高さん:希望者対象のものも含め、年間40くらいだと思います。対象は様々で、以前は近くの私立高校でのワークショップが多かったようですが、今は企業や社会人向け、大学の先生方、小学生対象など様々です。

 

■それだけ多いと、プロジェクトメンバーも重なると思うのですが、どのようにプロジェクトを進めているのですか?

日高さん:プロジェクトごとに統括を決めています。現在ゼミ全体でいうと10のプロジェクトが同時進行しているのですが、統括はそれぞれ別の人が担当するようにしています。ただ、プロジェクトメンバーは重なってしまうので、統括がそれぞれの作業、時間配分を見ながらメンバーの動きを管理しています。だいぶ動きが複雑になっていますので、エクセルで全員のプロジェクトをまとめ、日程ごとに誰がどのプロジェクトに関わっているのかを示すようにしました。これにより、だいぶ全体の動きが見えるようになってきました。

 

■プロジェクトは、どんな風に進められるのですか?

日高さん:まず、対象者と目的を明らかにします。その後日にちと場所を決めて、コンセプトを決めていきます。以前は事前準備をあまりせず、ミーティングの場でアイディアを出していたのですが、アイディアって、ミーティングの場で考えているよりも、テレビを見たり、本を読んでいるときに突然インスピレーションが沸いて思いついたりすることが多いので、前提を共有した後、個人で考えてきて、その後みんなでシェア、という順番にしてみたら、コンセプトがまとまりやすくなりましたね。通常ですとここで一度上田先生に方向性の確認をし、具体的な流れを決めていきます。上田ゼミのワークショップには、TKFT:つくって、K:かたって、F:ふりかえる)という、学びを深めるためのフレームがありますので、それにそって流れを決めていくことが多いです。

 

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<「カップス」ワークショップでの1幕>

 

■ワークショップ内の様々な役割は、どのように決められるのですか?

日高さん:2年間一緒に活動していると、それぞれのメンバーの得意分野がわかってきます。記録や編集が得意な人、カフェのような空間をデザインするのが得意な人、ファシリテーションが得意な人など、それぞれの得意分野が分かれているので、それぞれが得意な部分を担うことが多いです。

 

■それぞれの得意分野がわかってくるまでにどのくらいの時間がかかりましたか? 

日高さん:最初は全員で全部の役割を順番に体験していきました。いくつかのプロジェクトを回していく中で、誰が何に向いているかが、自分にも他のメンバーにもわかってきます。ただ好きで得意なことをしていても、別の役割をやってみたいという気持ちが出てくることもあるので、そういう時はその気持ちを尊重し、役割を変えて良いことになっています。

 

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<ディスプレイが得意なメンバーの作品>

 

■上田ゼミではリフレクションを大切にされていますね。リフレクションをやってみて、感じることはありますか?

日高さん:私はもともと、振り返りをあまりしない人間でした。だから、何度も同じような間違いを繰り返してしまうことがありました。そしてその活動内容も忘れやすくなってしまいました。リフレクションをすると、その活動の中にあった意味を考えることができ、それを考えることで記憶に残るということに気が付きました。上田先生はよく「体験を経験にするために振り返りをする」とおっしゃるのですが、ただ体験していることと、経験になることの間に、振り返りがあるんだと思います。

 

■どういう形で振り返りをすることが多いですか?

日高さん:プロジェクトが終わった後、いったん個々人で振り返りを行い、文章化した後、リフレクションミーティングを行います。リフレクションミーティングでは、ワークショップのタイムラインに沿って、順番に振り返ります。例えば一日のプロジェクトだと、最初にダンスを踊ったりするのですが、「あの時成功したのはなんでか」「あれで良かったか」その後カフェがあったら「あの時渋滞したのはなんでだったか」などについて意見を出していきます。また、ワークショップの最後に、参加者の方向けに意味付けをしたりするのですが、そこで「学んできたことが生かせているか」なども考えますね。グループでの振り返りは対話で行っていきます。

 

■ゼミ長として、取りまとめに苦労することはありますか?

