空間が動きに与えること、心に与えること―同志社女子中学校・高等学校:オープン編
みなさまこんにちは。清水です。先日、京都にある、同志社女子中学校・高等学校にうかがい、校舎を見学させていただきました。
同志社女子中学校・高等学校は昨年で創立140年を迎えた伝統校。同志社の系列中高としては唯一の女子校で、同志社大学、同志社女子大学に加え、国公立大学、難関私立大学への進学者も多いのが特徴です。
今回は竣工したばかりの中学校舎、希望館を中心に見せていただきました。
様々な見どころがありますので、「オープン編」「伝統編」の2回に分けて紹介します。
―まずは、オープン編―
希望館外観です。もともとグラウンドだったところに建設されたため、生徒さん達は校舎建設中も、仮校舎無しで生活できたそうです。
地下1階~地上4階の校舎に中学3学年の教室と、食堂、音楽、理科、美術などの特別教室がおさめられていますが、2階から4階までのアトリウム空間が校舎の中心にあるため、とても見通しが良く、わかりやすいつくりとなっています。
屋上もとても開放的!京都市内は建物の高さが制限されていますので、屋上からは360度、市内全域を見渡すことができます。
そして、こちらは、アトリウムに面した職員室。廊下に面した窓は、それぞれ開けることができ、生徒たちはここから先生に声をかけ、話をします。それぞれの窓にはブラインドがあるものの、基本的には閉めないことがルールだそうです。生徒さん達にとってはずいぶん先生を探しやすいですね。以前は先生方が教科ごとの部屋に分かれていましたが、新校舎では一つの職員室に。教科間の風通しがずいぶんと良くなり、連携などもしやすくなったそうです。
校舎の色々な場所にあるのが、各教科のメディアコーナー。生徒さんの作品や、教科の先生方が生徒に見せたいものが展示されています。
まずは国語
理科は剥製や生物の解剖模型がたくさん。
今までは準備室などに眠っていたものも、メディアコーナーができたことで、生徒がいつも見られるようになったそうです(理科はここにおさまりきらずもう一つコーナーがあります)。
こちらは社会で、世界のお金が展示されているのですが、これらは全て、社会科の先生方が海外に行かれた際のものだそうです。先生方のコレクションも公開の場ができて、良いですね!
音楽科はメディアコーナーではありませんが、このような展示コーナーができたことで、所蔵されていた楽器をいつも見ることができるようになりました。
新校舎になり、アトリウムでフロアが縦につながったことで、以前の校舎と比べて、生徒さん達の学年を超えた交流が活発になったそうです。そして、雰囲気も明るくなったということでした。職員室やメディアコーナーもそうですが、物理的に距離が近くなったり、視線が交錯するようになったり、見せる場があったりすることで、そこを利用する人たちの行動や気分など、変わっていくんだなあと、あらためて思いました。また、色づかいもとても明るくオープン。アトリウムの床は、希望館のコンセプト「学びの森」をあらわすグリーン。カラフルな椅子がまた良いですね。
廊下のコーナーには、サーモンピンクが使われています。
色彩による雰囲気づくりも、また、大切な要素ですね。
(伝統編に続きます)
↓同志社女子中学校・高等学校のホームページはこちらです。
↓ほぼ毎日更新される「こむらさき通信」。学校の様子がよくわかります。
http://www.girls.doshisha.ac.jp/blog/
↓伝統編はこちら。
オープンであることの可能性-育英西中学校・高等学校のEducational-i:Link
オープンイノベーションという言葉が示すように、近年、ビジネスでも、行政でも、組織の枠を超えた動きが多く見られるようになりました。この動きはやはり、多くの人が「オープンにすること」のメリットがあると感じているからではないでしょうか。
本日は、奈良県奈良市にある育英西中学校・高等学校の事例をご紹介します。
育英西中学校・高等学校は、奈良市西部の丘陵地に立つ、自然環境に恵まれた、落ち着いた雰囲気の女子校です。創立以来「次世代を担う女性を育成する」ことが目標として掲げられ、これからの時代に必要な力を育てることにも力を入れられている学校です。
2017年1月30日に、教育関係者を学校に招いての公開授業が行われました。奈良県内の中学、高校や塾を中心に案内を出し、約60名が外部より参加。2時間にわたり中高合わせて11のアクティブラーニング型授業が公開された後、「論理的思考を高める」「情報発信力を高める」「学力向上につなげる」3つの観点での分科会が行われました。
