パーソナルファブリケーションは、ものづくりをどう変えるか その4
みなさまこんにちは。今年の初めから、パーソナル・ファブリケーションの可能性を探求しています。探求しているうちに、スタートアップや、UXに寄り道をして、パーソナルファブリケーションという言葉の範疇からはずれかけていますが、あえてあと2回継続します。
「Fab Life」「MAKERS」に続き、読んでみたのがこちら。
「メイカーズ進化論-本当の勝者はIoTで決まる」です。
小笠原治さんは、株式会社ABBALab代表。「DMM.Make」という、秋葉原にある、ものづくりの拠点の立ち上げにかかわった方です。
そんな、インターネットやファブリケーションに精通されている小笠原さんが、今の時代の「モノ」をどうとらえるべきかをわかりやすく解説してくださっています。「MAKERS」にもある、インターネット時代のものづくりの特徴、なぜ少人数、ファブレス(工場を持たない)で製品をつくることができるようになったのか。モノ時代がインターネットにつながると、どうなるのか(IoTとは何か)について、それぞれわかりやすく解説されています。
個人的に面白いと思ったのは第2章のモジュール化の話です。以前であれば、例えば何かをつくるのに通信システムを1からつくり、何度もテストしなければならなかったのが、今は Brue Toothモジュールを買ってきて組み合わせることができてしまう。これも、一種のオープンソースですよね。
また、ロボットがほとんどを占める工場では何が起こるのか、立地や環境などの視点からのお話しも、面白かったです。
デジタルファブリケーションの世界には、ものづくりだけでなく、私たちの未来の働き方が潜んでいるなあとあらためて。
興味を持たれた方は
「Fab Life」「MAKERS」「メイカーズ進化論-本当の勝者はIoTで決まる」の順番で、ぜひ、読んでみてください。
デザインとは何か?デザインを学ぶ意味は?
最近ブログのタイトルに、「デザイン」という言葉を入れることが多かったかなあ、と振り返って思うと同時に、デザインってタイトルにあったけど、ブログの中身のどこがデザインなの?という受け取り方もあるのではないか、と思ったりしています。
かっこよいレイアウトとか、素敵な色の配置も、もちろんデザインと呼ぶのですが、人の行動や何か事柄を組み合わせること、場をつくることも、私はデザインと呼んでいます。
感覚的に使っていたデザインの定義を、京都造形藝術大學 准教授の早川克美先生が、
【デザインへのまなざし】オンライン講座の中で、とてもクリアに表現してくださっています。今までデザインというものを身近に感じていたかたも、デザインと聞くとちょっと苦手意識が、というかたも、すごくすっきりできる内容だと思います。
こちらのgaccoというサイトで、
「デザインへのまなざし 豊かに生きるための思考術」と検索してみてください
動画閲覧は、無料です。一つの動画が数分ずつなので、見やすいです。
講座の中では、デザインを学ぶ理由についても触れられています。
「自分の力で創造的な活動を実践できるようになる」
「既存のあたえられたものや、ことにかたよりすぎないで、自立することを目指す」
デザインを学ぶことは、自立することにつながるんですね。
この機会にぜひ、デザインについての思考の整理をしてみてください。
イノベーションを促進する場のデザインとは?(Hack Osaka レポート2)
前回に続き、Hack Osaka Stage areaのレポートです。
↓前回はこちら
これからの社会で求められる、デザインの能力とは?(Hack Osaka レポート1) - Arts in Schools
Engine Shed(エンジンシェッド)のディレクター、Nick Sturge(ニックステージ)氏の講演がありました。タイトルは、
「Enabling a culture of innovation, what has 800 years of trade taught us」
でしたが、特に、イノベーションを促進する場のデザインが、面白いと思ったので、ご紹介します。
エンジンシェッドは、イギリス南西部、ブリストル市にあるイノベーションハブで、ブリストル大学のビジネスインキュベーターからスタートした組織です。ブリストル大学で支援を受けて起業した学生達が、ブリストル市内にとどまってくれるようにと、ブリストル大学と行政が連携し、つくられました。
大学で電気とテクノロジーとエレクトロニクスを専攻したステージ氏は、テクノロジーに関わる会社、ビデオフォンの会社などを経て、現職はエンジンシェッドで、ディレクタ―として、企業や個人、行政をつなぎ、イノベーションが起こる支援をされています。
「イノベーションのエコシステムをどううまく回していくか」というのが、エンジンシェッド、そしてステージ氏の課題だそうですが、そのためには、中立な場づくりとともに、
自信(にあふれた個人)、行政、ビジネスの良い関係構築が必要ということです。
お話を聞いて面白いなと思ったのは、個々人のセルフコンフィデンス=自信が強いほど、イノベーションが促進される、という考え方です。人は自信を持っていると、アイディアを表明することに抵抗がなくなる。すると、エコシステムの中で行政や企業とコラボレーションをしやすくなるそうです。これは、行政の中の個人、企業の中の個人についても、同様に言えることだと思います。
私はこれまで、自信は個人の行動や気持ちを後押しするものだと認識していました。でもたしかに、その先には、他の人たちとの協働や、対等なコミュニケーションが、生まれますよね。
もうひとつ、ステージ氏の役割は、2つの異なるものの間にテンションをつくリだすことだそうです。コミュニティ間、カルチャー間、クラス間でテンションをつくりだすこと、それがイノベーションの1つのポイントだそうです。テンション、どういう日本語がぴったりくるのかわかりませんが、良い緊張感、関係性ということかな?