日高さん:同じ学年内のメンバーをまとめるのは、会社のように上司、部下の関係性とは違うため、なかなか難しいところがあります。メンバーの温度差はあります。私もそこに悩んで、先日は全員と面談し、状況を確認しました。お互いに状況を確認し、統括としても無駄な時間などはできるだけ減らして、埋められるところは制度的にも対応するから、それ以外のところは自分で価値を見つけてやらないとだめだという話をしました。自分で価値を見つけられるかどうかは、これまでに参加したプロジェクトの数に比例するように感じています。上田ゼミには希望制のプロジェクトもあるのですが、それに積極的に参加する人は、どんどん成長実感を持って進んでいくように思います。

 

■成長実感は、どういう時に感じられるものだと思いますか?

日高さん:いくつもプロジェクトをこなしていると、前はできなかったことができるようになっていることを感じるので、それが成長実感なのかなあと思います。

 

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30名弱のメンバーで、年間40ものワークショップを企画、運営されるのは、本当に大変だと思います。それに一つずつ丁寧に取り組み、毎回リフレクションの時間をきっちりとることで、ゼミ生のみなさんは確実に成長し、またそれを自分でも実感できるんだなあ、と日高さんにインタビューをさせていただき、感じました。

 

上田先生によると、学びには3段階あるそうです。Learning1.0は学習指導(授業)により知識を獲得する学び、Learning2.0は表現活動やものづくりによる学び、Learning3.0は誰かに喜んでもらうために準備をし、パフォーマンスをすることによる学びだそうです。自分のために勉強するよりも、誰かに喜んでもらうためならば人は一生懸命になれるそうで、だから上田ゼミの活動にはLearning3.0が多く含まれている、ということでした。

 

その中で日高さんのように成長実感を感じられるかのポイントは「自分ごと」にできるかどうかにあるそうです。その活動に意味を見出せず、自分ごとになっていない場合はやる気が出ない。そういう時には上田先生は根性論ではなく「活動に自分なりの意味を持って関わって」と伝えるそうです。その意味は人によって違ってもよく、それがぴったりくると、自分のためにやっているという意識になり、だんだんと本気になるそうです。ゼミ内にたくさんのプロジェクトがあるということは、ゼミ生がそれぞれの意味を見出すためのたくさんのチャンスがあるということでもありますね。また、忙しい中でもそれぞれが自身の役割を楽しそうにこなしているのは、「自分にとっての意味」を見つけた学生さん達がたくさんいらっしゃるから、なのかもしれません。

 

日高さん、ワークショップの準備でお忙しい中、お話を聞かせていただき、ありがとうございました!

  

↓前回の記事はこちらです。

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同志社女子大学上田ゼミの、プレイフルな学びの環境ーその1

こんにちは!清水葉子です。先日、秋の風景が美しい、同志社女子大学京田辺キャンパスにうかがい、現代社会学部 現代子ども学科の上田信行先生のゼミを見学させていただくとともに、上田先生、ゼミ長の日高さんにインタビューをさせていただきました。これから3回にわたり、掲載させていただきます。

 

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現代子ども学科は、所定科目の単位を修得することで、小学校教諭一種免許状、幼稚園教諭一種免許状、保育士などの資格が取得できるほか、社会環境、学習環境、心理など、子どもに関連する事柄を幅広く学べる学科です。中でも上田ゼミは、学習環境デザインをテーマとし、多くの実践を通して学習環境について考え、試行錯誤できるゼミとなっています。子ども達が主体的に学び、成長するには、どんな環境が必要なのかということを色々な角度から教えていただくとともに、アートと教育の関係についてもうかがいました。

 