<分科会の様子>
授業を外部に公開するという動きは、ここ1、2年で公立、私立ともに増えてきていますが、育英西の特筆すべき点は11という、公開された授業数の多さと、これからご紹介します公開授業の前後の動きです。
まず、公開授業申し込み後、申込者にメールで、Facebookグループ「Educational-i:Link」への案内が届きました。承認制の非公開グループで、管理者の先生に承認をしていだくものです。登録すると、各授業の学習指導案を見ることができました。このように事前に授業の詳細が配布されると、落ち着いて見ることができ、授業の観点や質問などを準備しやすくなりました。
当日の授業終了後、校長先生から参加者全員にメールをいただきました。また、返信された感想は、送信者の許可を得て「Educational-i:Link」で共有されました。
<Face Bookページのトップ画像>
こちらのグループはそれで終わりではなく、その後も「シナジータイム」(生徒の思考力を育てる授業)の様子や、先生方の授業の実践例、アクティブラーニングに関する情報などが定期的に投稿され、育英西の先生方と校外のメンバーの交流の場となっています。
中でも興味深かったのは、外部講師を招いたMicrosoft Officeを活用した校内勉強会への参加の呼びかけがあったことです。
<実際の呼びかけ>
こちらは、一定人数以上集めたい、校内で集まるかどうか、という状況で、そうだEducational-i:Linkでも呼びかけてみよう、という流れだったそうです。実際は校内だけで人数は集まったのですが、実際に校外からも参加される方がいらっしゃったそうです。
このお話をうかがい、学校の境界について変化が起きていると感じました。それはインターネットという環境も影響はしていると思いますが、先生方の意識の変化のほうが大きいかもしれません。
育英西中学校・高等学校では、数年前から、教科や学年を超えた勉強会が校内で定期的に行われています。「他の校務でも忙しい中の参加だったが、これがあるから学校の方向性が確認できたり、情報が共有でき、良かった」と、教務部長の山元先生。先生方が校内でお互いの授業を見るのも自然になってきているそうです。このような内部でのオープンな動きが外部にも広がってきたのが、現在の形なのかもしれません。
内外でオープンにすることのメリットは、多くあるといいます。まず内部では学校の方向性を確認できること、ICTの導入など新しい取り組みも相談しながら進められることなど。また、外部にオープンにすることで、今まで気が付かなかった部分を見てもらえること。時には生徒さんにもそれをフィードバックしながら、学校運営に役立てられているそうです。
校長の北谷成人先生も、私学がお互いに情報をオープンにすることで、高めあっていくのが良い、と考えられています。加えて、先生方一人ひとりが外部との交流を持つことも奨励されています。その理由として「学校の中で何か新しいことを始める時、必ずしも全員が同調するわけではありません。その時に、学校の枠を超えて、共感できる先生がいらっしゃれば、励みになり、続けられるのではないか」ということを挙げられていました。この動きは、先生方一人ひとりのことも考えられた、環境設定なんだということをあらめて実感しました。
「Educational-i:Link」も含めたこれからの展開がとても楽しみです。
外の視点を入れることで、広報のPDCAサイクルを早く回す。 ―東山中学・高等学校
みなさまこんにちは。清水です。
最近あるテキスタイルに魅せられて、その発信方法を試行錯誤しているのですが、動画を撮影したり、編集したり、投稿サイトにアップしたり、という作業が、とても楽になりましたね。
今日は学校での動画発信の事例をご紹介します。京都市左京区にある、東山中学・高等学校です。
こちらの学校は、もともとホームページの見やすさに定評があるのですが、最近特に力を入れられているのが、動画チャンネルです。
「東山の教育」「入試情報」「クラブ活動」「学校生活」という4つのカテゴリーで、たくさんの動画がアップされています。
プロが制作したものもありますが、大半は校内の企画広報推進室の先生方が作成されたもので、撮影から編集まで、広報の先生方の手で行われているそうです。