コンサバティブな都市からコラボティブな都市に変わることを目指す。
投資家、インキュベーター、大学が、協力すること。
中立な場と良い関係性をつくり、イノベーションを加速すること。
起業家や個人だけでなく、これが様々な企業とも行われているということで、場や関係づくりのプロセスについて、もっと知りたいなと思いました。
また、次に登壇されたピッツバーグの例もそうでしたが、大学がエコシステムに入っていて、内容的にも人材的にも良い役割を果たしているのではないかな、と感じました。
これからの社会で求められる、デザインの能力とは?(Hack Osaka レポート1)
2017年2月9日、大阪で行われた、Hack Osaka というイベントを見学させていただきました。
Hack Osakaとは、大阪イノベーションハブ(Osaka Innovation Hub)さん主催の、大阪でのイノベーション創出を支援するためのイベントです。講演の登壇者も、後半のピッチコンテスト出場者も、参加者も、大阪の方だけでなく、日本はもちろん、色々な国から参加されていて、基本英語で進行されるという、国際的なイベントでした(日本語のサポートもありました)。
今年で5回目の開催だそうですが、テーマは「イノベーション文化を創る『デザイン』の力-The Power of Design for Innovative Culture―」でした。イノベーションという文脈で、デザインについてどんなことが語られるのかが知りたくて、参加しました。
私はずっとStage Area にいたので、そちらでの話をレポートしていきますね。
まず、最初の登壇者は、株式会社グッドパッチ 代表取締役社長の土屋 尚史さんでした。
28歳でサンフランシスコに行き経験を積み、5年前に東京で起業し、5年で100人のデザイナー、エンジニア、PMを抱える会社を経営されています。
まず、最近の傾向として、大企業がデザイン会社を買収するケースが増えている、と土屋さんは指摘します。そしてそれは、シリコンバレーのTec企業、Google、Adobe、Facebookから始まったそうです。また、近年成功するスタートアップは、デザイナーが創業メンバーに入っているケースが多いそうです。
ではなぜ今デザインが注目されているのか?
その理由を土屋さんは「情報にあふれ、混沌とした社会、選択肢の多い時代だからこそ」と、結論づけます。
つまり、プロダクトの価値がexperienceで判断される時代になった今、プロダクトのUI(ユーザーインターフェイス)、UX(ユーザーエクスペリエンス)が、成功のカギとなり、そこをきちんとデザインできるデザイナーが求められている、ということです。
例えば、旅行者と宿泊場所を提供したい人をつなぐサービス、Airbnbは、サイトのデザインはもちろん、「ゲストがホストをより知る」ためのデザインがうまくできているからこそ、成功を収めているそうです。
デザインソフトが使いこなせ、見た目がきれいなものがつくれるだけでなく、ユーザーの行動や経験をデザインすることができ、また、ユーザーの声を聞きながらつくりこみができる人が、デザイナーとして求められている、ということなんですね。
デザイン変革は、見た目の話ではなく、デザインによって、人々の感情や行動様式を変えるということ、そして、経営者がそういったデザインの重要性に気が付き、投資ができるかどうかが、これからのビジネスでは大切だ、ということでした。
土屋さんのお話をうかがいながら、このデザインの定義の広がりについて、考えていました。おそらく今デザイナーに求められている力は、これまでも、優れたデザイナーが持っていた能力です。だから彼らにとっては、表現の場が増えた、ということなのではないかな、と思います。ではそれはどのような教育で身につくのか。思考法のインプットが先か、試行錯誤が先か。また、仕事としてデザイナーを目指す人が増えたら、教育はどんなふうに変わるのか。
みなさんは、どう思われますか?