お話を伺った上田信行先生

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4年生でゼミ長の日高愛理さん

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上田ゼミの学びの環境

こちらが、上田ゼミや上田先生の授業で主に使用されるスタジオです。

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ガラス貼りになっていて、廊下からも良く見えるのですが、うかがう際に、もう外から見て、他の教室と全然違う雰囲気を感じました。そして一歩踏み入れると、何か面白いことが起こりそうなわくわくした雰囲気が、部屋中にあふれています。化粧板が貼られていない黒く塗られた天井、ダウンライト、フローリング、中央に吊り下げられた旗や壁の装飾、キャスターがついた机と椅子などが、その理由なのでしょうか。まだ他にも何かありそうです。

 

この場所では、授業、ゼミ生の打ち合わせ、作業、ワークショップなど、様々な活動が行われています。また、空間設計は、上田先生が自ら行われています。

 

↓こちらが、3年生対象の動画編集の授業風景です。

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↓こちらが、市内の幼稚園、保育所の先生対象のワークショップの様子です。

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写真を撮り忘れてしまいましたが、この部屋の反対側の面には、中2階の高さのフロア「メタフロアー」があり、そこに上るとこの部屋「経験のフロアー」全体を少し上から見渡せるようになっています。例えば何か創作活動を行う際、経験のフロアーで個人もしくはグループで表現に没頭します。一度手をとめて、メタフロアーに上がり、今までしていた活動を別の視点から見つめることで、リフレクションが行えるという構成です。これらの活動を想定してつくられた空間はとても使いやすい環境でしょうが、いわゆる普通教室でも可能だと、上田先生はおっしゃいます。「例えばメタフロアーがなくても、全員が立ち上がれば目線が変わり、メタ認知がしやすくなりますよね。机や椅子を端に寄せればスタジオになりますし、個人作業の空間も、例えば簡単に段ボールでつくることもできると思うんです。うちのゼミでは卒業後先生になる学生も多くいますが、大学でこのような空間を経験しておくことで、先生になった時に、自分の手で工夫ができるようになるのです(上田先生)」

 

そしてこの楽しくわくわくする雰囲気を作り出しているのは、なんとってもそこにいる学生さん達です。うかがった日も、ワークショップの準備で本当にお忙しそうだったのですが、殺伐とした雰囲気は一切なく、取材させていただいた私たちにも、途中見学にこられた高校生の生徒さん達にもさわやかにあいさつし、終始にこやかに対応してくださいました。色々な学校を見学させていただいていますが、ここまでオープンであたたかな対応をしていただいたのは、初めてです。

 

↓つづきはこちら 

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空間を選び取る力が育つ、交流の場―甲南大学 iCommons その3

みなさまこんにちは!清水葉子です。

過去2回のブログでご紹介をしました、甲南大学KONAN INFINITY COMMONS(iCommons)について、引き続きご紹介をしてまいります。まずは、前回の学生ラウンジに加え、予約が必要ではありますが、全ての学生さん達が使える施設のご紹介です。館内にはスタジオ、キッチン、アトリエ(木工室 !)トレーニングルーム、音楽練習室などがあります。

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 これらは、予約をすれば特定の部活動に所属していなくても、個人やグループで使用できるそうです。アトリエには3Dプリンタもあり、うらやましい!

 

そして、3階、4階には、文化会の部室があります。

「以前この場所にあった部室のほうが1室ずつが広く、そのためにミーティングも部室の中で行われるなど、部屋の中で活動が完結してしまっていました。iCommonsの建設にあたり、部室を15平米ほどに狭くして、その代りに共用で作業や打ち合わせに使えるスペースをたくさん設け、スペースをシェアできるようにしました。そうすることで学生の動きも変わってき各部の活動が外部から見えやすくなりましたね。また、各部屋にディスプレイができる家具を設けることで、活動内容を見えやすくしました(小幡課長)」

 

↓部室フロアです。奥に見えるのが部室(部屋ごとに色が変えられています)各部の個性が出ていますね。

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↓鉄道研究部のディスプレイには、なにか思い入れがありそうです。

 

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↓部室の外側にもラウンジがあり、自由に使うことができます。左手に見えるのはミーティングルームです。 