中でも珍しいのがこちら。「東山のペッパーがお伝えする Higashiyama News」です。スライドショーに合わせ、Pepperくんが毎月、その月に学校で起きたことを紹介します。こちらも先生方でつくられていて、クロマキー(合成撮影用の青い幕)の前でPepperを撮影し、スライドショーに合成されているというから驚きです。
広報の先生方は独学でこれらの動画撮影、編集の技術を身につけられたそうです。
なぜそこまで校内でされているかを企画広報推進室長の澤田寛成先生におうかがいしたところ、たくさんの動画をアップしたい時に、すべてを外注していると予算的に厳しいというのが一番の理由だそうです。たくさんの動画をアップすると、再生回数という形でダイレクトにホームページ閲覧者の反応が還ってきます。どんな内容を閲覧者が好むかは、直接試してみればよい、というスタイルは、広報のPDCAサイクルを早く回せるし、今の時代にとても合っているなあ、と思います。
校外から見るとすごく魅力的な事柄も、校内にいるとついあたりまえと感じ、良さに気が付かない、ということはどの学校にもあると思います。東山中学・高等学校でも、例えば食堂のメニューなど、先生が「これはそんなに珍しくないのでは」と感じるようなことでも、できるだけアップし、閲覧者に判断をゆだねよう、という方針だそうです。平均閲覧回数はおそらく数百、人気だと1,000回を超えていますので、判断がしやすいと思います。
外の目線を入れる動きは他の部分にも散見されます。
例えば、ポスター制作には生徒さんが関わっていて、制作会社さんとの打ち合わせに同席されるそうです。
こちらは生徒さんが選択された高校のポスター。
こちらは、先生方が選ばれたポスターです。
生徒さんたちが選ばれたポスターに写っているバスケ部の岡田さんは、バスケがうまいことでかなり有名。You Tubeにアップされた試合の動画には、再生回数が4万回を超えるものもあります。岡田さんを起用したことで、中学生から注目を集めるポスターとなったそうです。少し前まで学校を選択する側だった生徒さんたちの目線を入れることも、大切ですね。
先生方が選ばれた案は、150周年のポスターに。こちらは保護者目線での東山のイメージをよく伝えていると思います。
外に開き、意見を取り入れながら、スピード感のある広報をされている東山中学・高等学校。今後の展開もとても楽しみです。
ちなみにPepperくんは2015年の秋に東山にやってきて、外部相談会、出前授業でも活躍中です。こちらの設定や、アプリ入れ込み、使い方のサポートなどは、コンピュータ部の生徒さんが行われたそうです。
こちらは校外の私学フェアで説明中のPepperくんです。
ペッパー君の動画、ホームページでチェックしてみてくださいね。
パーソナルファブリケーションは、ものづくりをどう変えるか その5 ーまとめー
みなさまこんにちは。清水です。
「パーソナルファブリケーションは、ものづくりをどう変えるか」
という問を立てて、この3か月、アンテナをはってきました。
中間の、ということにはなりますが、いったん、まとめてみたいと思います。
私がこの問をまず立てた時は、パーソナルファブリケーションには、なんでも自分でつくれるというモノづくりマインドが育つ、自分の手でつくることの楽しさを持ち続ける、という意味が、そこにはあるのかな、程度にとらえていたのですが、もっと直接的にビジネスや社会に影響を与える流れなのだとあらためて感じました。そして個人もしくは少人数だからこそできる発想やスピード感が、今求められているのだと思います。
1.機械の小型化と設計図のデジタル化、インターネットがパーソナルファブリケーションを下支え
過去の投稿にも書きましたが、色々な機械がテーブルサイズかつ安価になったことで、大きな投資をして環境を整備することなく、費用をかけて外注することもなく、開発を進めることが可能になりました。加えて、インターネット環境の発達により、物理的に距離がある人たちとも協力しながらプロジェクトを進めることが可能になりました。
先日Hack Osaka2017で行われたピッチコンテストの登壇者も、本当に少ない人数で優れた製品やシステムをつくられている方たちばかりでした。
インターネットの発達は、例えば試作品をつくって公開し、想定顧客から直接ネット上で評価を受けるなど、安価に、早くマーケティングをすることも可能にしています。
2.オープンであることの効果とスピードの価値