デザイナー+エンジニアが目標を共有したら?(BaPA卒業制作展) その3
先日、京都五条のMTRL京都で行われた、
BapA3期生京都チームの卒業制作展と、プレゼンテーションを見学させていただきました。
デザイナー+エンジニアが目標を共有したら?(BaPA卒業制作展) その1 - Arts in Schools
デザイナー+エンジニアが目標を共有したら?(BaPA卒業制作展) その2 - Arts in Schools
第3回は、1→10drive森岡さんのお話を中心に、ものづくりの新しいあり方を考えます。
京都で行われたBaPA京都チームの卒業制作展では、
制作チームによるプレゼンテーションがあったのですが、その前に、BaPAの講師であり、1→10drive, Inc. - ワン・トゥー・テン・ドライブのCTO、森岡東洋志さんの講演がありました。
デザイナーとエンジニアの協働とはどういうことか、わかりやすく説明してくださったので、ご紹介します。
森岡さんは、1→10driveのCTOとして、様々なプロジェクトにかかわられています。以前はソフトウェア開発のエンジニアをされていたのですが、現在は、技術をベースに、もっと広い領域で、テクニカルディレクターという立場でお仕事をされることが多いそうです。
最近のお仕事の一つとして紹介されたのが、GUM-PLAYというIoT家電です。
これは日ごろの歯みがき習慣を「やらなくちゃ」から「やりたい」に変えることを目的として開発された製品で、歯ブラシの柄の部分に取り付けたGUM-PLAYをiPhoneのアプリと連動して磨き方をチェックしたり、楽器が演奏できたり、モンスターをやっつけるゲームができたりする、IoT家電です。
この開発は、最初の段階から、森岡さんと、PARTYのクリエイティブディレクター伊藤直樹さんの共同開発が行われています。なので、例えば歯みがきで演奏ができるようになったら?というアイディアも、デザイン側、エンジニア側のどちらかから出てきた訳ではなく、どんなことができるのかを一緒に試行錯誤したからこそ、出てきたアイディアです。アイディアが最初から出そろっていたわけではなく、プロトタイプをつくりながら、アイディアを整理していく、という進め方です。
これって、BaPAのコンセプトと同じなんですよね。これまで多かったつくられ方は、コンテクスト=コンセプトが先にあり、それをデザイナーが設計し、エンジニアが具体化する、というものでした。きっとその間には「発注」というプロセスがあり、指示する側とされる側の立場で、指示通りにつくり、指示通りにできているかのチェックをし、という、上流から下流への工程があったと思われます。
近年この工程を誤解なく、スピーディーにつくるために、「アジャイル開発」という、作成過程でプロトタイプをつくり、テスト運用をして改善をしながら進める、という仕組みが使われはじめています。
森岡さんが関わる仕事やBaPAのプロセスはさらにちょっと違います。
プロジェクトのスタートのところから、デザイナーとエンジニアがチームに入り、コンセプト構築と技術開発を同時に行う。異なる専門性を持つデザイナーとエンジニアが目的を共有してアイディアを出し合うことにより、どちらか一方だけが考えるよりも幅の広いアイディアが出せ、実現可能性も高まる、というメリットがあります。そして、GUM-PLAYは、とにかく、楽しそう!歯磨きについての課題をただ解決するだけではなく、「こんなことできたら、面白いんじゃない?」といったように、「楽しい解決策」が考えられているなあ、と思います。
BaPAのチームでも、デザイナーとエンジニアが混在したチームで、まず全員で街歩きをし、感じた事を共有しあった上で、どんなものをつくると、歩くことが楽しくなるかについて、一から一緒に考えているからこそ、面白い企画がたくさん生まれたのではないでしょうか。
このような仕組みにすると、イノベーションが起こりやすくなる一方で、デザイナーにもエンジニアにも、これまでよりも広い範囲で物事を考える力が必要となってきます。デザイナーは、「きれいにかっこよく仕上げる」ことだけでなく、その製品やサービスの使われ方や、使う人の体験もデザインする力、エンジニアは、具体化された要望ではなく、もっとふわっとしたニーズに、どう技術的な解決が出せるのかを考える力、そういったものが求められてきます。
そして!これって、ものづくり以外の世界にも、応用できますよね。オーダーや注文をまっすぐ流して運用するだけでなく、関わる人全員が目的を共有して、アイディアを出し合う。そして、それぞれの専門性は大切にしつつも、遊び心を持ち、お互いにちょっとリーチする。
どんな領域でもそれが実現できると、イノベーション、起きやすくなるのではないかな、と今回あらためて感じました。
デザイナー+エンジニアが目標を共有したら?(BaPA卒業制作展) その2
先日、京都五条のMTRL京都で行われた、
BapA3期生京都チームの卒業制作展と、プレゼンテーションを見学させていただきました。
デザイナー+エンジニアが目標を共有したら?(BaPA卒業制作展) その1 - Arts in Schools
前回に続いて、作品紹介です。
こちらは、「京T」。京都の町を、よく知っている人に解説してもらいなが歩いたほうが楽しい、というコンセプトのもとつくられたTシャツです。よくみると、芸者さんの口にスリットが入っています。GPSと連動していて、おすすめスポットに来ると解説をしてくれるそうです。
↓動画はこちら。
続きまして「てくてくみっけ。」
子どもたちと一緒に楽しくお散歩するためのアプリで、好きな色や形を親子でハンティングするアプリです。もうすぐ一般向けにリリースされるみたいですよ!私も子どもと使ってみたい!