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このようにカラフルで楽しそうな雰囲気であれば、部活に所属している人以外でも足を踏み入れやすく、活動の様子もわかりそうですね。

 

地下1階にはホールもあり、部の発表などにも使えるそうです。

 

全ての場所はご紹介できませんでしたが、アゴラを囲むようにつくられたシンプルな構造の中に、様々な空間が準備されていることを、ごらんいただけたと思います。思い思いに過ごす場に加え、展示スペースや、ホールなど、発表の場も多く設けられているのが印象的でした。学生さん達は、様々な目的でこの場所を訪れ、場所を使いこなしていくことで、活動目的や気持の状態に適した空間を選び取る力がついてくるのではないかな、と、見学をさせていただいて感じました。TSUTAYAさんやキャリアセンターの企画に加え、iスタッフという、教職員、学生の有志によるグループの企画もあるそうです。

11月の予定はこちら

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これからどのようにこちらの施設が使いこなされていくのか、楽しみです。

 

iCommonsが紹介されているページはこちらです。

ch.konan-u.ac.jp

 

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空間を選び取る力が育つ、交流の場―甲南大学 iCommons その2

みなさまこんにちは!清水葉子です。

ちょっと間が空いてしまいましたが、先日のブログでご紹介をしました、甲南大学KONAN INFINITY COMMONS(iCommons)について、引き続きご紹介をしてまいります。先日ご紹介しましたiCommonsの中心となる場所、アゴラのある1階からツアーを再開します。

アゴラの舞台部分からつながる両側の部分および裏側は、ちょうどコの字型に食堂となっています。

こちらが北側部分(Hirao Dining Hall North)、大空間ではなく、少しずつブースで区切られています。打ち合わせをしながら食事をするのにもよさそうですね。

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こちらは西側部分(Hirao Dining Hall West)。のれんをくぐると居酒屋風?の空間が広がっています。靴も脱いでリラックスできそうです。

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こちらは南側部分(Hirao Dining Hall South)。

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柱ごとに空間を借りることができ、パーティーなども可能ですし、上部からパネルをつるすことで展示することもできるそうです。食事をするだけでも、色々な空間が選べるって、いいですね。

 

iCommonsには、食堂だけでなく、もっとたくさんの「選べる空間」があります。

館内には、学生ラウンジがいくつもあり、家具や空間の大きさ、床の色も少しずつ変えられています。予約は必要ないので、その日の気分で過ごす場所を決めるのも楽しそうですね。

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TSUTAYAブックカフェ、カフェ&バーPRONTOの2つのカフェもあります。

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(つづきます)

 

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空間を選び取る力が育つ、交流の場―甲南大学 iCommons その1

みなさまこんにちは!清水葉子です。

秋が深まり、紅葉の季節になってまいりましたね。

日本の四季の中で、秋という季節が最も大学に似合うなあ、と個人的に思っています。小学校や中高と比べて、何かちょっと大人な雰囲気が、大学にはあるからでしょうか?

 

さてそんな大学にぴったりな季節に、兵庫県東灘区、閑静な住宅地の中にある、甲南大学に伺いました。今年2017921日にオープンしたばかりの、KONAN INFINITY COMMONSを見学させていただくためです。管財部の小幡真史課長にご案内をいただきました(写真を撮り忘れてしまいました…ご多用のところ、本当にありがとうございました!)。

 

↓こちらがKONAN INFINITY COMMONSの入り口です。

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訪問させていただいた岡本キャンパスは、文学部、法学部、経済学部、経営学部、理工学部、知能情報学部からなる、甲南大学で一番大きなキャンパスで、文系と理系の学部が同じ場所にあり、理系学部は少し北のほうに校舎があります。KONAN INFINITY COMMONS は愛称をiCommonsというのですが、文系学部と理系学部をちょうどつなぐ位置に、建っていました。

 