さらに面白いのは、これら小さい単位でのファブリケーションの動きが、オープンイノベーションを加速していることです。個人や人数の少ない組織は、自前で全てを完成させるのではなく、外部と連携しながら開発を進めます。例えばデザインや設計図をデジタル化し(データとして)オンラインコミュニティで共有することで、お互いに一から設計をする手間を省くとか、プロジェクト単位での連携をすることで、状況に応じて伸縮する組織とするなどです。このような動きが、必然的に組織や技術のオープン化を促進しています。
これは小さな組織どうしだけでなく、スタートアップ企業と大企業の連携という形もあります。例えばシャープは、量産や安全基準のノウハウをオープンにすることで、スタートアップ企業を支援しています。お互いにメリットがあるからこその動きだと思います。
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そして、小さな組織は意思決定のスピードが速い。開発を早くスタートできるとともに、開発段階でのPDCAサイクルも早く回せることが価値となり、それが業界全体にも良い影響を与えているのではないでしょうか。
3.求められる力
ではこのような動きの中で求められる個人の力は、どのようなものでしょうか。
A.リリースしながら改善を重ねていける力
長い時間をかけて、丁寧に仕上げてから世に公開するのではなく、短時間で仕上げて公開し、顧客の反応を見ながら軌道修正したり、可能性を探っていく力が求められています。手を動かし続ける力とも言えるでしょうか。
B.わかりやすく自分をプレゼンできる力
個や小単位がフラットにつながりながらプロジェクトを回していくケースが増えると、通常の組織外の人に自分もしくは自分たちのことをクリアに説明することが、うまく連携するポイントとなります。組織内であれば前提では言葉にせずとも伝わっていたことを、短時間で伝える必要があるからです。外部の協力者の共感を得るためのプレゼン力も必要とされます。
C.円滑にコミュニケーションできる力
Bと同様ですが、組織が小さくなればなるほど、「中の人」が少なくなります。常にアウェイを意識する?逆にどこでもホームのようにふるまう?スタンスはそれぞれで良いと思いますが、背景の違う人たちと連携する力がこれまで以上に求められます。
以前の投稿でも書いたように、背景の違う人たちとうまく連携できればイノベーションが起きやすくなります。
デザイナー+エンジニアが目標を共有したら?(BaPA卒業制作展) その3 - Arts in Schools
D.オリジナリティ
オリジナリティ=専門性ともいえるのかもしれませんが、学問領域だけでない専門性が求められるでしょう。専門性に加え知識や経験値を組み合わせる力、視点や着想の幅が広い、など、オリジナルを生み出す力も含まれます。
E.広い知識と技術
自分が考えたことを試したり、伝えたりする力も求められます。A、Bと重なる部分もありますが、自分で機械を操作する技術、モックアップをつくる、キャッチコピーをつくる、動画を編集してWebで発信するなど、その技術がプロの域に達していなくてもある程度のクオリティまでできる力がある人は強い。特に新しいものを生み出す際は業務の切り分けがしにくかったり、意図が伝えきれないことがあり、さまざまな手法を用いて完成図を描ける力があると、プロジェクトが円滑にまわります。
求められる力については、ものづくりだけでなく、他の分野にも十分通じますし、個が強くなるこれからの働き方を連想しました。同様に、デジタルデータ&共有、インターネットの発達による変化、オープンイノベーションの動きはもう他の業界でも起きていることですね。
今後はこのブログでも、特に教育現場でのそのような動きを紹介していきます。
また、このような力を育てるためにアートが果たす役割はとても大きい、と思っていますので、そのあたりもまとめていきたいと思います。
↓関連した過去の記事はこちらです。
パーソナルファブリケーションは、ものづくりをどう変えるか その1 - Arts in Schools
パーソナルファブリケーションは、ものづくりをどう変えるか その2 - Arts in Schools
信じて場に任せること―姫路市立姫路高等学校 探究活動発表会
3月25日(土)に、姫路市立姫路高等学校で行われた、探究活動発表会にうかがいました。こちらは、平成27年からスタートした「探究科学コース」で、年間を通して行われた探究プログラムの成果を発表するというものです。