こちらを見て、体験をデザインするって、こういうことなんだなぁ、と思いました。
そしてGOLDを受賞された、「HANAMACHI POKKURI]
舞妓さんが一足踏み込むごとに、地面に花の映像が広がるという仕組みです。iPhoneとプロジェクタが内蔵されていて、踏み込んだ時にきれいに映像が広がるように、
試行錯誤が重ねられたそうです。
まさに技術とデザインのコラボレーション。そして、実際に京都の町で撮影をしたところ、多くの観光客の方達が楽しまれたそうで、それを使う人だけでなく、見る人の行動まで、デザインされているんだなあ、と感じました。
そしてどのチームも、仕事もしながら、約3か月でこれらの作品を完成させるって、すごくないですか!?参加資格が33歳以下というのは、体力的な要件もあるのかもしれませんね(笑)
デザイナーとエンジニアがコラボする意味について、色々なことが見えてきましたが、もっとよく理解するため、BaPAの講師である、1→10drive CTOの森岡さんのお話しをご紹介しますね
↓つづきはこちら
デザイナー+エンジニアが目標を共有したら?(BaPA卒業制作展) その3 - Arts in Schools
デザイナー+エンジニアが目標を共有したら?(BaPA卒業制作展) その1
みなさまこんにちは。清水です。
先日、京都五条のMTRL京都で行われた、
BapA3期生京都チームの卒業制作展と、プレゼンテーションを見学させていただきました。
BaPAとは、PARTY(- PARTY)と、バスキュール(Bascule Inc.)が始められた、デザイナーとエンジニアのための学校です。
「もしデザイナーとエンジニアが一つの目標を共有し、アイデアから実装までの全てのプロセスを、対等な関係で作りきることができたら、全く新しい領域の体験を生み出せるはず。」というコンセプトのもと、33歳以下の学生、社会人を対象として始められました。期によって多少機会は違いますが、3~5か月間で課題テーマに基づいた作品を作り上げます。数名ずつのチームに分かれて作業を進めるのですが、BaPAのコンセプトのもと、1チームには必ずエンジニアとデザイナーがメンバーとして入ります。
↓BaPAのホームページはこちら
今までは東京のみでの開催でしたが、第3期は京都でも開講され、今回見せていただいたのは、京都の4チームの作品でした。
今回のテーマは「日本を歩く」です。
私は第1期の発表も渋谷で見せていただいたのですが、また違った面白さがありました。
まず、「KIMONO-U」
アルファベットで自分の名前を入れると、オリジナル着物をデザインしてくれるシステムです。
私もトライしてみました。
名前を打ち込むと
自動的に漢字があてはめられます。
名前が紋のような模様に置きかえられ、苗字に色が割り当てられます。
苗字の文字数により、模様が変わります。2文字だと市松、3文字だとストライプだそうです。
できた!「夜」と「湖」の模様が入っているの、わかりますか?50音+濁音分、紋のデザインがあり、どれもとてもかわいいのです。衿の部分に文字も入っていますね。
京都に旅行する前にあらかじめ注文しておき、これを着て京都の町を歩いてもらうことを想定しているそうです。
↓つづきます。