甲南大学は、2019年に学園創立100周年を迎えます。それに向けて、様々なプロジェクトが行われています。まず、2014年に、「KONAN ワンワード・プロジェクト」という、甲南大学の魅力を一言でわかりやすく表現するという取り組みが行われました。学生、教職員から広く「ワンワード」を募集し、選ばれたいくつかのワードで投票が行われました。総数3,471票という盛り上がりの中選ばれたのが、「KONAN INFINITY」だったそうです。Infinityとは、無限大という意味で、「無限の可能性を追求し、開花させる」という意味が込められています。

 

↓ワンワードプロジェクトはこちら。

www.konan-u.ac.jp

 

このキーワードは、すでにホームページやキャンパス内で使用されていますが、施設名として使われたのは、今回が初めてだそうです。

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↑こちらが建物入り口の表示です。100周年の100という文字と、無限大を表す∞が、よくマッチしていますね!

 

この場所にはもともと、6棟の建物、学友会館(学食など)、学生会館、文化部室、小体育館、能楽練習場、共同練習場があったので、課外活動をする学生、食堂を利用する学生はある程度交流はしていたそうですが、学友会館、小体育館以外の場所は、課外活動に参加しない学生にとっては、あまり立ち寄るきっかけが無かったそうです。必要とされる機能はそのまま引き継ぎつつ、より多くの学生が集う交流の場とすることがiCommonsの目指すところだそうです。また、学生がよく利用する学生部、キャリアセンターをiCommonsに移設することで、全ての学年がこちらを利用し、縦のつながりもできるような工夫がされています。

 

iCommonsのコンセプトを表す3つのキーワードは、

「岡本キャンパスの結節点」「オープンとシェア」「アクセシビリティー」。

全体の交流とともに、理系学部と文系学部を地の利的につなぐこと、閉じた空間はできるだけ少なくし、活動場所をシェアできること、入り口を北と東の両方に設けたり、校舎と空中通路でつなぐなど、アクセスしやすい環境にされていることが、ポイントです。

 

「本学は学生数9000人の中規模な大学になりますので、キャンパスもそれほど広くはないのですが、iCommonsでは文系と理系の学生等いろいろな学生が出会い、融合し、新たな発見があったり、新しい出会いの中から新しいチャレンジをしていくことを目的としています(小幡課長)」

 

さて、どのような活動が内包されているのでしょうか!中に入ってみましょう。

 

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まず入り口を入ると、「アゴラ」という大階段が迎えてくれます。iCommons内の色々な場所から見渡せる、中心となる場所です。象徴的な空間というだけでなく、講演会や授業などに使いやすいつくりとなっています。

 

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見学させていただいた際もちょうど文学部の講義が行われていました。階段から振り返ったところに210インチの巨大モニターがあり、講演資料を投影しているのが御覧いただけると思います。

 

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階段部分には約150人が座れるということで、実際に使用されているシーンを拝見しますと、なんともちょうど良いサイズなんです。このような大空間は、大きすぎると使えるシーンが限定されますし、小さすぎてもなんだか使いにくい、オブジェのようになってしまいがちですが、ちょうど良い規模だからこそ、頻繁に利用されているんですね。

(続きます)

 

iCommonsのページはこちらです。

ch.konan-u.ac.jp

 

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モチベーションの世代差の面白さ―「モチベーション革命―稼ぐために働きたくない世代の解体新書」を読んで

みなさまこんにちは。清水葉子です。先のブログで紹介した110driveさんのインタビューで、これからはモチベーションがキーになるというお話、何か一つのことに没頭することが、イノベーティブな力を伸ばす、というお話がありました。これは以前にご紹介しましたRISDの教育でも、一つのテーマとなっていました。

 

では、一つのことに没頭する時のモチベーションの源泉は何なのか?と考えているときに、こちらの本に出会いました。

「モチベーション革命―稼ぐために働きたくない世代の解体新書」

尾原和啓著 Amazon CAPTCHA

 