探究は、高校1年生は基本的にグループでテーマのもとに、高校2年生は個人で、自由にテーマを設定して、進めます。
兵庫県立大学、株式会社アンドがプログラム開発、運営に関わられていて、私が昨年度見せていただいた高1の授業では、アンドの小野さんが全体のファシリテーションを、兵庫県立大学を中心とした大学生達がファシリテーターとして各グループに入っていました。全体で共有されたのは、これまでとこれからの検討プロセスのみ。他の時間はチームのためにしっかりとられていたのが印象に残っています。
↓その時の授業の様子。全体ファシリテーター、株式会社アンド代表の小野義直さんです。
探究について小野さんにお話をうかがったところ「僕は何もしたくないんです」という言葉がとても印象に残りました。これは、決して投げやりなセリフなのではありません。探究の主役は生徒達だから、小野さん個人としては何を探究してほしいか、というのはない。用意できるのは、安心安全な場と、考えるためのフレームで、あとは場に任せる、という方針を徹底されているんだそうです。
今回の発表を見せていただき、私はそれを痛感しました。
まずこちら、高校1年生の後期、国語班の発表です。
テーマは流行語なのですが、まず最初の検証、漢詩「春望」の書き下し文とギャル語、どちらがわかりやすいか。ポスターセッションで生徒さんが読み上げてくれたのですが、ギャル語まったくわからず。。。でもこちらのほうがわかりやすいという生徒さんのほうが多いということにびっくり。
また、こちらは高2生の後期の探究「住みやすい町について」の中で、外国人50人にアンケートをしたとあったので、一人でどうやって?と質問したところ、海外に行った時に友達になった方数名に、SNS経由でアンケートを送り、その方の知り合いに配布、回収したものが大半だそうです。驚く私に「時代ですかね」と生徒さんからさらりと返されました。。。
大人はつい、若い人たちにアドバイスしてしまいますが、それは大人のほうがより知っている、という思い込みに過ぎないのかもしれません。高校生に何がうけるかは、高校生のほうがよく知っているわけですし、SNSでのコミュニケーションだって長けているのかも。
全体発表でプレゼンをした生徒さんの気づきもとても共感できるものでした。
「彼ら(生徒さん達)は本当に素晴らしい」というのも、小野さんの頻出フレーズです。場とそこにいる人たちを信じて、任せる。心配性でおせっかいな私には本当に難しく感じるのですが、とても大事だなあとあらためて感じました。
方法をたくさん知っていることの強さ―船と装丁展より
先日東京の神保町で開催されていた「船と装丁」展に行ってきました。
グラフィックデザイン事務所「tobufune」の代表およびスタッフの方々が、船をテーマにした小説の装丁を、(仕事として発注されたわけでなく)自主的に行ったものです。
内部でデザインするだけでなく、絵をイラストレーターさんに発注し、それを装丁としてデザインし、用紙と印刷方法を決定印刷を発注する、という、本格的なものです。会場ではイラスト、デザインの展示とともに、実際にその装丁がかけられた小説を購入することもできました。
tobufuneさんの装丁依頼の7割はビジネス書や実用書で、残りの3割が絵本や参考書、専門書など、小説の依頼はほとんどないそうです。ならばクライアントがいなくても自分たちでつくろう!ということで、今回の展示が実現したそうです。その心意気にまず感動したのですが、さらに面白いな、と思ったのは、tobufuneの方々のデザイン力と、紙や印刷に関する知識の深さです。いくつか作品を紹介しますね。
まず「ドリトル先生航海記」。イラストレーターさんのコラージュを使った作品これだけでも十分楽しい雰囲気が出ているのですが、
さらにカラフルな文字を重ねることで、よりポップで楽しい雰囲気が出ています。
タイトル文字は手書きをトレースしたものだそうです。また、よくみるとタイトル文字は半透明でぷくっともりあがっています。UV厚盛加工という印刷方法だそうです。
こちらは蟹工船のイラスト。オホーツクの荒波を表現しているそうです。
これにカラーと独特の文字を加えることで、より迫力が出ていますよね。
そして、印刷の質感に一番驚いたのはこちらです↓
原画が、アクリルガシュという、筆跡が残るような絵具で描かれていて、それを印刷でどう表現するかというと。。。
↓こちらです。写真だとわかりにくいかもしれませんが、ちゃんと触って筆跡が感じられるんです!
これは、まず、紙に白のインクで筆跡を印刷した後、その上から絵を印刷したそうです。他にも、銀色紙にその下地の色も見せながらインクを重ねたり、発泡印刷という、ぼこっとしたインクののせ方をしていたりなど、本当に多彩で豊かな表現がありました。代表の小口さんにうかがったところ、国内の印刷手法として、紙と印刷方法の組み合わせで100種類くらいはご存知ということでした。イラストレーターさんについては聞き忘れましたが、こちらもたくさんの選択肢をお持ちなのでしょう。
2次元での表現はもちろん、それにどういう技術を組み合わせれば、イメージに近いも
のができるのか、その解決方法をたくさん知っていることが、tobufuneさんのプロフェッショナルなところなんだなあ、と思いました。方法をたくさん知っていることは、表現や思考を自由にしますね。
今教育業界ではアクティブラーニングの議論の中で、思考力、コミュニケーション力だけでなく、そこで使える知識のインプットも必要だという主張があります。まずはインプットという考え方もありますが、知識の必要性を感じてからインプットする、という考え方もありなのではないかと思います。「イメージ通りの表現」という目的があるからこそ、小口さんはたくさんの手法をインプットできるのかなあと思いました(推測ですが)。
↓tobufuneさんのホームページは、こちらです。
「どうやってできているのかな?」と考える力の大切さ―植松努さんの講演会より
先日、社団法人ライフナビアカデミーさん主催の植松努さんの講演会に行ってきました。写真は会場の大阪市中央公会堂です。
植松電機の社長、植松努さんは、子どもの頃からの夢をかなえるべく、自社でロケット開発をし、成功された方です。それだけでなく、子どもたちが夢に向かって生きていけるよう、全国での講演会やロケット教室を通して、それを伝える活動をされています、
「どーせむり」というのは人の可能性を奪う言葉、「だったらこうしてみたら」という言葉こそ、情報や選択肢を増やし、夢に向かっている人の背中を押すためのアドバイス。やったことがないことは失敗する、でも失敗は成功のための大切なデータだから、失敗を責めるのではなく、失敗前提で試行錯誤するというお話、とても共感できるものでした。
私が会場に着いたのは、開演30分前でしたが、すでに演壇で準備をされていた植松さん。数多くの講演を行われているのに、こんなに一つずつ丁寧に準備をされることにとても驚きました。そして小学生の子どもと一緒に参加したのですが、子どもにも大人にもとってもわかりやすくお話ししてくださいました。
実際に聞いたほうがより深いお話が聞けると思いますが、TEDの動画も貼っておきますね。
↑植松電機さんHPより。世界に3つしかないというロケットの発射実験棟。試行錯誤をしながら、自前でつくられました。今では大企業やJAXAも使用しているそうです。
ものづくりにずっと関わっていらっしゃる植松さん、その原体験は子どもの頃にあるそうで。植松さんの周りには、職人さんや大工さんが身近な大人として多くいて、「みんなが使っているものは全部、普通の人が作り方を学んでつくっているんだからね」と、教えてくれたそうです。また、プラモデルを買ってもらえなかった植松さんは、ペーパークラフトで車などをつくり、それがロケットづくりに生きているそうです。
何かほしいものがあったとき、お金で手に入れなければ買えない、ではなく、「つくり方を覚えれば自分でつくれる」と思えることって、本当に大事だなあ、と、植松さんのお話をうかがい、あらためて思いました。もちろん、作り手としてのプロは貴重な存在で、たくさんの経験に基づいた技術を、私たちは買うのだと思うのですが、「どうやってできているのかな」「自分にもつくれるかな」というマインドが、大事だと思うんです。このマインドがあって初めて、試行錯誤が始まると思うので。
先日1→10driveの森岡さんにお話を伺った際、ゲームの技術が上がりすぎて、子どもたちが自分も作り手に回れるかも、と思えなくなっている、というお話をうかがったのですが、ゲームも、おもちゃも、技術が上がりすぎて、加えて結構簡単に買ってもらえる環境があると、「どうやってできているのかな?」と思えなくなってくるかもしれないですね。なんとかそう思える環境を準備してあげたいなあ。まずは子どもにおもちゃを与えるのをやめようかな、なんて、思いました。
↓植松電機さんのHPはこちら