著者の尾原和啓さんは、現在40代。20代、30代前半の日本の若い人たちを、反応がにぶく、未来に渇望していないと思い、失望していたそうですが、ある時、40代、50代の人たちとはモチベーションのもとが違うということに気が付いたそうです。

尾原さんはそれを大きく「乾いた世代(40代以上)」「乾けない世代(30代以下)」に分け、解説しています。詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、ざっくりと解説すると、乾いた世代は何かを達成し、その結果モノや行為としての快楽を得ることを目標に頑張れるのに対し、乾けない世代は、今自分がやっていること自体に幸せを感じられるかどうかが、そのポイントになるというのです。本書では「意味合い」「良好な人間関係」「没頭」というキーワードでそれが表現されています。

 

私も40代なので、乾いた世代なのかもしれませんが、このように言語化していただくと、何か実感としてその両方が見えてくる気がしました。

 

これは私の解釈ですが、乾けない世代が乾いた世代よりも物質的に多くを持っているかというと、そうでもない気がします。経済成長が右肩上がりではない今の日本で、頑張れば何か良いことがある、という頑張り方は、だんだん難しくなってきています。成功体験がある乾いた世代は、まだそれでも頑張れるのかもしれませんが、乾けない世代は、そこを目的とはしづらいのだろうと思います。その代り、今にフォーカスをして、周りの仲間と、何かに没頭することを大切にするのかもしれませんね。

 

尾原さんは、この乾けない世代のあり方が、これからやってくるAI時代に求められるとも指摘します。それぞれが理由なく好き、偏愛するものに没頭し、追及することで、それぞれの得意分野を持った集団ができ、彼らがコラボレーションすることで、クリエイティブな、強い組織ができ、理由なきこだわりが、AIにはない価値を出せるきっかけになるというのです。

 

私は「没頭」というと、個人的な作業を連想してしまいますが、たぶんこれからは、「仲間と没頭」できる人が力を発揮するのだと思います。特に若くてかつクリエイティブな人たちは、こだわりがあるのに、人とうまく協力できるところがすごいなあ、といつも思います。乾いた世代の人は、人とうまく棲み分けるのが苦手で、つい一つの物差しで優劣をつけてしまう人が多いのではないでしょうか。立場や役割の違いを上下関係と認識するのも、乾いた世代の特徴と言えると思います。このあたりは、個人的にも、本当に若い世代に学ぶことが多いと感じますし、もっと知りたいなあと思うところです。そしてそこをきちんと理解することが、教育現場で没入学習ができる環境をつくるための鍵なのではないか、と、あらためて考えることができました。

没入学習が、イノベーションを起こせるジェネラリストを育てる 1→10drive 梅田 亮さん、森岡 東洋志さんインタビュー その2

こんにちは。清水葉子です。先日、「イノベーションのためのアート・デザイン教育とその可能性―STEMからSTEAMへ」というタイトルで、私学マネジメント協会が発行している雑誌に記事を書きました。 その過程でどうしても、1→10drive(株式会社 ワン・トゥー・テンドライブ)さんにお話しをお聞きしたい!と思いまして、代表取締役CEOの梅田 亮さん、同社執行役員CTOの森岡東洋志さんにお話をうかがいました。

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イノベーティブかつ専門性を持ったジェネラリストを育てるキーワードは「没入」と「モチベーション」だと、前回のブログに書きましたが、具体的にどのようなことなのかを、続けてうかがいました。

 

「モチベーション=やる気」が差につながる時代が来ている

この10年間で、個人の発信力やコンピュータやテクノロジーを取り囲む環境が、大きく変わり、個人がどんどん力を発揮できるようになっているようです。「昔は影響力を持つものがテレビ、新聞のようなマスメディアしかなかったのが、今はSNSに自分の体験を書けば、100万人、1000万人の人が見てくれる可能性がある。これがあらゆることに影響を及ぼしていますね(梅田さん)」

 

「10年間の変化は色々ありますが、一番大きいのはPCのスペックが飛躍的に上がったことでしょうか。例えば1秒間に100回しか計算できなかったことが、1回で100万回計算できるようになると、できることの範囲が確実に増えていきます。もうひとつはインターネットですね。色そのスペックが上がったコンピュータが世界中で広がっているので、出来ることが単純に増えます(森岡さん)」

 

「物とか機材の値段が下がり、購入ルートが変わったというのも大きいです。昔は例えばちょっとしたモーターを買いたいとなった時に、工場に行くと、3000個のロットからしか販売できないと言われ、それじゃあ買えないから秋葉原の小さい店に行って探すか、など、小さいモータ―を買うのもすごく大変だったし、モーター1個の値段も高かったのですが、今でしたらネットで探せば値段も安くて1個から変える、という状況になっています。海外の製品も同様です。昔だったら超ノウハウとコネクションの世界で、大企業しか手に入れられなかったのが、中学生でも手に入れられる時代になってきたということです。個人でも興味さえあれば色々なことができる時代です。(梅田さん)」

 

だからこそ、個人が動くきっかけとなる興味、モチベーション、やる気がますます大事になるといいます。

「やる気があってちょっとにぎれば、以前に比べて個人のできることが増えているので、10倍20倍の知識が手に入ったり、10倍20倍のことができる分、やる気がない人との差はどんどん開く。これからはよりそれが顕著になるでしょうね(森岡さん)」

 

ちょっと怖い気もしますが、好きなことをやり続けるとそれがいつか自分の人生を切り開くようになるというのは、幸せなことでもあるのではないでしょうか。

 

プログラミングについてはどうでしょうか。「コンピュータというツールは、絵筆とか、他のグラフィックでできることは明らかに違います。コンピュータでできることを知ると、デザインのその考え方自体が変わってくるので、やはりコンピュータは使えたほうが良いと思います。ただ、プログラミングを学ぶというと、職業訓練みたいな感じがするので、プログラミングを使って自分のやりたい何かにアプローチするほうが良いのではないでしょうか。極端な話、やりたいことが実現できていれば、プログラミングの書き方は最初はぐちゃぐちゃで良いと思います。例えばグラフィックが好きなのであれば、グラフィックがプログラミングで簡単につくれる環境というのはたくさんあるので、そういうのをためしてみると、自分の好きなものの領域でプログラミングがどう寄与するのかを感じられると思うんですね。音楽だってゲームだってグラフィックだって、パソコンを使えばできることが増えるのは間違いないので、むしろやりたい分野でパソコンを使ってみる、ということが大切なのではないでしょうか(森岡さん)」

 

「プログラミングが嫌いになってしまうくらいなら、小中学生からプログラミングを学ばないほうが良いと思います。1→10では、社会人になってからプログラミングを勉強している人が多いですが、勉強のスタートは自分の感動から入っている人が多いです。例えばクラブに行ってVJがめっちゃかっこよかった。それがどんなふうにつくられているかを調べたら、プログラミングでやっていたことがわかったので、勉強してみようとか。メディア芸術祭に行って、そこでの展示がすごくかっこよかったからあれを真似してみようとか(森岡さん)」

 

「現状で満足できなくなったり、これをもっとこうすればよいのに、と思うことも、プログラミングをやってみようと思うきっかけになると思います。例えばインスタグラムを使っていて、その使い勝手っていまいちだよねと思うとか、こういう情報を調べたいのにインスタグラムの機能だとできないのをどうやったら解決できるかって考えるとか(森岡さん)」

 

お2人のお話からは、新しいものを生み出す際はどんな専門であってもデザインする力が必要とされること、現在、そしてこれからの時代は、発信も含め、個人ができることが増えてきたということ、その推進力となるモチベーションや興味が、全てのプロセスに関わってくるし、自分の好きに没頭することが、未来を切り開くのだなあ、と感じました。

 

梅田さん、森岡さん、お忙しいところインタビューにお答えいただき、ありがとうございました!

 

↓1-10driveさんのホームページはこちらです。

www.1-10.com

 

↓前回の記事はこちら

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